もう怖くなくなった
平井容子

夜、おしっこに起きたときの
ベランダの外に広がるたぷたぷと波打つ闇や
満員電車でとなりあう
湿った背広のすえた臭いなど

そういうものを
とん、とん、とん、と踏んで

住宅街を俯瞰し
気に入った家を引っこ抜いて花束にする
砂糖水に浸けて
これからもずっと生きていけるように

約束通りの時間にお決まりの角を曲がるころ
もう何も怖くなくなった


自由詩 もう怖くなくなった Copyright 平井容子 2016-04-23 15:39:58
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