無表情な父に声をかけると
その霧深い意識のずっと奥の
宇宙のかなたから
帰ってくるのかと思うほど
遠いところから
ゆっくり
微笑みが皮膚の上に戻ってくるのが
見える

「おとうさん」というと
長い眠りから今覚めたように
父の眼に光が宿し
わたしをみつめて
「おう」 という

「気分はどう?」
ときくと しばらく間をおいてから
必ず
「気分か・・ 気分は 最高にい ....
 こんなところで


ベビーカーを押すお母さんが
コーヒーショップに入ってきた
乗っている赤ん坊は周囲への目配りが鋭い
スマホで大声で話している人がいたが
赤ん坊はまるでカメレオンみたいに
眼にも止まらぬ速さで舌を伸ばし
スマホを取り上げてしまった
取り戻そうと詰め寄った人は
赤ん坊の眼から照射された光線で
アヒルに変えられてしまった
ほわふらっくぅ〜と唸っている
お母 ....
 


全米が泣いたあの映画は
実話を元にした
フィクション映画

わたしはポップコーンをかじりながら
どこまでが真実なのかしらって
ずうっと考えてたわ

隣に座るあなたは
コーラを啜りながら
号泣していたけれど

病気の人を演じて
涙誘う映画なんて
わたしそもそも嫌いなの
隣の席の君が奏でた
低く透明な音質をまとって
価値はわからないけれどといって
ペンを走らせる尖った質感
体は売れるような品物じゃないですよ
そう高らかに笑って涙を落とすと
欲しいのはこころですよという君の
指先が真珠に触れた
生前葬に誰も来ない   透明な鍵盤に置くかのように
  あなたの指が宙にとどまる
  噎せ返るほどに暑い八月
  そんな形で朝は始まる



  夢のなかでそれは確かに
  風靡く草原を鳴り渡っていた
  細やかな弦をしとしとと震わせ
  鳥や虫や石でさえ恍惚に導く音色で



  今、あなたの唇がかすかに上向く
  それがあなたの微笑み
  決して空気を伝わることは無くとも
 ....
羽化する前の 蝉が
黄色い傘に 必死で 捕まっている
リアルな 姿に 出会いました

中の 緑色の 羽根が 
微かに 見えて

それは しっとりと 土に眠る頃 
描かれている 心のようでした 

そそと 身体を ズラしながら 
私達の瞳から 逃れようとする 
蝉の 姿に

ギュッと 心が詰まった 
夕刻でした


共に 生きよう
そんな声が
微かに 響く 気 ....
ほほえむ
いつも
ああして
けれど
しあわせよ、という
そらをみて
つむる
*壱*マダナイへの手紙

「あの猫の名前はマダナイっていうんだ」と、教えてくれた人がいた。
ああ うわさは聞いたことがある。
明治の文豪の家に 飼われていたという 噂だった。
それで、手紙を書いた。

苗字をわすれたい私に みゃうと言ってくれてありがとう。
あなたに明治の文豪が名前をつけることは できなかった。
けれど、あなたの名前は マダナイです。
 ....
あっちゅと畑で取ってきた
モンシロチョウの卵は
タイミングが悪く
キャベツの葉が萎びるまでに
孵化しなかったので
学校で廃棄処分になりました



モンシロチョウの卵を
もらえるのは順番で
あっちゅの順番は
ちっとも回ってこない



最初に卵をもらったお友達と
軽く1週間の
観察記録の差がついている



家でもゴネるように
モンシロチョ ....
君が
はじめて私の手を離し
自分の羽根で
よちよちと
はばたいていった日のことを
母は忘れることができない

君はとうに
逞しい翼をひろげ
上空の風に乗り
母には見ることもできない景色を
遠く
めざしているというのに

入園の日に
君がはじめて被った
えんじ色のベレー帽を
私は今も手放せずにいる
景色は遠く雲は近くに留まっている
このアパートには僕だけが居て他に誰もいない
誰もいない階段を途中まで降りては引き返す付け爪の先
膝頭が薄い壁を突き破り
部屋から聞こえてくる確かな物音に
ぬくもりが、これはきっと誰かが暮らした軌跡の面影
なつかしさはみえない汚れと
たとえば蟻や蜘蛛やダニや小さな虫たち
痕跡は棄てられた隙間を埋めるだけ
塗り壁は朽ちたまま解体もされない
 ....
死に逝く間際
人は自らの人生を 遠く
心象風景として眺めると言う

