ゆ う か い
ゆるこ



猫町の午後は空が青ざめるほどの空想に満ちていて
透明なグラスに注がれた水のように
エーテル培養液がたゆたっている
光が当たる一瞬の陰から産まれる海月たちは
何万の子孫を一瞬にして吐き出し、そして死んでいる

かさついた足は少女を忘れて久しく
二眼レフを持って彷徨っていた幼い指はほどほどにとろけていて
ちゃぽんと記憶をスポイトで落とせば
隠した瞳が開けて、紅く色づく

気づいたよ、棺桶の中
白百合は大好きな花だ
檜の棺とよく似合うね
一度目覚めて、知らないふりをしてまた眠った

猫町の夜は野焼きの匂いが
湿った空気に混ざって懐かしい
だんだん白んでいるのは私が
空の色か

口笛で吐き出す海月
足で紅を引いた葬儀場で
ひっくり返った重力の先に
私はゆうかいされてゆく


自由詩 ゆ う か い Copyright ゆるこ 2016-04-11 21:50:03
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