すべてのおすすめ
やがて光が空から降りそそぎ
何かの形になると
それはわずかばかりの質感をもって
わたしたちの背中を押す
わたしたちは少し慌てたように
最初の一歩を踏み出す
でも決して
慌てていたわけでは ....
石段と
石段と
腰掛けた石段と、石段の
夥しい無骨な角から
無言で下垂する影を利用し
日没が冷たく
成立してゆく
「もしも
ここだろう、と探り当て
わたし ....
甘い水なら
枯れるまで美しく咲けるはず
僕の目や耳や口は
君のために存在して居る
沢山の嘘や誤解や疑惑が世界を蝕んだとしても
躊躇わずにまっすぐ歩いて居て
変わらぬ空が無い ....
海より遠く、寒い砂丘で
さらってきた人魚をすてた
人魚の細く長い髪は
吹き荒ぶ風にあおられ
すぐに砂まみれになった
人魚は美しく、またひどく醜かった
その姿は今、
黒く長い髪 ....
雨戸を開けたら
夜の一過性の麻酔が
今は静かに窓に張り付き
単なる水気となっていた
その硝子面を、つつ、と指で擦り取り
そこを覗けば、山茶花の
一塊の色彩の首だ
....
珈琲の空き缶の蓋から
薄緑の光が立ち上るのがみえた
暗い教室を出ると長い廊下が続いていた。
視点よりはるか先まで
神経が届いてしまうのがわかった。
その先には沢山のドアがついてい ....
太陽の溶けた樹液が
母星を 取り込み
枝の上に 果実を成す
宇宙飛行機には 乗れないけど
かじりついたら
行っていない星はない
この実すべてになるために
巡りきた
宇 ....
入眠
夜を行く 夜行列車の端から端まで
眠れないという あなたの背中を
私の恋を知る 二年の黒髪で覆い尽くす
やがて 足が滑らかに滑り落ち
月の無い夜を 黒豹と翔け行く ....
ともすれば、その人の
冷たい朝なのかもしれない
天井はいつも通りにぴんと張り詰めている
とりあえずは、流行の
そこから外れた道の街路樹のなびく姿を真似て
まずは珈琲をすすることから始める
....
足は
深い草の中だった
踏んでいるつもりで踏む足音は
深く柔らかな草の中からだった
うらぶれたいだなんて、高架下
うらぶれたいだなんて、アスファルト
いつからか ....
我が浮力は何ぞ
この鳥ならば考えたに違いない
何を見ても灰色
否
我じたいが灰色に充たされた浮体であるとき
眼から脳までの
ながいながい距離
山岳を漸くにして越えると
途方もな ....
きっとくる
いつものことながら
風は 遅れている
いっそ青の真空中の扉の
鍵を稲妻であけてしまおうか
ウロボロスの純真は
宙にくちづけして
星を孕んでしまったようだから
いつか ....
(足音が空に響く)
木枯しの吹く 門の影にひとり
傘を片手に
かんざしをなおし空をぼうっと見つめる
黒髪がしん
と光る寒さに
空はなにもいわず
そのままの形で をんなは立ち
「あ」
....
むかいあった
瞳の奥も雪が降る
水彩画になる
そして
嵐の夜
白と黒の町
{ルビ礫=つぶて}のなかの
廃屋をめぐるまわり道
螺旋階段に立つ人々
雨のなかの天使を見下ろしている
瞳から瞳へ落ちてゆく滴
水彩の ....
わたしたち砂にまみれた膝をいとおしむ
わたしたち砂にまみれた膝をいとおしむ
わたしたち砂にまみれた膝をいとおしむ
これは骨のかけら
それとも砂糖つぶ
はちみつのようにとろりと濃い夜が明け ....
わたしにゆるされることは手をかさねること
六月の墓地でしゃがみこんで草笛を吹くと
わたしの手はやわらかい土のように
生まれたてのなめらかな手を覆う
(ささやくのはありふれたうたのよ ....
一歩一歩沈む
沈む
さ迷う森のあなたに
黒く湿った土が香り
白日夢の欠けた月が
まあるく青ざめて眠る
白む指先で
鼓動にふれる声が
ふるえて腐蝕へ沈む
をんなは
なぜか黙り ....
読みかけのグリンバーグが落下した
僕と都市をコラージュする窓ガラスの夕陽
ディクショナリーの見開き
メルカトル図法のグリーンランドが好きだった
あの人の季節が始まった
....
冷たい砂浜に、誰か
体で泣いている
空生まれの灰が沈んできて
波へ死んできて
折り畳まれてゆく、その灰の
海はノイズだ
今は、眼を閉じて
耳だけの ....
放課後の廊下を歩いていた
右手には教室が並んでいて
どこまでも続いて終らない
左手には中庭の木立が並んでいて
無数のヒグラシの鳴き声が
窓ガラス越しにじっとりと暑く
....
一日はそのように始まって
一日はそのように終わっていく
きっと
部屋の隅、テレビの上
ほんの少しの暖かさ、の裏側で
空が重心を失って色を零していく
十時十分
並んでいる時計の ....
金木犀の小花が
打ち明ける秘密を
直ちに忘れてしまってこそ空は
どこまでもひとつの
どこまでも青く澄み切った隙間です
衣服を自らほどいたわたしたち ....
視線をゆきます。
ひっそりとした
鋭角な色のない
告白にも似た存在の道
とぎすまされた意志の果てには重く輝く種子が宿る
涙で
洗われた深い瞳
そこに秘密を映す
答のない ....
さよなら
を言いそびれたから
本当は帰りたくなんてなかった
日比谷線が
たくさんのさよならを詰めて
こうこうと光っていく
あの向こうへ行きたいな
苦しくなんてないけれど
....
午前零時、手を繋いで光る橋を渡る
窓ガラス全部割ってステンドグラスに再構築
地球に派手に落書き
消えない様に
真夜中の
骨の色素が熱を帯びて
暗く
暗く蒸発してゆくのです
未だに守れぬ約束へと
恐ろしく白い
わたしの骨は
いったい何を支えている
夢か幻か否現実か
未来は己で決める
....
目に見えない時を読めるようになったのは
あのひとと次の約束をするためだった
等間隔にきざまれた目もりを
瞬間の目印にして
大きな流れの中でも
わたしたちがまた、手をとりあえるよう ....
木がねむると
木のなかに
ほんとうの木がうまれて
風にふれようとする
風がねむると
風のなかに
ほんとうの風がうまれて
空にとどこうとする
空がねむると
空のなかに
ほんと ....
ギターの弦を
思いっきり緩めて
今日が明日に変わる瞬間の
その境界線上に
そっと置いてみな
弦を弾くと
その揺らぎが
その振動が
今日と明日の境界線を
ぼやけさせて
曖昧にして ....
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