ある者は石くれの丘に広がるぶどう畑を見た
長年の労苦のまだ見ぬ結実を眺望し
その芳香と甘さを味わうかのように
微笑みながら

ある者は広々とした麦畑を見た
風にそよぎ波打つ黄金の海
豊かな実りは満ち足りた心
王様は絵画の中に

閉じ込められた

もうその存在も感情も

何もない




そしてピエロは解放された

ああもう貴方の為に

わたしは

笑わなくても良いのだ

泣かなくても良いのだ




わたしは人の哀しみを

売り物にしています

わたしはそれでご飯を

食べています

だからわたしの身体は  ....
睫毛の触れる距離

吐息の生温さを頬で感じても

あなたの真意は解らない


愛という影を作らぬものの

答えを求めようと

弄るように寄り添おうとも



熱の篭った毛布の中

まだ冷えたままの爪先

汗を滑らせる首筋をなぞり

微かな泡の薫りに酔うとき

気付く


確かなものなど

今ここに無いとしても

私の目は確かに

愛を ....
【カタツムリの抜け殻】


実家には もう人の気配は無い
生気のない 家に行くには 迂回路しかなく
すぐそこに家はあるのに ふるい路は
家を まの当たりにしていながら ゆるやかに曲がり
なかなか到達しない

一枚の絵に無性に会いたくなったのだ
祖父は日本画をこよなく愛す�
震災関連番組を見ている
私の背中に
六歳の娘が不意に覆い被さってくる

今朝思い切り叱られて
「ママなんか大嫌い」と
涙を溜めた目で私を睨みつけていた娘が
「ママ、大好き」と言いながら
私の首に腕を回してくる

その皮膚の温かさを確かめながら
並ぶ数字の重みを反芻する

死者 一万五千八百八十一名
行方不明者 二千六百六十八名
依然避難生活を続けている人
三十一万五 ....
               
季節の足跡が白い凍土となり
剥がれた絵の具のように
海鳴りが景色に仕方なく張り付いている

此処には君はいない
それでも此処は君のいた場所

今日君はいない
それでも昨年君のいた場所

遠くから
鴎が

銜えているのは僕の明日
太陽が拾ってくれた
冬の海
そして君

固い季節の汽笛が水平線をなぞり
無人の冬の海に停車する
降 ....
プラナリアに会いたい
永遠の命かもしれないプラナリア

世界は、春霞ではない 黄砂だ
降り注いでいる微妙な沈鬱が 世界を覆っている
それでも 季節はまだ めぐっている
水仙の花は 春を告げている 


土を掘り起こせば 明るみにでた みみずがあわてて
土にもぐる 土を食べ土を豊かにして土を押し出すために
みみずは土に生きる術をもとめ 人々は空をみあげ 出口を探 ....
ヴィンテージギターを手にいれたが
一万円と格安のヤマハFG-130という
1972-74あたりに製作されたもので状態もいいし
かなり響きが良く豊かに音がでる

男はそういったおもちゃを幾つになっても
欲しがる生き物なのかもしれない

ときどき街で見かけるピカピカに磨き上げられた
ヴィンテージバイクの懐かしいエグゾーストノイズに
こころが震えるのはそういった習性の為せる技なのか
 ....
アパートの暗い階段を上って行くと
二階には嵌め殺しの窓があり
そこだけがまるで古い教会の天窓のよう
純粋に光だけを招き入れていた

