すべてのおすすめ
風の色移して小菊白々し
一瞬の風にぐらりと庭芒
しなる{ルビ枝=え}の{ルビ熟柿=じゅくし}たわわや{ルビ狭畑=さばたけ}に
秋寂びや始発列車に去り行く子
夏と秋の狭間には
あらゆる変化が現れる
蜜吸う蜂に入れ替わり
黒い揚羽がやってきた
やつれて籠った極暑の日
でも愛おしい夏だった
夏の終りの寂しみを
振り向かないで次は秋
....
栗の実の茹でたてほろり口に溶け
{ルビ暁=あかつき}の{ルビ八千草=やちぐさ}濡らす{ルビ夜半=よわ}の雨
今朝の秋ボアのベストを羽織りけり
正直に彼岸花咲く小庭かな
五万とふ虫の宿るや草の花
花畑これが最後と咲き盛る
空家にも虫の声する草の庭
秋暑し{ルビ目論見=もくろみ}ばかり庭作業
草むしり虫の宿とはつゆ知らず
{ルビ秋陽=しゅうよう}の落ちて病む身の夕餉かな
八月の誕生祝ふ老いふたり
新しきレンズで初秋のワンショット
秋の蚊を払いつ客はいとませり
仏花もて墓参に供ふ帰国の子
ほろよいとふ果実酒のあり蝉時雨
朝顔の日毎に新た日の出まえ
夏祭りローカルテレビに観るダンス
淋しがる友連れ立ちて渓の涼
距離感の掴めぬ主や蝉の声
畑野菜力尽きたる炎暑かな
一つずつ叶わぬことあり老いの夏
あれこれと計画を練る夏の畑
友来たる土産のメロン未だ固き
{ルビ青嵐=せいらん}や洗濯物の{ルビ翻=ひるがえ}り
海隔て仰ぐ打ち上げ花火かな
人出増す市民の愉悦夏祭り
陽も出でず
閉じ込められて
雨は降る
遠くに行った隣人の
電話の声は
やわらかい
雨は人を遠ざけて
馴染みの犬も
来やしない
痛みが取れた右腕の
指動かして
詩が書け ....
桜の葉擦れが
さわやかで
梅雨の走りに
洗われる
なんにもない
なんにもない
だけど、此処には
風が吹き
万物潤す
雨も降る
あなたの見えない
日は無くて
....
{ルビ五月雨=さつきあめ}自給自足の三度飯
今年また子より五月のプレゼント
新じゃがを手探りで掘る至福かな
偲ばるる{ルビ二年=ふたとせ}前の野薔薇かな
走り梅雨物干し竿の雫かな
夏の雨雫に映る畑の花
{ルビ紅=くれない}の花群濡らす青葉雨
そら豆の皮剥く雨の日曜日
朝な夕な白き芍薬傘の中
花冷えや薄手のニット荷に足しぬ
こころ無に座す庭先の花菜の香
初生えのアスパラガスにょきり出づ
草むしり{ルビ庭石菖=にわぜきしょう}のみ残しおく
馬鈴薯の花を写しぬ傘の下
葡萄植ゆ今年の花穂の五つ六つ
桜貝追憶の浜甲子園
母を待つ日暮れの浜や桜貝
桜貝ひとつ拾ひぬ母とゐて
芍薬のつぼみ赤子を見遣るごと
目の先の馬鈴薯の花いと{ルビ小=ち}さく
卯月尽子は出かけたかこの雨に
ポピーゆれ風とまる間のワン・ショット
雨ひとひ友の差し入れ嫁菜飯
草の雨籠る独居に佳き便り
曲がり角周ればかなた山桜
よすがなく飛翔の初蝶追うてをり
てのひらにはなびら受くや花の下
痛む歯を騙し喰いたる雛あられ
ふたり連れ来たり桜に魅せられて
さくら咲き子に送る荷を詰めにけり