熊笹の獣道を誰かが歩く
うっかりと穴を踏み抜く
ガサ
滝つぼに落ちたあと爆発音がして
誰かの身体はもう粉々
自分のなかにはそんな穴があって
胸に手をあてたとき
大きくもないその手はすでに ....
雨の滴が欲しい
しばらく見ていない
しばらく打たれていない
乾いた心を潤して
満たして欲しい
意味はなくていい
ただなにかを詰め込んでいたい
いまはそれだけでいい
ただそれだけでいい
....
雨降る夜に
孤独を曝し
けぶる地平へと
走っていく
滾る思いを
冷雨に濡らし
救われないと分かっていながら
逃れられないと分かっていながら
夜闇のなかを走っていく
ひたすらに、 ....
ふうと息をつく
青空の下
草むらの上
砂の城を向こうに
ため息ではなく
影を探す
動き出しそうな遊具が
無表情に輝く
土曜日の朝が終わる
誰何する声のさなかのスイカ割り
数式といっしょになったお葬式
お惣菜コーナーにある物心
思い出す泥の匂いと冷たい火
「あぁあ、こんな地方の駅前で
テレビ局ですが
家ついて行っていいですか?
なんて言われない限り
うちらの世界は変わんないよね」
「でも、見せるものもないよね」
「そうだよね
全 ....
これから始まる学芸会
ゆっくり幕が開きはじめ
可愛いあの娘はお姫様
憎いアイツが王子様
僕は一人で暴れ出し
舞台の裏では大騒ぎ
王子と姫は手を取り合って
舞台の上では ....
地球儀から
中心を貫通している棒を引き抜き
棒を支えていた台を外してしまえば
残るは球体
蹴飛ばしてしまえば
あるいは空に投げ上げてしまえば
地球の中心を超巨大な棒で貫通させて
....
夜虫の声に涼しさを感じながら
宵闇の日本海に車を走らす
水平線が朱に交わりながら
宙は名月の忠節を保っている
寂れた街に生きてきて
定めに逆らおうと声をあげた
....
現象として
秋らしい
すごしやすい夜
独り
古臭い記述を読む
妻を殺した哲学者か…
なあに
21世紀初頭
政治家の無策で
何人殺されたのだ
独り
闇を吸う
不正義の世を
ゼラチンの眼を埋め込み
小陰にゆれる花の路を
くしゃみのように
承認のためのいいねを
三度繰り返し
地上の雲に巻かれ
頬をかすめた秋の風の中
きえていく歌を聞 ....
詩人の肖像は
誰にもわからない
あるときは
長く執拗な夏
異教徒の祈り
暮色の岸辺の苫屋の
清貧という夕餉
園遊会での貴婦人の
緊密なコルセットの誘惑
屋根裏の経済 ....
肩を抱きたい 肩を抱きたい、
麦わら帽子 夏のワンピース 黒髪
もてあます上唇を
さらにもてあます下唇が支えている
清楚な肉厚の均衡
開かれて不意にホワイトニング 鈴の音のようなホワイトニン ....
肘が曲がらない
腕を伸ばしたいのに
天へと向かって
小指はしっかりと
爪の先まで伸び切って
攣りそうなくらい
震えだしそうなそれは
曲げられない肘を責めたい
昔、タバコはやめたと書いたことがある
やめたほうがいいですよとまで
吸ってるじゃないですか
あの時はやめてたんだよ、ひと月くらい
そしてやめたと書いたことで
こぼれ落ちるものがある
....
「孤独死」とまるで孤独でない生や死があるように言われましても
絡まるイヤホンを揉んで
非接触に移行できない未熟な時間
あの日から
私の恋愛のシャッターは
下ろしたまま
もう二度と
上げることは無い
永遠に
夜のもの夜にしかない星空の悩みの中で生きる人々
新しい結婚式場次々と式を挙げない若者多い
文通が何十年も続いてる子供のことや世の中のこと
作ったことない料理にも挑戦し失敗と言える失敗 ....
二〇一七年十月一日 「蝶。」
それは偶然ではない。
偶然ならば
あらゆる偶然が
ぼくのなかにあるのだから。
二〇一七年十月二日 「「わたしの蝶。」と、きみは言う。」
....
晴れた日の海のような青
遠い島まで泳いで行けそうな空
台風の落としものを拾う子ども
背中には
期間限定の羽
台風が去った朝に
台風の行方を考える
身軽なようでいて
実は
ひと ....
しずしずと夜が明けてゆく
早朝からクラッシックを流している
近所迷惑な騒音の確信犯だ
ただのPCスピーカーだけど
サブ・ウーハーを備えているだけあって
ハーマン・カードンの電気クラゲは
か ....
秋口が開き
無辺の静かさ、響く
赤々と彼岸花咲く土手の向こうから
手招きするように
ゆっくりと、ゆっくりと
)もうはっきりとは
)思い出せない過去がある
)色褪せながらジリジリと
....
KAMAKIRIの雄に生まれなくて良かった
KAMAKIRIは雌と雄が交尾した後
雌が雄を食べてしまうらしい
俺がもしKAMAKIRIの雄に生まれてしまったら
一生童貞通さなければと思って ....
壊れる前に補修するのは
もったいないから
壊れるまで使う
もったいないオバケが
救うべきは
もったいないオバカだ
アルマイトの弁当箱には
頭の焼け焦げたメザシが
白い飯の上に載っていた
梅干しが隅に添えてある
崩れた厚焼き卵もあった
新聞紙に包まれた弁当は
開ける前から魚臭かった
あまりにも見栄えが ....
もういいのです
きみは鼻血をださないように
恋も科学なのです
かったるいものもぶっ飛ばして
でも恋は愛よりもましかもしれません
たくさんの恋の集積と
未知の涙や動揺とともに
初め ....
順々に
液状の名詞が
格子に垂れてしたたる
世界のおおよその大きさが
張られている 複数の 頭蓋
額縁にぶつかり 欠けてしまった
顔のような 意味
....
良かった
猫を見た時の私の思いは
可愛い だったから良かった
私の中にあるそれは
確実に私のものだ
それは絶対に
誰にも奪えないものだ
驚いた
仕事でミスをした時の私の思いは ....
そうやっていつも気づかないふりで逃げる
上手く逃げたと思っていても
いつかは対峙する時が来るものだ
ひとり
佇んでいたプールサイドは
夏の光に汚れて立つのがやっとだった
きみが
手のひら ....
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