見上げて月のない星に生まれる
沈んでしまうのが怖くて怖くて
呼吸にフィルターかかってる
溺れてしまうのを恐れてる
君は死んだ魚みたいな目をしているね
奇跡に縋らないと浮きあがれない
....
垂直な疑問符を諳んじる水晶体に
「お前は誰か」と問われれば
動揺はあらわな宣誓を開示する
ありふれた病名さえ二重傍線に埋もれ
白いハンカチで覆われれば
ありふれた終末期を万年筆が叩く
その ....
工夫できない者ほど
他者に強要する
ひみつをして
泡をのんだら
夜がひとつきえた
三角 四角 五角 六角
とじない円をゆめみながら
とにかくさびしかった
ましろい花瓶に
水を汲む
生けるものに迷って
水を打ちあけた
羽衣のようなカーテンが
風にゆられている
こがねの光さす庭で
背の低い花がわらっていた
天使の影をみたくて
窓べりに腰かけて朝をまつ
鳥の囀りと 衣擦れが
うるさくて天使は来られない
震えるからだをかためても
鳥は鳴く
こらえきれず風も漏れはじめた
....
ふらりと月が立ち昇る
しっとり濡れたベンチに
横たわり
息をひそめる
今 遠くで
かたちを成しはじめた月
もっと高くへ昇れよ
つめたい窪みに
春の海を注ぐように
骨の隙間 ....
呑み込まれていく織り込まれていく
巨大な力と熱のうねりに
圧倒的で繊細な愛の織物に
わたしの中で蠢き思考し活動する力の流動体が
人生の不条理こそ条理と響く木霊の透明未知が
受肉の快と苦に ....
どうしてまた
と 問う度に空瓶はふえ
瓶の立つ数とおなじだけ
言葉を見失う
不運と幸運を釣り合うように計ってのせた菓子盆
運ぶうちに混ざり合ったこれをいったい何と言う
あの日を境にわたしの中から
わたしがいなくなり
半透明な海月になった
荒ぶる海流に叩きつけられ
なす術もなく右へ左へ
痛みとともに流され続けた ....
若い頃は良かった
なんて言わない
思わない
今が一番
いつだって
これからだって
とかなんとか言ってみても
こんな春のいい陽気に
年頃の娘たちが
きれいな足を惜しげもなくさら ....
{ルビ鳶=とんび}が鳴く
空の遠心力を中和した
深い谷で
静けさは声を出すことができない
涙のこぼれ落ちる音
静止衛星の摩擦音
「だから」と黙すあなたの終止符は
どんな孤独 ....
すべての家の窓は閉められている。
通りには誰ひとりいない。
路地裏は灰色の匂いがする。
この世に僕一人しかいないような感覚。
家並みを抜けると開けた田園地帯になる。
僕は ....
2メートルおきに眠る
肥えた兎
薄桃色の淡い毛並みは
ゆれて
ゆれて
蒼い夜
泡が浮かぶ
球体に敷きつめた
草は
安らかな時代の彫刻
銀兎はあらわれ
消える
おばけ ....
きみにもたぶん
色んなことがある
公転と自転をくり返し
わけがわからなくなる日ばかりで
砂時計を抱きしめたまま
大気圏を突破すると
今度こそ本当に笑うよ、と ....
遠くに並んでいた劇の数々が
間近でにわかに動き始める
近くで私を統括していた原理が
いくつもの山の彼方に拡散する
遠さの中にはいつでも近さがあった
人のためにするという行為の目的 ....
重い銀のライターで炎を灯した刹那
冷たい過去を浮かべて
薄笑いをした
紫煙に過ちを想い出し
真紅のドレスを纏ったマリーに
こうべを垂れて
俺はただの苦笑い
グレンリベットをも ....
花だから咲いたらすぐに散ります
誰かが言いました
わたしは薄いうすい一枚の紙です
折り鶴が言いました
わしは古いふるい一本の木だよ
仏像が言いました
ぼくは孤独でまぬけな人 ....
木のかけらと
あたたかい水が
午後と夜の境いめに
蒼い浪となり流れ込む
錆は子らの名をくちずさみ
鉱は荒れ野に伏している
陽を転がす指や指
流れの内に華やいでいる ....
【こめる】
ちいさな人が ちいさな声でいった
「あさがおは かさ みたい」
くるくるたたんでいる花は かさみたい
雨の日にひらくと かさみたい
ちいさな傘から
ぬー ....
160404
ピロートークという言葉が流行ったことがあったなと
遠くを見るふりをする
きのうはどこにもありませんようと歌った人もいて
朝焼けの中にワインを浸して
トース ....
測れない
計れない
量れない
ものをはかろうと
脳は身をよじるが
生まれたのは不肖の子ばかり
どれ一つ それ一つでは
役に立たないものたちを
手妻よろしくこき使い
広げてきた
安心 ....
私の永遠の旅人、桜の季節を軽々と飛び越えて初夏を待ちわびる君よ。
届いた手紙には、すでに爽やかな風の匂いが沁みついていたのだ。
それはまさしく五月の風。しかし君の無理難題には答えられそう ....
そういうことか
海も空も
まるいんだ
どれくらい走ったろう
眼前には海があり
道端には 菜の花と桜が続いている
ふと 同じところを何度も通っているような気が
して
....
百均で買ってきた
ミニチュアの黒いうさぎは
手のひらに載せて
選りすぐろうにも
どれもみな
哀しくなるほど同じ顔
同じ姿勢同じ表情
どうしてこんなに正確に
大量生産できるのか
まるで ....
夜明けの群青の空に
透明な風の蛇がうごめいていて
脊椎に貫かれた腹でゆっくりと気流を動かしている
白んだ月は皮膚を通過し波状に広がる光を手放す
朝を迎える前の消印のように
反復ゆえの忘却 ....
霧吹きのような雨はふかみどり
胸の奥まで吸い込んで
わたしは森になる
しばらくすれば
じゅうぶんに水を含み
耳を傾ける
彼らは
永遠を指し示すこと ....
明るい灰色の水面が
鳥の声がするたびに震えていた
誰かが落とした柔らかな
容れ物も
静かに震えながら
石畳の上を転がっていた
そこから視線を
ずらすと
小さな島が現れたり
消えたりし ....
幼いころの古びた靴は
シャベルよりも
ずっと小さくて、
土遊びをしながら
泥だらけで夕暮れに沈んでいた。
永くて遠い春はすでに
まなざしの向こうにあって、
冬を越えるたび
軽くうな ....
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