悲哀の音色と光の乱舞が
互いを完全に打ち消しあって
零れ落ちた沈黙に
回転木馬の夜がくる
めぐり、とまる
とまり、めぐる
繰り返されてきた物語はその結末 ....
うすむらさきの雲の向こうで
夕日がしずむ
水羊羹の表面を
スプーンですくうように
なめらかな冷たさを泳ぐ
信号機が ぱっぽう、と
くりかえし諳んじて
歩道橋はひとの重みにたわむ
み ....
夢が 微睡んでいる
緑の葉陰ものうく揺れる
やわらかな午後を
その瞼を 胸もとを つまさきを
うすい風が吹きすぎる
夢は そうして 自らを
夢みている あえかに甘やかに
その夢の ....
切り削る弦月は
生温かい月明かり
星の角先が知らぬ間、円みを帯びている
願いを込めれば
河瀬に
天の河の流れは淀み
瀞(とろ)に溜まった星たちが
あふれて
私(ここ)に落ちてく ....
ごむとびしてる
おねえさんとよんでいた
おんなのこは
いまはそこにいない
きんじょでくらすときいた
たんしんふにんの
おっとをまついえで
あいにいきたいけど
きょり ....
陽の沈む蒼白の空
壮麗な瑪瑙(るり)の雲は
銅青の空を梳(くしけず)る
私の額に
はらはら
それは震えて落ちてくる
もう構わない
歩いて
涙を流して
ぼんやり引っ込め、それでも
そ ....
幸せだったら
誰も詩など書きはしない
一文字でも
書いてしまえば後戻りのできない、
あなたは
詩人のはしくれ
行き場などない
銀河の小さな島宇宙に住まう囚われ人
詩人はだから、いつ ....
喧騒のなか
細い雨のメロディ
梢にしがみついて
姿を変えてみる
みんな
どこへ向かうのだろう
遠い、稜線をこえて
あしたも、あさっても
きゅうに
手をつなぎたくなって
あなたの ....
空の低いところ
まる が
貼り付くさま
きれい
薄紫の
ほくろ ぴたりと
空に寄り添って
引き摺られながら
消えた
また地面の下にゆくね
私の知らない裏側に
混ざりにゆくのね
....
荷を負う人々の足
裸足の足裏に小石のむごく食い込む
しかし頓着はない
人々が見上げているのは一羽の鷹
苦役に口を開き
前後の者を探す目は黄色い
荷の重さは刻一刻と変わり
頭上に日はな ....
わたしはちっとも朽ちない
咲いているあの赤い花のように
なぜわたしはいつまでたっても
朽ちていかないのだろう
食パンに生えたカビをまとっても
古くなるだけ
わたしは朽ちない ....
酒の呑み方を考える
田んぼに水が
入ったんだかどうなんだか
蛙の合唱を子守唄がわりに
うとうととしつつ我が生涯をなんとはなしに振り返り
いつの頃からか
我が人生 ....
健康な足音は一昨年の写真の向こうに逃げて行ってしまった
固まった笑顔は癖
すっかり 乾いてしまって
私の喉はもう唄わないのです
ドとレとミとファとソとラとシ
それぞれの変と嬰
舞台 ....
熱い靴底がどしゃぶりに冷やされて
フェンスを乗り越えた風が髪を濡らす
前線が停滞していますと
携帯ラジオが伝えるけどれど
停滞の下の僕の街は
なんて騒がしい夕暮れだろう
横向きに傘を差す人 ....
小さなまどから
両手を広げたら
境も {ルビ閊=つか}える枠もなかった
風は湿り気
きょうもいくつもの紙ふうせん
昇ってゆく
まだ、両手広げたまま 吸って 吐いて
十字架のか ....
わたしの中の真昼の闇
闇の中の狼の虹彩
虹彩の中のおまえの影
ふるえている
耐え切れない心を
掻き毟るための
1/4拍子を宿した指先
どうかわたしの爪を切っ ....
骨のような夏が街におりてくる
空はまぶしすぎて暗示しない
目を細めて輪郭や影を
確かな物にしようとしているだけで
湿った風は川からあがってくる潮の香りがする
どこか遠いところまでいつ ....
はしゃいだ頃を思い出しながら
あなたは静かに浜辺を歩く
海と陸の境目を
なめらかな曲線にしてゆく足跡
ふと立ち止まって拾い上げた貝殻に
ひとすくいの海水を満たして
あなたはそれ ....
考えてみれば終点の西高島平は
笹目橋のたもとにあるような駅で
我が家から結構近いところを走っている
はずなのだが印象が薄い
開業当時の電車はもう引退して
地方鉄道で第二の人生を送って ....
さといもの葉の上を
するんするんと滑ります
あ、
(あ、)
水滴、すいてき、てきてきてき、
曇り空の弱いひかりに
あなたの瞳はうるんできらめく
つかみどころのない
あいのことば
....
大切かどうかわからない記憶は
抱えていた膝小僧のかさぶたにある
転んだのは最近のことだったか
それとも遠い過去のことか
鉄さびのようなすすけた色は
かつて赤い液体であっただろうことを
....
「私の部屋には本の海があるの」
それは青くて透き通る綺麗な海で
触るととっても冷たかった
浜辺に腰かけて海を見る
彼女は僕を海に誘う
少し勇気を出して飛び込む僕
中はもっと綺麗だ ....
あの子が火の粒となって
どれだけの時代が過ぎただろう
三軒長屋の裏庭で
たわむれに散った線香花火の
ちいさな火照りから生まれて
むくんだ素足で まっくろな顔で
ふら ....
あなたの手をにぎる
一生懸命話しかけても
あなたは空の話ばかりする
あなたの手をにぎる
あなたは空を眺めているのに
まだうつむいている
あなたの手をにぎる
....
「いいこと教えてあげようか」
と、お姉ちゃんが笑う
夕暮れ時の部屋は
鮮やかなオレンジ色に染まり
「消しゴムに好きな人の名前を書いてね」
「それでその消しゴムを使い切ると」
....
ひとをまつと
もうこない
わすれていると
ひとはまた
まっている
まつということを
わすれた
ひとのことを
あんなに
ことばしか
なかったのに
うまれ ....
ねぇ
呼びかける
なんでもいいから
誰でも
花でも
木でも
鳥でも
空でも
雲でも
遠くても
ねぇ
呼びかける
声が ....
鈴が鳴る
鈴が鳴る
あの世と
この世が
繋がって
竿先
細かく
引き絞られる
鈴が鳴る
鈴が鳴る
掛かってしもうた
あの世のモノが
激しく
激しく
身をくねらせ ....
芸術家の名刺には絵が描いてあったらいいのに
プログラマーの名刺には数学が仕組まれていたらいいのに
ミキシングエンジニアの名刺からサウンドが出たらいいのに
釣り竿と漁師、それと船
....
光が生じた、刻々
きみが
跳躍するのが、見える
のは
ここで、死と同じ速度で
きみが走っている
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