水曜の午後は
bossa novaの和音に肘を抱えて
白い器の縁をみつめている
くるりと立ちのぼる
緩やかな湯気の香りで
部屋中を染める
耳からこぼれおちる
綿のようなものを
すく ....
指は
君の小さな生き物だった
どこか
遠い異国の調べみたいに
時おり
弾むように歌ってた
君が僕の指を食む
君が
少し子供にかえる
遠いね、
とだ ....
秋が空気を包みはじめている
なんだか最近いつも二人でいる
コーヒーにミルクしか入れない
薄いこげ茶って秋っぽい色
髪、伸ばしているの
首筋が寒いから
風が落ち葉を舞い上げて
ほっ ....
ジャガイモの皮を剥いたことある?
妻に尋ねられ
そういえば
記憶に残っていない
娘が小学校低学年のとき
いもの皮むき みんなでしたとき
血だらけになった男の子がいたらしいよ
娘が ....
ひとりで
回転寿司に行きますと
何周もしている
モンゴイカにふと
周回遅れのじぶんじしんを重ねて
真向かいの
ホスト風の男が
うにいくらと注文しているのを
同じ色の皿ばかり積む私は
....
駅へ向かう道すがら
はいいろをした四本足の生き物が
とぼとぼと歩いていた
( )駅では
列車が遅れていることをみんな知っていて
でも
みんな口をつぐんでいた
恋人たちは
別 ....
{ルビ呑気=のんき}な仮面を被っていても
ほんとうは
わたしもあなたとおんなじように
ひとつの大きい影を背負って
流浪の旅路を歩いています
木造校舎の開いた窓に
手を振って ....
コロッケは生活の象徴
雑然としたテーブルや
家族の遠慮ない声
今日という一日の繰り返し
晩ご飯はコロッケがいいな
ミンチとじゃがいも、あったね
二人でやると早いよね
....
九月
あなたが好きでした
あこがれの名ばかりを孕んだ
鳳仙花が弾けています
木の葉が
択んで
静かなところへ落ちつくように
黄金の峰からふく風がゆきます
夕暮れがやわく優しく
....
夢のように細い骨で
ぼくたちは生きてきたんだね
愛についてを乞うたのならば
骨と枯れても
幾千
幾憶
そこには声があった、と
想う
....
今にも崩れ落ちそうな
{ルビ脆=もろ}いわたしの内側に
いつまでも崩れずに立つ
たったひとりの人がいる
これは一体誰だろう
そこはいつも
清潔な湿度と
せつないじゅうりょくの
香りにみちている
身ごもったおんなたち
髪を横に束ね
しずかにもたれている
雑誌をうつくしく取りだし
うつくしくめくる
とろと ....
帰り道 君は南に私は北に 二人を分かつ夕暮れに秋
ロンハーの青田典子が好きと言い笑い転げる君が愛しい
疲れてる君の様子に少し似たスーツの上着抱きしめたくなる
ネクタイを慣れぬ手つ ....
湿ったソファーに沈みこんだ
少女の
くちびるからもれる
母音の
やさしいかたちを
泡にして
水槽のふちに
浮かべている
*
贈られた模型を
にこやかに受け取り
持ち帰って ....
哀しみのあなたの窓辺に秋桜いちりん
――凹
灰色に覆われた低い空に
押しつぶされて
想いと呼ぶには小さな
いくつもの欠片が
重たくなって
沈んでゆくだけ
雨ならなお一層
....
稲刈りをしたら稲についた菌が
米粒を石のようにころころにしたのが
意外と多く
出荷前に手作業でつまみだす
ついでにゴミも
ゴミ
と言っても うっと手が止まる
米の中 菌のころころと一 ....
眠れなかった寒い朝には
あったかいココアなんか
飲みたいな
ふたり
ひっついて
離れないで
パジャマ着たままで
そろそろ出かける時間だなんていいながら
はやく着替えなきゃなんて ....
見失う
三行の言葉
見失う
午後の光に
のばされる腕
花を
摘みとることなく摘みとる手
灯の上の灯の道
水の上にしかない陽とともに
水のたどりつくとこ ....
あいの里
しのつく秋の{ルビ雑木=ぞうもく}
湯ぎりのしずく
かじかむむねのめぐみよ
髪を結い
知らぬみちをぬけて
はにかむ街へ
いつか人とはぐれて
ふちにたたずむ
銀のあかりあ ....
て、手を伸ばして
やわらかくてをのばして
その、影
ぼくらに届いて
君は
ぬりこめられて
たいよう
やさしくしずみこみ
耳のあな
つぼみのように閉じ
ふとんを頭からかぶ ....
は
なので
しないでください
通りすがりの商店の
入り口の看板
赤い文字のところが脱色して
(何故たいてい赤なんだろう)
黒い文字だけが残った
「葉なので ....
『ころがるわ。』
みんなには内緒やけどな
うち、好きなひとおんねん
そう言って笑う
なぁ、なんで僕に言うたん
僕ほんまは君の事好きやねんで?
『ちゃうねん、あの、ちゃうねん』
....
あなたと
いつでも
たのしく
いれたら
包帯 が
巻かれた
そこから
光 が差し込むのならば
身体いっぱいに
包帯 を
巻いてやれ
もういいかい?
まだだよ
なんて二人して楽しかったね
だけど君に見つかったとき
言えなかったんだ
好きだって事
学生時代みたいに
遠くから眺めてそれだけで
僕ら幸せなのかな
走ってい ....
酔っ払って
海岸に
遠くの音
ひずみの向こう
波は立ったまま
立っている
寒いのは
恋人を連れていないから
あたたかい手を差し伸べる人を
遅くまで起きていても
誰も叱らない ....
延滞金さえ払えば帰さなくてもいいですか君 レンタルみたいに
したかった 最初で最後のセックスを 春には里に帰る君と
無人駅 待合室に金の沈黙 止めても君は笑うだけだろ
お ....
ぎらぎらと
眼の光る犬が
飼い主に首輪をつながれ
通りすぎた
わたしもあんな眼で歩き
いつも空から{ルビ観=み}ている飼い主が
今日という日にそっと隠した
見えない宝を ....
捨てられた便座の{ルビ蓋=ふた}が
壁に寄りかかり
{ルビ日向=ひなた}ぼっこしている
日射しを白い身に浴びて
なんだか
とても幸せそうだ
夜杖に狭間梳き
地より柔らかにうねりゆく朝もや
泊められていた火船
砥石の角をたち
白く月の望む腕に
かなえられて昇る
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