迷い込んでいた一羽のすずめは
幼子の震える心臓のよう
嘴を半開きにしたまま
狂ったように怯え

硬い光の壁に幾度となく
羽ばたいては突進し
そのたびに激しく身を打ちつけて
よろめくように また身を翻し

止まる所も見いだせず
空中を右往 ....
火事になっている消防署がある 歯を磨こうと鏡の前に立つと、おわりなんだね、と
喉越し用のコップはからっと笑う。白い歯磨き粉は
まだ処女のような振りしているが、ねちっこく、ま
だ始まってもいないのにさあ、と寝そべってにやに
やしている。これは夢なんだと寝る前に言い聞かせ
て夜の谷間に転がってみるが、不思議と鏡を呪うわ
けでもなく、毎日夢の最後も鏡の前で、これでおわ
りなのかなとお辞儀をするのが当たり前になってい ....
青信号の横断歩道を渡っている

僕は歩くのが遅いけど

青だから気にせず歩く

と 車がこちら側に曲がってきて

僕のために止まる

とたん 気持ちに冷や汗が湧き

悪いことをしているわけでも

悪気があるわけでもないのに

急に申し訳ない気持ちになって

しなくてもいいだろうに

小走りに横断歩道を渡りきる

背中に アクセルを踏み込んで走り抜ける車の ....
雪に埋もれたまま青く影を落とし
家々は俯き黙祷する
気まぐれにも陽が歩み寄れば
眩い反射が盲目への道標

抱擁されるまま

冷え切った頬が温もり
辺りに耳が開かれるころ
頭の後方 梢のある高みを
切るように渡る鳥の声に

うっすらと目を開けるその刹那
微かに煌めく氷片たち
ねぇおじさん。

どうして人は孤独になるの?



それは、孤独を感じるほどの、

ぬくもりを知ってしまったからさ。



どうして人に孤独があるの?



それは、きっと孤独な誰かと、

同じように孤独な誰かを巡り合わせる為さ。



人が孤独にならなかったら、

人は永遠に独りのままだろう?

神様が、それではいけないと

人に孤独を知る ....
死んだ魚の隣で
ビニールの袋の中で
スケルトンな体をくねらせて
白魚は泳ぐ
その臓器の あまやかなピンク色は
ゆるされている時間の刹那を泳ぐ

なにやら虚無からの出立や
黎明に対しての色合いと
同じ色をしていて
白くない
値札の白魚という文字は嘘だ
白くはない いのち
シラウオは 泳ぐ

即興的にしつらえられた 手のひらの大きさの海を
 ....
ごすいって
ひすいに似たような

たおやかに
睡り続ける
午後
もくもくと
宝石になる練習をしよう

纏足の爪先から
あたたかな成分が溶け出していく
あらがえない{ルビ麻薬=レクイエム}のような
ひきとめる者のない孤独のような
まどろみ
飽いたら
愛になる練習をしよう

{引用=ひとつきにいちど
わたしは
いのちをすてている
えいえんに
未成熟なたまごた ....
自分や自分の愛する人が
明日隕石に当たって命を落とすとは
恐らく誰も思わないだろう
だから
いつも通り私達は
目の前の人にお休みを言って
今日という日を
当たり前のように見送る

ある数学者によると
その確率は
百億分の一だという

その数字をどう解釈すればいいのだろう?

限りなくゼロに近い数字だから
大丈夫さ!と
鼻で笑って
忘れてしまえばいいのだろうか?
 ....
ブランコを欲しがったのは私
それを父にせがんだかどうかはおぼえていない

どうだ こんな大きなブランコ
どこにも見たことないだろう

校庭にあるブランコよりも
はるかに高い木の柱と
長いロープを使った父の力作は
空まで飛んで行けそうな
特大のブランコだった

9歳の姉が腰かけたその木の板を
父は両手で持ち上げて
高い位置から押し出した
それーと言いながら 笑顔で
ブ ....
乾 加津也さんがポイントを入れずにコメントしたリスト(476)
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