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もう
やめようと思うんだ
あとから
あとから継ぎ足して
言い訳ばかりが増えていく
関係代名詞のような生き方
ほら
こんな朝だよ
おまえはまだ寝ているこの朝を
俺は吸っているよ
この朝を
ウミスズメが
隣で
少し悲しげだよ
でもそんなことは
おまえは知らなくていい
ひらめがあわ ....
海を見たことがなかった
見え隠れする光
あれがそうだ、と無骨な指で示された海は
たいして青くなかった、が
軽トラックが、ギシギシとカーブを曲がるたび
輝きを探して、車窓にしがみついた
....
服を買って着替える
着替えている途中にそば屋があったので
天ぷらそばを注文する
持ってきたのは昔の恋人だった
昔のように優しくしてくれた
着替えをしながら自分はそばだけを食べ
天ぷらは ....
展示された日々にひとつひとつ形をあたえてゆくと、球のまざった菱形がひとつだけ余ってしまう。菱形は情念に光の島を落として、情念は菱形を斜めに転調させる。君はこの菱形に所有されていたのか。
君の肺は ....
今年も古い母屋の軒先に
つがいの燕が巣作りしました
生まれたての可愛い雛たちは
親鳥の帰りをひたすら待っていて
精一杯の幼い首を伸ばして
甘えたような鳴き声あげている
(なんだか可愛いな
....
青い青いテニスコートの結び目が
ほどける
1セット
2セット
3セット
スパン・・・ スパン・・・
と空気を切る音
その断面はゼリーのようにゆる ....
怠惰な月に{ルビ塗=まみ}れて
果実のような遊星たちと
悪戯に耽ろう
どうせ軌道からはとうの昔に逸れて
だから輪郭も幾重にもぶれてぶれてぶれて
いるから
薔薇星雲を千切ってばら撒いて
....
あの頃は
生まれたばかりの気分でいたけれど
あの頃の僕は
生まれてさえいなかったのだと
思う
もしかすると
こんな僕も
未だ知らないところで同じように
恥ずかしそうに
解ける ....
低い雲が覆い隠す
放牧場のある丘には
みっつの風車が立っている
ぎゅおん、ぎゅおんと
海にむかって唸って
いるはずの刻
{ルビ霞=かすみ}のように薄い雲が
まわっている時間を
見えなく ....
愛しきものに残された
僅かな時間が
手出しを許さず
無表情に過ぎて行く
死の匂いのする
冷ややかな居心地に耐えかねて
虚ろに庭先ばかりを見ている
こんな哀しい歯痒さのなかで
無 ....
真夏日、沿岸部には波浪注意報が発令され
世界中の溝口さんが落下していた
親戚の少女は大きな中華鍋を持って
兄と一緒に家を出て行く
重い、と言うと兄は悲しそうに首を振った
牛の死体を引 ....
吐息に曇る夜の硝子に
時計の文字盤は
逆行をみせて
捨てた指輪の光沢の
おぼろな記憶さながらに
銀河の揺らめく
午前零時
涸れてしまう代わりに涙は
こぼれる理由を失ってしま ....
小指に触れる
時間と光
どちらかの声が
先に応える
骨と草の
はざまを伝う
失くしたほんとうがもどるとき
居たいところに居られるように
響きをひとつ残しておく
そ ....
わたしは感じてしまう
小綺麗に片付けられた部屋の
飾り棚の上で
あなたは仲間達と腕を組み
屈託の無い笑顔をこちらへ向けて
壁際に吊るしたドライスーツからは
泡立つ潮騒の音色がする
そんな ....
皿の上には電灯があった
鶏肉がなかった、と
きみは言った
どうやって食べるのか聞くと
説明書をくれた
そのとおりに取り付けてみる
電灯はきゅこきゅこ音をたてた
飛べやしないのに
....
ゼロからの徒歩
{引用=「ちょっと休憩」}
かき混ぜるスプン
スープはさめた
温めなおしはいかが
ミンと名づけた靴
スイと名づけた ....
空のいろには 届くはずもなく
だからこそ
仕方のないほどに
空のいろを
瞳に宿しながら
きりんは ゆっくり緑を{ルビ咀嚼=そしゃく}している
その
長い長い首の得る高さは
....
男を好きになる度に
彼女の体から火薬の匂いがするの
情熱はジリジリと
へその下から入り込んできて
体中を燃やして行くのよ
だから いつも
骨の焼ける匂いのする
彼女の手を ....
この路地裏の
アスファルトのひび割れは
どこかの埠頭の
それと
似ている
相槌を打ってもらえる筈が
ここにあるのは
頬を刺す風
見上げる雲の隙間から
一筋の光が降 ....
夜が明ければ夢の後
大人の世界に
ピーター・パンはもう来ない
『さよならネバーランド』
開け放した窓が
梅雨晴れの日光を引っ張っている
家具を無くした部屋は ....
夜は綻び
朝が死角からやって来る
陽射しが強くなれば
それだけ濃い影は出来て
ありふれた若さのなかに取り残したわたしと
残り時間を失ってゆくわたしが
背中合わせする毎日に
日 ....
いつものように
午後をあらいながら
うつむき加減に 軽く
雲行きを確かめる
それもまた いつもの事だけれど
その
始まりの日を憶えていない
寒暖の差を道として 風は渡る
よ ....
風をつかもうとして
草をちぎってしまった
てのひらが
鳥を呼ぼうとして
こんちくしょうと叫ぶ
声が
心のかたちを確かめたくて
君のからだを抱きしめた
腕が
今夜もずれてい ....
わたしとしては早く終わって欲しいのに
あなたはまるで厳粛な儀式に望む
いんちきくさい司祭のような面持ちで
わたしのかたちを確めてみたり
わたしの知らないかたちで動こうとする
ふだんと違う表情 ....
海鳴りは遥か遠くでさざめいて
波間に浮かぶ言霊たちは
いちばん美しい響きを求めて
たがいに手を伸ばしあう
砂浜に打ち上げられた巻き貝は
もはや亡骸となり果てて
右の耳に ....
世界中の風を収集すると
古い書物から頁が捲られてゆく
幾つもの考えは
風の形になる
ベドウィンのテントに吹く風
サーミのテントに吹く風
敦煌の砂に吹く風
風を折るように
また祈 ....
大きなガラス扉
日焼けしたブラインド
貸店舗、の白い貼り紙
コンビニになりきれなかった
角の、たなか屋
殺風景な店先のコンクリートには
ただひとつ
小さな郵便ポストが生えたまま
舌 ....
港の水に映るのは
それは月ではないのです
港の水に映るのは
それはおしりなのでして
おしりは逃げ出したのでして
僕はそれを追ったのでして
漁船に忍び込んだのでして
追い詰められたおし ....
湾曲している水平線上にて、
しめって酸化しそうな金属の肌が
垂れこめた雲に灰色の腐蝕を放っていて
見あげても星は降る気配
海の月の揺らぎ
飽和した幻影の瞬く電子
この神経を流れ去ることのな ....
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