その犬は腹に包帯を巻かれていた
包帯は彼の血とその他の体液で汚れていた
犬は包帯の下で傷口が開いているのが想像出来た
朝と言わず日中と言わず夜と言わず
犬は街中を街の周辺をひたすら歩き回っ ....
夜
長女からいきなり言われた。
「お父さん恋愛相談にのってくれない」
私は吃驚してしまった。
彼女はもうすぐ三十歳になる。
「それは難しいかな」
私はそう答えてしまった。
「どうして ....
だめなひと
いとしい
すまなそうにうつむいて
小さく笑う
もういいから
だめでいいから
わかってるから
そんなに小さくなるな
泣きたくなる ....
嘘が嫌いなあなたに
真っ暗な夜景
沈まない月とまだ昇らない陽
狭間の時間であなたに染まる
耳から染みて
遠く心臓まで
ひたひたと音のする様な
それは足音・笑い声・瞳
全てはあな ....
書くことは思考を連れてくるから、たちどまってはいけないのだ。
季節や天気のせいにした動かない体を冷やして、信号を入力する。
花のことから書こうと思う。
ま夏の花びらたちのこと。さえた緑の ....
光溢れる夏の午後
庭の梅の木が微かに揺れて
三才の僕はその瞬間、
〈じぶんは自分なのだ〉と不意に気付いた
なにものにも替えられ得ない〃この私という存在〃
その認識が僕を稲妻のように打ったのだ ....
朽ちた葉を踏むと
乾いた音がする
傍らに歩くむすこが
聞いて、と
教えてくれる
朽ちた葉を踏むと
風の音がする
今まで気にしなかっただけの
あまりに満ちあふれた
音がする ....
121
で、あなたはどうして
あなたの存在を否定しているのですか
私は信じています
122
あの人の心の隙間に繋がりたがって
ゆうなんぎいのいとの
そよとばかりに
....
ここ二〇日ほど勤務や家業で、休みなしに働き、体に違和感を感じていた。
朝方、今日の弁当は?と妻に聞かれた。十三日から開始した登山道・あるいはその周辺の除草作業だったが、そのきつさや膨大な作業量を ....
女性には関心のない振りを装っている。
だけど私が勤めている物流センターには沢山の異性が働いているのだ。
その大半はパートタイマーの奥さん連中。勿論男連中もいるがそのほとんども非正規雇用の従業員だ。 ....
猛々しい暑さ、
眩み包み込む
この夏の午後に
園庭は発光し
微睡む午睡の子供達、
ルウ ルウ ルウ
夢の中で
歌っている
通り掛かる街角で
不思議な三角や五角形
浮かんでは消え ....
「おやじさん
次のおすすめは?」
「そうねぇ、今日は粋のいい
失恋が入りましたよ
かなり甘酸っぱいくてね」
「この薄紫の衣は?」
「片思いですね
あぁ、恋で悩んでいらっしゃるなら ....
祈りの数と同じだけ
祈らずじまいの人もあろう
頑なに
従順に
知らぬ間に
祈らずじまいの人もあろう
ねえ、言葉が在るのは幸せなことかな
その掌に
この掌に
言葉が在るのは豊か ....
何故か苛立つ
原因が分からない
タバコも旨くない
コーラも飲む気がしない
時にはそんなこともある
憎しみの波動を感じる
謂れのない悪意が伝わってくる
そんな時は
冷たい水に浸か ....
暑い
猛烈に暑い
直射日光が路面に照り返し
俺の体は火柱のようになっていた
とても仕事出来る環境になかった
俺は何だか
そこが原爆の落ちた後のヒロシマの街のような
気がした
....
いくらお薬を飲んでも
けして無くならない脳糞がある
人と会うたびに
冷や汗がだらだら流れるのは
頭にぎっちぎちに詰まった
この過去のあやまちのせい
脳糞をスプーンでもりもり掬って燃 ....
気がつくと
またちんちんをさわっているよ
さみしいからだろうよ
何がさみしいかというと
あらゆる人の記憶から
おのれを消し去ってしまいたいから
あらゆる人の記憶から
消え去ったあ ....
かんたんな言葉を
ぼくは心の中で書き続けています
たくさんの言葉は忘れていきます
それでも思い出し浮かび上がる言葉を丁寧にすくう
ただ、そんな繰り返しを続けてきているように思う
....
私たちに明確な違いはなくて、
世界はグラデーションになっている。
私は特別でありたかったから、それを認めたくはなかったけれど。
あなたの声が私に届いたのは、
あなたに私の声が届いたのは、
....
考えても仕方の無いことを
考えても仕方が無いのだが 考えてしまう
考えて書けってなんだ
書くことは常に
考えの外に在るのだ
....
天空の城ラプタを観ようとしたが、そんな映画は見つからなかった。
それは、発音のままならない幼少期にだけ存在したのかもしれない。
欠落はせずに
只々遠く平板になっていくもの
追いかけても追いかけても
追いつけない現実に
後ろ手付いて息を吐く
二度と取り戻せない時間の堆積
記憶は麻痺しながらも
思い出したように不 ....
91
同じ月の夢に
ニャー
と哭く
92
過ぎゆく夏を見ているのでしょうか
こちらでもようやく
蜩の声が聞こえてきました
93
君に伝えたいこと ....
一人を思い続けて愛情を注ぐなんて
不可能
阿呆にはなれないんだから
でも
出逢い
幾つかの段階をへて
運命共同体になった
ならざる得なかった
男と女はお互いを見えない鎖で
縛 ....
長い年月で溜まった 色んな物のせいで最近は飛べなくなった
脳と言う名の袋に貯めこんだ経験は宝石のように貴重で同時に重い
どこか別の場所に移動しようとする時
その重みの分 僕のケツは重くなり現状 ....
若冲もここを歩いていたかなと錦市場の打ち水を見る
生きてゆくために必要な愛と勇気は
イザベラが与えてくれた
僕の虚無の深淵との闘いは
まだ継続している
天球と地球からもたらされる天恵を糧に
なん号も切り結んで火花を散らし ....
嵌まる
虚の時空
実感無き生
ふざけるな!
鉄槌を打ち込む
固い硬質なビート
過去の影を蹴散らせ
執拗な愛着や温もり
脳髄を垂直破壊し
虚脱の生に力を
内在する何か
を賦活せよ
....
彼女は持つ
花を 花に似た見目姿を
その花が育ってゆく時間を
温かい自嘲を 揺れるブランコを
隠している本当の名前を
潮の満ち引きを
握り拳の中にあるものを
下降と上昇と停滞を繰り返す ....
深くて静かな宙を一羽の鳥は行く
深くて静かな宙の深い静けさを私は感じる
私は気付き言い思う
たましいという いのちは、
山を形作る石の石としての役目であり
手紙入れに眠っているあの人の涙 ....
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