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自分だけがまちがっていることを
信じてはいても
わたしには疑念などなかった
ただ父は
大抵開けぐちが分からなかったので
最後にはいつも口をつかっていた
色のぬけ落ちた昇降口で
晴れた ....
一粒の滴りを待つ
張りつめた液体の緊張感
揺すられてこぼしたくない
あと一滴であふれ出したい
風のにおいを嗅ぎ分けて水辺を目指す獣
求めるものは
水ではなく
ただ己が
命である事
....
泣く女
泣く女は階段の下で
セーターを編んでいる
赤い毛糸と緑の毛糸で
哀れな女
シンデレラは靴の片方をなくした
シンデレラは靴の片方を探している
シンデレラは義足の片足 ....
みずたまりにうつる眼のふかさを知った
それは空腹をうったえていた
またたくと俤もきえた
あさましいおまえを
最初からさいごまでみつめてた
・
月を投げる所作で骨を嬲る
あなたよ
速度を落とし日に暮れ呼ばれ遊ぶあなたよ
春が待つようにして 白く落ちた嘆きがあるのだ
知らずして手をやる 水に揺れたのは破片であったか
....
神様をよくみたら
ソリトンだった
果物ナイフできみの
胎のあたりをちょっと切ったら
どろどろとした詩がこぼれてきた
その飴色の液体は
ぼくの手のうえを這い
フローリングに落ちて広がった
....
早く死ねばいいのに死なないのは嫌がらせなのかと
1日3回言われることになった
めがねをかけた
細い男から
いわれる
だから殴り殺すのが
いちばんいいが
だめなので
できない
....
玄関が開いても
わたしではない
ので
もどす
お昼に食べた
おとうさん
おかあさん
ひとしきり泣いたあと
ゆっくりと暮れる
そういえば
今日は人死にがある ....
*
ギターの弦をはらう (音が鳴る)
柄(ネック)をたたく(音が鳴る)
ギターの腹を起こす (トントン)
背中をひっくり返す (ふくよかな音が)
響 ....
学校帰りの
黄色い子どもたちが
葉桜の大きな
大きな陰をこえると
もう
すっかり
おとなになってしまった
フェットチーネがおいしいのは誰のせいなのか
という設問に対してウィットに富んだ
受け答えをしないと
面接試験で落とされることがわかったので
ひと晩対策を考え
当日
豚野郎のせい
....
ぼくらは両の手足と口で其々の聖書と夜を持つ
自愛の絹の帯で隔てられた小宇宙のなか
滑らかなつめたさにあやされて歌い
明日を諦める
朝を祈りながら憎み二度と望まないと誓う
私がまだモクセイ科モクセイ属の常緑小高木だった頃
女は窓に立つ鳥でした
私がまだ荊のような神聖さを保っていた頃
女は鳥をやめ風景になりました
そんな女が周期的な区分でグラデーションを繰り返す間 ....
五月の橋の上で
生まれ変わったら
何になりたいと聞かれた
ねことか
とりとか
雨の日の林の中の
きのこ
なんてどうかなあ
ぷつぷつとうたうたう
春の腐植の土たち
立ち上がろ ....
きみの部屋は
病室のような匂いがした
八月も十二月も
おなじような匂いがした
気の遠くなるほどたくさんの
交わりの匂いがした
病室の匂いがした
だ ....
スロープが設置され
単離された感情が乗って行くスロープ
サングラスが監視する目を伏せ
切り刻む風景を随時放り込む
横縞の観覧車が上下に回転する
警笛がしずかに
きわめて静かに鳴っていく ....
父は木製
母は金属製
そんなわたしの骨は木製
そしてどこか金属製
寄り添う啄木鳥
蝕む啄木鳥
偶然かわいい一羽くらい
薄い音を鳴らすときどき
黙る木製
黙る金属製
そんなわ ....
ベースギターの練習をしている最中に鬼が来て
私を殺そうと金棒を振りおろした瞬間に手を滑らせた
私は即座に金棒を確保し鬼を制圧しようと試みたが
あろうことか鬼は私のベースギターを手に取っている
....
い きながら えて
いきながらえ る
いき ながらえ て
いきながらえ る
いきな がら えて
いきながらえ る
いきながら えて
いきながらえ る
卵に言葉を教えた
教えた言葉を
卵はすべて覚えたけれど
口がなかったので
話をすることはなかった
雲が形を変えながら
夏の空に消えていく
わたしが生まれてから
何度も見たそ ....
わたしのむねのおくをのぞいて
ひとよりすぐれているといふ
じぶんをみつけてぞっとした
つくえのひきだしがちゃがちゃで
だいじなノオトがみつからない
いいこといっぱいかいてたの
それはひ ....
星空をみてた
指で細い線を描いた
流れ星をみた
折れた花の茎のように
頭を垂れた
空が白む頃
帰りそびれた月が
少しだけ
....
あらゆる情念は鳥のように去りゆき、今やもう海の彼方
きみの温めた卵はもう何処にも見当たらない
いづれ粉砕されるのを知りながら体温を分かち
最後まで希望と名付けることはなかった
そんなきみの熱情 ....
『心を打たれろ』
そう書かれた紙を僕に見せて
君はこう言った
『詩を書いてみたんだ』
僕は成程本当の詩とはこういうものだったのだなと
妙に納得して ....
紙切れを全部
宝石にかえてしまって
世界から落とすと
もうひとつの世界では
踊るヒトデが
それを重しに
深海に沈んでいく
雨が強くなり
森が海に呑まれる
木々の繊維が悲鳴をあげ
窓枠がかすかに共振する
死に向かう命の塊を
やはらかに包んで緑は
夜闇の中で黒と見分けがつかぬ
音がなくなれば沈黙は意味を失く ....
先生はもう液状になって
黒板の海を
白墨で汚している
本当は海の生き物たちが
みんな住んでいたはずなのに
僕の皮膚には朝から
いろいろなものが刺さって
痛くはないけど
....
嫁が欲しいが良縁がないので
この際もう人でなくても良いと思い
皮付さきいかを嫁として迎え入れたが
晩酌のつまみをうっかり切らした際
ほんの出来心で嫁を食ってしまった
以来わたしは嫁殺しの罪を ....
かび臭い二月に始まる
情けない恋のうたをサチコに
ぼくはある日
茶色い少女に恋をする 髪も制服も靴下も
少女は教室で教科書をカバンに詰め
僕は黒板のようにそれを見ていた
せっかくの ....
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