王様
ふるる

王様は旅の途中だったようです

お付きの者たちはみな逃げてしまったのだそうです

王様のいびきがものすごいので
ただ歩くだけの旅がつまらないので
王様一人でも大丈夫そうなので
実際悪人に出会うことは稀でしたし
会ったとしても
王様の威厳のある様子に驚き
悪人もつい興味深々で長話をしてしまうのでした

それで私の住む町にやって来たのもたまたまでした

長旅の末王様の持ち物と言えば
頭に光る金のかんむりと
立派なおひげくらいでした

かんむりは普段はしまっておいて
こんな風にもてなしを受けた時は
一緒の記念写真用にと頭にのせるのでした

残念ながら桜は終わってしまいました
と言うと王様は微笑んで首を振り
桜並木や桜の広場なら
さんざん見てもうお腹いっぱいです
それよりも
この白くて丸いものをご馳走して頂けて嬉しいです

おにぎりと申します
黒いのは海苔です

NORIとは紙どうしを付ける

いえいえ、海藻を乾燥させて作るのです

王様は信じがたい様子で黒くて紙のような海苔をご覧になっています

王様、次はどちらにいらっしゃるのですか

どちらがいいですかね

王様ならば、どこでもふさわしい気もしますし、どこでもふさわしくない気もします

王様は深々とうなずかれ
私もそう思うのです
どこにも私の場所はないと

私は試しに王様の上から汚い布などを被せてみましたが
王様の威厳はそんなもので誤魔化せるものではありません
実際、王様はキャベツの千切りを召し上がっている様子もご立派でした

王様、髪に何か
とついているものを取ってさしあげると
大理石でできた小さなチェスの駒で

時々、出てくるのです
差し上げましょう
とおっしゃいましたので
有難くいただきました

翌朝目を覚ますと
王様はすでにいらっしゃらず
感謝の言葉と健康を祈る言葉が
見事な筆跡でその辺のチラシの裏に書いてありました



自由詩 王様 Copyright ふるる 2016-04-24 00:06:07
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