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小石を拾うと
小石が落ちるときと
逆の音がした
それはつまり夏の音であり
連日の雨から集まった夏の電信である
つめたい夏には
小さなものばかりが集まる
小鳥が鳴いたあとの一瞬の静寂や ....
墓碑銘として刻む言葉は
「愛される資格も適格もなかった」
そうしようと思った
深夜のバスの暗いライトの下で
死にたいとは思わなかった
逆に強烈に生きたいと思った
だが生きたいという欲望 ....
氷の粒が背筋を下っていった
この氷はほんとうの愛のかたわれ
歌われることさえ禁じられた愛の
遠くて近い末裔がいま
背筋から皮膚全体に広がり
太陽が一つ終わっていった
お前はもはや風 ....
炎が眠っている
その熱と光を休めながら
かつて燃えたことを証明する
灰が柔らかな布団になって
炎は夢を見ている
かつて照らし出した
闇の中に浮き立つ人の顔が
ばらばらになって融合 ....
遠くに並んでいた劇の数々が
間近でにわかに動き始める
近くで私を統括していた原理が
いくつもの山の彼方に拡散する
遠さの中にはいつでも近さがあった
人のためにするという行為の目的 ....
暗い駅のホームにてかじかんだ手で
自販機から買ったホットコーヒーを飲む
コーヒーとともに朝が費やされる
未来の広がりよりも
過去の堆積の方が圧倒的に大きく思えるのは
いつからだろうか ....
冬に凍りながら
疲労に暴かれている
存在の核から辺縁に至るまで
疲労は人間をむき出しにする
存在は今や感じやすく放ちやすい
どんな分析も総合も無効な
胚芽のやさしい曲線が血で満 ....
この降っている雨粒をすべて集めても
なお余りある巨大な器がある
この限りなく大きな器は
怒りか悲しみか諦めか安らぎか
いや、すべての感情を兼ねることで
もはやすべての感情を超越し ....
この静まった秋の日に
一枚の紙を机の上に広げれば
過ぎ去った春と夏
来るべき冬とが集まって
一年間の物語が告白され
あなたに宛てられた
自然界からの手紙が
書き落とされるだろう
....
ただ電車が通り過ぎていくのを
意味もなく微笑んで見送った
誰に語りかける言葉もなかった
本当の言葉など要らず
偽物の言葉で構わないのに
偽物の言葉すら持ち合わせていない
も ....
叫び声に満ちた夜だ
すべての距離が叫んでいる
だがこの叫びは全て
私自身の黙された叫びだった
闇がつぶれている
渦を巻いている
夜の風景ばかりが
激しく身をよじるが
私はも ....
墓参りに出かけて
墓石の前にたたずむと
墓石に映った自分の姿が見える
墓石に映った世界はあの世のようで
私はあの世からこちらを見返している
あの世は墓石の暗い色で覆われ
いつま ....
初めは意地悪されただけ
仕返ししたら
少しだけ体が膨らんだ
今度はひどい目にあった
怒りにまかせて復讐したら
みるみるうちに体は大きくなった
大きくなった体は
他人の ....
見かけはふつう
少し美しいくらい
性格もふつう
少しやさしすぎるくらい
それなのに
嫌われやすく
面倒に巻き込まれやすく
しばしば傷つけられてしまう
そんなあな ....
ここで石を降ろせ
お前の背負っている石は
他界への動線に満ちている
人間のつくった組織は
あかるい論理とうつくしい体系を
表皮まで張り巡らせているはずだが
その組織は必然のよう ....
人間としての純粋さは
美しすぎる少年のように夭折した
私はそれを補うものとして
社会という書物を解読する意欲に満ちて
純粋なサラリーマンになった
だが純粋なサラリーマンはあっけな ....
雨粒が小さな花を咲かせては
微かな匂いとともに散っていく
この瞬時の花々は
大地のてのひらに握られ
次々と貴重な命を失っていく
これは供犠であろう
あるいは祭儀であろう
今日 ....
俺はとうとう人間の果て
人間の意味するところの一番端っこで
ようやく意味の体系にぶら下がっている
人間たちよ
そのまなざしをやめるんだ
しぐさをやめるんだ
表情をやめるんだ
....