こんなところで/大相撲珈琲場所
壮佑

 こんなところで


ベビーカーを押すお母さんが
コーヒーショップに入ってきた
乗っている赤ん坊は周囲への目配りが鋭い
スマホで大声で話している人がいたが
赤ん坊はまるでカメレオンみたいに
眼にも止まらぬ速さで舌を伸ばし
スマホを取り上げてしまった
取り戻そうと詰め寄った人は
赤ん坊の眼から照射された光線で
アヒルに変えられてしまった
ほわふらっくぅ〜と唸っている
お母さんは「まあダメよ」と言って
乳頭から解除液を噴射して人間に戻すと
「すいませんねぇ」
謝りながらスマホを返していた
こないだテレビの洋画劇場で
X-MENシリーズをやっていたけど
これが世に言う
ミュータント親子なのかっ!?
「ざ〜んねんでした」
お母さんが脱皮すると
中からコモドドラゴンが出てきた
と思ったらそれがまた脱皮して
「ジャーン!」と言いながら
プリマドンナ姿の父が出てきた
同じく赤ん坊が脱皮すると
ガラパゴスイグアナが出たあと
「おいらもう我慢ならねぇ!」
というセリフを反復練習しながら
一心太助の格好をした母が出てきた
あなた方はこんなところで
何やってるんですか?



 大相撲珈琲場所


コーヒーをひと口飲んで
カップを皿に戻すと
バッチコーン!
右頬に張り手が飛んで来た
もうひと口飲んで
カップを皿に戻すと
バッチコーン!
今度は左頬に張り手が飛んで来た
ひるまず三口目を飲もうと
カップに手を伸ばしたら
中からセピア色の雲みたいなものが
もくもくもくもく湧いて来て
ヤッ トッ トゥ! ヤッ トゥ!
相撲取りの摺り足で前進しながら
私の胸や肩を突き押しして来る
おおっと! おっ? おおっ?
即座に立って応戦を試みたが
相手のマワシを掴むことはおろか
いなす余裕もまったく無かった
コーヒーショップのドア近くまで
突き押しして来た雲みたいなものは
間髪入れずに怒涛のがぶり寄り
最後にあびせ倒しをやられて
私は土俵から転落すると
大の字になって失神KO
両頬は無残に腫れ上がり
両眼も紫色のお岩状態
鼻血は飛び散るわ
唇はタラコ化するわで
いやはや散々である
「珈琲にぃしきぃ〜〜」
ウェイトレスのハルちゃんが
高らかに軍配を上げた



※文書グループ「コーヒーショップの物語」





自由詩 こんなところで/大相撲珈琲場所 Copyright 壮佑 2013-08-28 20:30:12縦
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
コーヒーショップの物語