毒も刃もすべて黙って飲み込んだ
スーツを身にまとった私は甲虫のようだ
土地が変わっても仕事が変わっても
私は同じ種類の甲虫
羽をばたつかせても決して飛べない甲虫
スーツに滲んでいる様々な言葉 ....
王様は旅の途中だったようです
お付きの者たちはみな逃げてしまったのだそうです
王様のいびきがものすごいので
ただ歩くだけの旅がつまらないので
王様一人でも大丈夫そうなので
実際悪人に ....
夜、おしっこに起きたときの
ベランダの外に広がるたぷたぷと波打つ闇や
満員電車でとなりあう
湿った背広のすえた臭いなど
そういうものを
とん、とん、とん、と踏んで
住宅街を俯瞰し
....
160419
お地蔵様に
お線香を立てる
火が付かない百円ライター
今では何というの
使い捨てライターー
君とおんなじだねと
お地蔵様が
典型的な顔をして笑う
だ ....
ふらりと月が立ち昇る
しっとり濡れたベンチに
横たわり
息をひそめる
今 遠くで
かたちを成しはじめた月
もっと高くへ昇れよ
つめたい窪みに
春の海を注ぐように
骨の隙間 ....
ドーナツばかり食べている
その穴ばかり食べている
わたしがわたしであるために
あなたがあなたであるために
そのどちらでもないもののため
食べるたび空腹になるのはなぜ
願うほど切なくなるのは ....
曇のなかの金属が
鉱と擦れ合い 匂いを放つ
音の波を燃し
輝晶を放つ
光の槍
降るはふたり
ひとりは死びと
ひとりが背負う
左上が白い夜を
けだも ....
遠くの山々が
のどかに雲の帽子をかぶっていた日々
春の野をいっぱいの花でみたし
初夏の木々を新鮮な緑で塗りかえてくれた
美しい地球よ
恋しい地球よ
どうか
山を崩さないでくれ
家を ....
どうしてまた
と 問う度に空瓶はふえ
瓶の立つ数とおなじだけ
言葉を見失う
不運と幸運を釣り合うように計ってのせた菓子盆
運ぶうちに混ざり合ったこれをいったい何と言う
「ワン」
そう犬が吠える
近くのテニスコートから
軽快なボールを叩く音が聞こえる
青い空に陽がのぼり
舞い散る桜の花びらを
きらきらと彩る
地面は一面
桃色に染まり
その上に ....
陰惨な声刻む泥舟、
あっという間に競り上がる青白い氷山に乗り上げ
怜悧なナイフで自らの喉笛をかっ切る。
これを潮時と終わりにしたかったのだ始まりにしたかったのだ、
深紅の血潮はもはや抑えよ ....
「最近なんか元気ないね」って、たぶん顔色じゃなくって、あたしのツイッターを見てそう思ったんだろうけど、どうもご心配ありがとう。薄皮を一枚へだてたようなやさしさに、あのころ、不本意にも救われていた。感情 ....
深夜のレンタルショップ
うろつく
僕達は映画のなかに
引用じゃないものをさがしている
人類にまみれて
化学繊維のセーターを着ている
ありふれた体で
レンタルじゃ足りなくなっちゃう ....
土塊を捏ねる
指先に気を集め
煮え立つ熱流し込み
ゆっくりしっかり力入れ
未定形の粘る分厚い土塊を
思い思いのまま捏ねくり回す
捏ねくるうちに不思議なこと
土塊と指先は拮抗しながら
....
金曜日には花を買いにゆく
水仙や早い菜の花
いきいきした街の黄色を通りすぎ
もはや首を切られ
それでもまだ
いきいきと生きんとす
花屋の花たちを買いにゆく
金曜日には
うすうす知ってはいたけれど
そとはやっぱりおそろしい
それでもくまは森をでた
街はかわいてうすぼけて
みわたせばべたついたくまたちが伏せている
ここにもくま あそこにもくま
森 ....
猫町の午後は空が青ざめるほどの空想に満ちていて
透明なグラスに注がれた水のように
エーテル培養液がたゆたっている
光が当たる一瞬の陰から産まれる海月たちは
何万の子孫を一瞬にして吐き出 ....
*
シャッフル
雨合羽の内側みたいに湿った霧の夜
水槽に堕ちた帽子のように少しずつ想い出す
刻まれたまま床に散乱している時間
ボロボロに傷ついた
一枚一枚を拾い集め
....
小さい雨が降ってきた
しとしとしと
オルゴールみたいなガラスの箱の中
ピアノの音が聞こえる
拙いカノン
さくらの花が
ひらりひらり
舞い落ちる
ぽとん
水滴
雨粒か涙か
喜びと悲 ....
おもい鉄の扉を
押した
瞬間にまなざしが交差する
待ち合わせには慣れている
ここはもう寒くないよ
暗がりにふさわしく目を開いて
ひとびとの騒めきを聞いている
楽しいのは
誰もい ....
東京にもう雨は降らないらしい
眠らずとも
目覚めなくともよくなるまで
幾世紀を費やし
浪費するのは何も砂ばかりではない
やさしい飲みもの
歴史をごみ箱にいくら捨てても
まるで甲斐 ....
故郷には深さがある
海の深さとは別の種類の
血の深さと記憶の深さ
一人の人間に一つずつ
最も深い故郷が与えられており
人がほんとうに帰っていく極地がある
果樹園に包まれ
たっ ....
社会人になって幾数年
歯車と化して十数年
叱られ叩かれ使われて
上昇したのは尿酸値
痛風発作に怯えつつ
言った言わないエビデンス
横文字並べて要するに
費用を安く抑えたい
わか ....
「へえ、すごいね」
流れてく広い月
多機能トイレに
死なない程度
埋め尽くす闇
知ってるんでしょ
いらない体液のゆくえ
教えてもっと
すっごい大好きな
絶望を
毎日 ....
誰ともすれ違うことのない
道を歩いていく 私は私を探す 一体の体として
しかし他の誰でもない自分とすれ違うことはなかった
だけど 確かに道を 私は歩いていたのだが
桜はどこにあるの ....
灰色の薄明の底に
灰色の湖が静かにひろがる
その汀にひとり佇んでいる
灰色の薄明は薄明のまま
明けることも暮れることもない
灰色の湖はただ静かだ
誰の 何の気配もない
ただこの場 ....
団欒の横
座椅子に座り
静かにみかんを剥いている
今日どこかへ出かけたことも
娘の顔も
忘れたよと笑う
テレビの映像は意味を失くし
新聞は取りに行くだけの紙になり
積み重ね ....
依存性とは外的な要因が大きく作用してしまうものである。いくら遺伝子の魔術によって勧誘されようにも、実際に巡り合わなければ誘惑されることもないのだ。
澄んだ青空のもとで長時間待たされる。これ ....
小さな嫉妬の粒を
指先でつまんで丸めてみる
日暮れて家へ帰ろうと思うのだが
行く先が知れない
たくさんの人たちが
出立する暮れ方の川辺の
薄れていく土手の向こう
たわんでいくぼくの背 ....
雨のあいまに草がのびていく
つみとってもつみとってものびていく
春は毒だ
帰る場所もないのに咲いてしまう
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42