裏木戸を開けると
ひぐらしがないている
あの木の下
薄暗い桜の木の下で


闇間に鼻緒が見えている
そり返った白い足の指が
細い脛が折れそうにのびて
あの時もひぐらしがないていた
 ....
スガイは或る貧しい村の生まれである
彼は五人兄弟の長男で
下は四人とも妹であった

スガイは十歳のときに夢を見た
光り輝く犬が お前は医者になれ と言う夢であった

スガイには両親が居な ....
夜はさみしさをたたえる水面
しずかに腕をひたして
あてどない動きにさらされていた

夜がひそかに身体をゆすると
いつしか私もゆれていて
抱きしめあった記憶が
手のひらからあふれた

 ....
夏空の青色は完璧な色をしているが
綿菓子になり損なったみたいな
散らばりかけた残念な雲が広がって

夏の始まりからその陰に隠れていた
終わりがそっと顔を覗かせている

木蔭には脱皮に失敗 ....
毎日が閉じ込められて過ぎて行くので
こんな時は元気のいい男の子にあこがれるものです

彼のポケットに入って
やぶけた穴から外を見てみたい
木登りやブランコ、くさっぱらに寝転がって
空を眺め ....
この平穏な街で
確かにわたしは存在しているのに
なぜだか存在していないかのような
そんな予感がしてしまっていて

ぼんやりとひかるその太陽に
化かされてしまえばいいのにと
ふと、おもう
 ....
国道を南下すると
海がひらける
それは
わかっているつもりだった
潮の香りがしている
目を細めて見つめている

+

波打ち際で
砂をかく
砂をかくと
掘り起こされてしまう
 ....
             080812


57577 57577
戦闘画面では
画素数を減らす
諸君には理由は
敢えて述べない

のべないのべますと
5段活用変化を思いだす
擬 ....
 なつの朝に
くりかえしくりかえし
泣きながら、うまれる
声と声と声が
遠くの地球
むこうにしろいくも
横ばいに漂う

 わたしたち
くりかえし生まれて
体操して
朝の匂い
 ....
ペン先に積もる黒い雪
世界は四角い
丸くない
背中の違和感
なんて静かな夜だろう
夏の夜の静けさのなかには震える孤独な生き物がいる
そいつは虚無と星の光の混合物だ
いつまでもいつまでも震 ....
夏は不透明だ、と思いはじめたのは
考えてみれば最近になってからなのに
ずっとそんな風におもっていたみたいな気がして
どっちなのだろう よくわからない

喉にペットボトルの冷たい中身を流し込む ....
午後からは雨がやんだ

小鳥のさえずりを聴き
その翼を懐かしく思う

雨上がりの空に架かる
あの虹の向こう側には
僕の両親が住んでいる

会いに行く途中の道で
水たまりで溺れる魚が ....
ホリー、ホリー
見てごらん
空だ、空だよ、月夜だよ

ホリー、ホリー
おいでごらん
風が風だよ、木が泣くよ

ホリー、ホリー
手をつなごう
膝にお座り、空を見よう

ホリー、ホ ....
何もかも徒労だったと誰が知る
心がはぐれそうな夜は
ただあてもなく歩くのが世のならい


街の灯りがあんなに遠い
くたびれた足で石を蹴り上げると
どこか見知らぬ闇に呑み込まれていった
 ....
揺れる大空を
手のひらで掬ってみた
零れていくのは
昨日までの涙
真夏の炎天下の昼間に
涼しくて気持ちいい
この飛んでみたくなる水色を
ごっくん
最近妻がビヨンドになってきている

40過ぎだというのに
髪をピンピカリンの金髪にして
耳は穴だらけ
いくつもピアスをつけて
じゃらじゃらと音をたてている

夏だというのに
わざわざ ....
{引用=

外は雨。







窓のガラスに幾粒もの涙が
透明な線を斜めに描いていく。





ベッドの上からその景色を見上げていると
左手がやさしい感触に包 ....
自分が何者なのか
まだ分からなかった頃
なだらかな猫背の丘の上の
手のひらの形をした大木によりかかって
毎日のように雲を眺めていた
飽きもせずに眺めていた

いわしはうろこが剥がれた ....
流れるプール
もう何周目かわからない

浮き輪に乗っかって
ぷかぷかスイスイ
ゆらゆらぐるぐる

上を見れば
塗っちゃったみたいにはじからはじまで青い
自分の流れていくのと逆に雲が流 ....
細い金属質の陽射しが
容赦なく肩に、腕に、
きりきりと刺さって
サンダルの真下に濃い影が宿る

忘れかけた思い出は
向日葵の未成熟な種子に包まれ
あの夏
深く青かった空は
年 ....
真夜中に子供は眼を覚ます、
覚醒する、息を止める
父親も母親も
今日はもう眠りについていた
いつもはもっと遅くまで
呼吸を荒らげているというのに

しん、と耳の中でなにかが残るような気が ....
わたしの生まれ育った村には
鮮やかな花が咲いていて
広大な田地が広がっている
野良犬がそこらじゅうにべとっと寝ていて
曖昧な微笑みを浮かべる村人と
いないはずの人たちが生きていた

たと ....
もやのなかのきいろいひまわりたちみたく
呼吸する
はりつめていく明け方の透明の空中に
うでをまっすぐにのばしました
旗ばかりがばたばたして「これが本当の自由」なんだなって
コンビニのコピー機 ....
車に轢かれた「ただいま」があった
この持ち主はきっと
今頃帰る家がわからなくて
公園のベンチに体育座りしているのだろう


蒸し暑いこの季節になると
「ただいま」がそこいらで車に轢かれて ....
波の匂いがする。

まぼろしはわたしをさらうことはしない。

やさしさという風が、角のコンビニエンスストアに入っていった。思わず後を追う。ああ、ここにはいつも、誰かがいる。自動ドア ....
排他的な女の子は空を所持している。
その底のほうには、白くてきれいな宇宙船や、手垢できたない算数の教科書、軍隊の格好をしたキューピー人形や、プラスチックのマニキュアの瓶が、ざくざくとはめ ....
カサブランカ
生まれてきたのだから咲きなさい
生み出されてきたのだから

生み出されずに
生まれてきた生命はいない
自分で自分を産むことで生まれる生命なんてない

カサブランカ
生ま ....
ミミという女の子がいて
今もどこかで生きています

彼女は
ゲームセンターのUFOキャッチャーで
お母さんにキャッチされ
取り出し口から生まれてきました

生まれたての彼女は
背 ....

ポストには請求書ばかりが届き
携帯電話の受信フォルダは
迷惑メールでいっぱいだ
履歴書を書けば誤字脱字ばかりで
修整液はとうに使い切ってしまったし

紙屑ばかりあふれる部屋で
どう ....
湿った夜に
孤独の匂う扉が開いたらしい
今日の陽射しに晒した、
二の腕も敵わない強さで
戻る道を塞がれた

草むらに埋もれる羽虫や
苦瓜の、
生き物のような苛立った肌

何 ....
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