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わたしの中に森が生まれたとき
その枝は音もなく広げられた
指先から胸へと続く水脈に
細く流れてゆく愛と
時おり流れを乱す悲しみ
わたしを立ち止まら ....
地へ圧し掛かる空と
空へ高揚する無数の緑の視線との間
夏の声帯が震え、静かに感情を燃やしている
若い耳で、耳鳴りが日常になってゆく
若い目が、陽炎に依存してゆく
信じられるものを ....
ぼくたちがみた
いくつもの風景は
今にもあふれそうなのに
それでもぼくたちは
未来をみようとしている
足下に流れるほの暗い思念の残滓
忘却の河に沈む意志の荒野
時の行方を筆先に乗せて形にならない言葉を返す
語られる物語の終章にあるのは虚無の後先
詩の痕跡を辿り行き着いた光の陰影を浴びて
歌わ ....
八月、
太陽が終わりのない明るさで街を照らす八月、
影のない者は日陰をたどって歩く
わずかなあいだなら
太陽を見据えることもできるが
かれには影がない
影のない者は太陽の下を歩くことはでき ....
苦しげな雷鳴に飲み込まれ
灰色に溶けてゆく午後の中
向日葵の黄色の彩度が
浮いてしまっていて
それでも、向日葵は
いつまでたっても泣いたりせず
ああ、どうしてなの
滲んで ....
許される時知らず
流れ着く場所知らず
其の手の瓦礫
其の血の痛み
乗せたまま
時を越え
流れつづける浮船の
哀しみ
埋まらない心を鉛にする
傷口を君が優しく舐めて
そしてまた固まっていく
重い体はどうしたらいい
吐く息さえも固形であり
時に喉の奥で詰まってる
私が永遠に羊を数えて ....
夕ぐれが夜になるふしぎ
月がかけていく夏の朝
地球のかたむきを
人はいつも忘れている
ふふふっ
気が狂れたかのよう
真夏
圧縮される
熱気にしぼむ
しぼむ沈殿
触れた目差
冷たく遠く
{ルビ一時=ひととき} 水面をみあげるよう
腫れた
光に色も絶え絶え
こ ....
あの夏の指は
空き地の夏草で切れ
薄っすら汗滲む指紋にぽつ、と赤く
劇的に熟してゆく果実を携えたように
あの夏の指は
空き地の夏草で切れ
何処にも行かないという約束 ....
いまのは世界中の石像が
月のちからにひかれ
変身しようとして
均衡をうしない
たおれて砕けた音だ
暗闇の中に、
わたしはあなたの
横顔を探したい
満たされて静かに微笑む
十六番目の月のように
もういいのだと言った
あなたの横顔を、
....
私はやはり、と
言わざるを得ない
やはりあの{ルビ畦道=あぜみち}を
脇目も振らず
私は歩いていたのだと
炎天、真昼、陽炎
夏が侵攻していた
それはいつも匂いから始まる
濃厚な ....
わたしがむやみに数えるものだから
蛍はすべていってしまった
わたしが思い出せるものは
ひとつ
ふたつ
と
美しい光
いつつ
むっつ
と
美しい光
けれどもそこ ....
すれ違った自転車の子供を
振り返る
白線が
鮮明に割き続ける
通学路だったアスファルトから
子供たちの声が古いものから順に遠のいてゆく
肌で増殖する蝉の羽の ....
日記は忘れています
かつて
誰かの小鳥であったことを
目を瞑ると
まぶたの中で風景が裏返る
人は皆
空の切れ端でした
雨がしとど降る夕方にさえ
その図書館は
虹のなないろよりも多くの色彩にあふれているのでした
花はバラ色
空は空色
木々は緑
図書館に住む少女たちは
童話の勇気ある少女のように
....
ふりつもる夜の殻が
ふみしめるたび
かわいた音を立てて
砕ける
名前を思い出せない花の香りが
密度を増した湿度となって呼吸を
奪う
夜の果てにたどりつく
手っ取り早い方法は
眠りなの ....
女が化粧している
裸の背中を私に晒して
射抜くような眼で
鏡に映し出した己を見る
内にある存在へ
女の手は問いながら作用する
ただの身だしなみでも
誰かに見せるためでもなく
太 ....
宝の地図を頼りに
ひた歩く森の緑の匂い
素足に刺さる茨の棘も癒されて
掌にこもれ陽を受けながら
小さな影を追いかける
悲しみなら深く
悦びなら永久に
真昼の森は爽やかな喧騒
小 ....
私は夏雲のあるこの空に
人差し指を差し込んで
この青空の
その底にある
人肌の群青に触れようとする
そのぬくもりは昔日の
小さなおまえのぬくもりに似て
あわあわと崩れそうにゆれる
いつ ....
明けて、色彩が始まり
かつて刻んだ果実の朝の瞬間に
黄緑色の芳香と共にかつてたちこめた笑い声が
初々しい果実として、生まれ変わっているのを感じるから
わたしは齧る
あ
ずっ ....
かがやく小さな雲の群れが
夜の白をすぎてゆく
河口に 入江に
小さな舟がひしめきあい
薄いむらさきのなかで揺れている
雨を照らす手のひら
雨に照らされる手のひら
....
駅のコンコースに敷き詰められたタイルの一枚が
エレベータになっていて
上昇
もしくは
下降する という都市伝説
それは、踏み込んでみなければわからないという
カフェでビールを飲んで ....
悲しいぼくの胸を
夏の夕暮れの風が吹きぬけても、
時に現実として、
ぼくの胸のこの痛みは、
なつかしい思い出ですらありうるのだ。
この星をめぐる、
情熱に関するいくばくかの
光の残滓とし ....
ああ、旅をしているんだな。
揺れるクレマチスの青い花。
ああ、ひとりでいるんだな。
夏が、終るとするにおいが、
今日はしているのだけれど、
どうしてなんだろう。はて、
どこへ行こうとしてい ....
数えきれないほど多くの
手首のかたちをした炎が
夜の空をまわりつづける
見える夜 見えない夜を
讃えつづける
原を越える雨
石の絵文字に咲く花
森をまとった遺跡の ....
見たこともないさよならを
毎日つぶやいているうちに
つめたいそれは温度をもって
かわいたそれは潤いを増して
かなしみに包まれたフィルターを
たぷたぷと揺らしながら
ぼくを爆破した
見 ....
グラスの縁を滑り落ちる
雫のまるい膨らみの中に
千切りそこねた夏景色
麦藁帽子の少女の幻を閉じ込めて
氷の欠片をもてあそぶ指先の
すこし伸ばした爪は
太陽と同じ色に染められて
行き場 ....
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