帰郷
葉leaf



故郷には深さがある
海の深さとは別の種類の
血の深さと記憶の深さ
一人の人間に一つずつ
最も深い故郷が与えられており
人がほんとうに帰っていく極地がある

果樹園に包まれ
たった一度も裏切らなかった生家よりも
もっと深く血を分けた故郷があり
それは子供の頃よく探索し
木々の香気に浸っている近所の山だ

二年間のデスクワークは
私の増殖を大きく偏らせた
私は壊れた天秤で
物事の価値を間違って比較してしまう
間違いのたびに社会から削り取った疲労は
蓄積してとがって私を駆り立てるので
私は再び山へと帰ってきた

ほころび始めた桜のつぼみ
針葉樹に常緑樹に葉の落ちた裸の樹
眼下に一望される住宅地と市街地
冬と春が生温かいアルコールの中で混じり合って

私は頂上で寝転び風を浴びて
己を縛るものをすべて引きちぎった
山において人間と自然はまったく等しい
人間も自然もともに循環する精神的原理
物質の装いとともに精神を清くあふれさせている
ひとつの世界内細胞
まったく同一の世界の遺伝子を共有しながら


自由詩 帰郷 Copyright 葉leaf 2016-04-03 02:36:51
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