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どんよりとした鉛色の雨が、わたしの空洞の胸を
突き刺して、滔々と流れてゆく冷たさが、
大きなみずたまりを溢れさせている。
みずたまりには、弱々しい街灯の温もりによって、
歪んだ姿のわたしの言葉 ....
月が満ちた夜、私の身体、ひとつひとつの動作の継ぎ目や隙間から、生暖かい性感が分泌物のように滲み出ている。
私自身そのことに気がつかないにしても、やがては溶岩のような暗い輝きを持ったひとつひとつの細胞 ....
私が、いくら黒ずんだところで
霊を量れることはない
一度たりとも零さずに{ルビ口遊=くちずさ}むことなどありえない
月が、いくら青ざめたところで
距離に近づくことはない
離れるばかりで引 ....
花曇りの空に舞う胡蝶の
その透きとおった翅を
欲しいと思う
やわらかく笑う
ということを覚えたのは
いつの頃だったろう
新しいピンヒールが
足に馴染まなくて
ア ....
春雨
サクラの破片が
まるでガラスのように
散らかっている
太い幹から広がっているその様は
侵略
を思わせる
風が凪いでも
雨が降っても
抑圧にもならない
それは世 ....
見送るものは、誰もいない。
錆びれゆく確かな場所を示す
冬景色の世界地図を
燃やしている過去たちが、東の彼方から孤独に手を振る。
知らぬ振りをする眼は、遥か反対を伺って、
不毛な距離をあらわ ....
あのひとは花を売るのをやめて
いったいどこへいったのか
わたしがそこへ訪ねていけば
ガラス張りの木枠の中
古いミシンが1台切り
道路の上の毛皮のように
カラスに喰われて
何もない、わ ....
国道に面した真新しいホテルで
五回目の夜を寂しく過ごしている
激しい雨音を掻き鳴らす春は
去年よりもずっと冷酷だった
ルームライトに浮かぶ哀れな影
照らされる白髪を何本か引き抜いても
....
いつだって鳴いて良いとあなたが云うから、
私はいつの間にか、鳴くことを止めた
いつだって鳴いて良いと
そう云ったあなたは
穏やかな喧騒の中に、消えた
一過性の渦の中で叫んだ愛 ....
その道を歩むことを拒んだ
きみが
いくなと僕に叫んだ
それと 同じ気持ちで
拒んだ
春は残酷だ
なにもかもが崩れていく音しかしな ....
溶けだしたぬるいアイスの
表面だけをすくうような日々だ。
甘ったるくて、まずい。
アイスを食べているつもりでも
それはアイスとは呼べないんだ。
表面だけの、実体のない日々だ。
....
普段通っている路地の
影にあるもう一つの街
影の街を僕が知ったのは
12の頃で
その頃
父はこの街を出て行った。
あなたが近付く音に
冷たいはずの鼓動が脈打つ
けして触れてはいけない禁忌
シャワーから流れる
生ぬるい体温に
体の隅々まで
犯されていく感覚に犯されて
頭の中が真っ白に痺れてしまった ....
この十本の指はあなたを知っている
手の温度、肌の感触、
皮膚の内部に眠る雪色の精神を
固すぎる心の板を剥がして
その下のぬかるみに
沈みつづけるあなたを
引き上げてあげたかった
....
私は瓶の底で
静かに沈殿している
焦げ茶色の液体に{ルビ塗=まみ}れて
歪曲した夕日ばかりが
私の唯一の慰みになり
頑なに拒んだ日はいつだったのか
もう思い出せはしない
幾ばくか ....
こたえ
みえてる
かいわのなかで
からわらいして
たばこふかして
めじりをかいて
あしくみなおして
まどからみえる
そとのけしきは
どこのだれにも
わかりやすくて
....
肉の裂け目を目一杯開けて待つ
容器の淵に溢れる形なき色
腫れぼったい肉の淵どりに染む冷気
金属的な質量が粘膜に広がり
そして最奥の壁にたどり着く
筋肉を震わせて襞は開き
内臓の熱がどう ....
青さなど持っていないよ
海を目の前にして
君が言った言葉
君の吸うたばこの煙が
30センチ昇るまもなく風に消され
僕の問いかけの言葉すら
流されてしまった潮の漂着場で
「青さなどもっ ....
濡れはじめた空が
歌をくりかえすのに
私はピアノを弾けないでいる
雲が沈み雨音が遠くなり
やがて射しこむだろう光に
伸びた髪をさらす
地上が反転する雫のなかで溺れる
鳥の影が風に波打つ
....
テトラポットは
青年を待っている
彼の落とす
欠伸を拾う青
手打ち網が
魚の背鰭を流れる
汽水湖の空
腰を覆う
水の束
地平線の呼吸
どんな呼吸をしようか考えていたら
肺のひとつひとつが切なくなって
僕はため息をついた
生きるために生まれてきた
それだけでよかったのに
人は人を殺 ....
流行性感冒になったまま
廃棄物処分場の見える小窓の角の
名前も知らない虫の屍骸を睨む
新しい靴はまだ買いに行けそうにもなく
何がしか捕食しなければならないが
手足はとっくに死んでいる
....
神や天使は
私を救うのを忘れている
死神や悪魔は
私を殺すのを忘れている
忘れられるのが辛いから
誰とも関わらない
私は惨めで醜くくて
時代はしらけてしまってる
人類の ....
踏みつけていた
いつの間にか踏みつけていた
{ルビ直線歯車=ラックレール}
きれぎれにされた
人生のように
強さだけを必要とされて
ずっとつながっていました
峠を越えるの ....
最後の夜を見つけておいで
そうして
首輪をしたら そっと撫でてあげて
訳もなく泣いて 泣いて
見つけられんのを待ってんだろう
いつだって昔見た夢を塗り重ねて ....
壁の無い部屋。隅っこに落ちているフライパンには
38口径の歯型が付いている。夜毎、俳優達の頭を
ハンマーで叩いてまわるという老人。彼にありったけの小銭を渡せば
修理してくれるという。
少年たちは愛も知らないまま
機関銃と手を繋ぎ
あくびをしている君達や
あどけない顔の君も壊すんだ
もっとよく愛について知っていれば
もっと愛について話していれば
それがなにより大事 ....
街を囲う高いこの壁に
盗んだペンキで
とりの絵をかいた
「逃げ出しておくれ。」
壁をこえるだろうか
川をわたるだろうか
村をさがすだろうか
母をみとる ....
僕の熱を奪わないでくれ
僕を奪わないでくれ
止めてくれ、もう
熱を奪うのは
体が凍えてしまうよ
心まで冷めてしまうから
これ以上、僕を
零度の海に突き落とさないで
満たされる
病めて ....
この、聞こえない左耳で
この耳で聴いてみたい音
それは、世界に
あふれる音ではないのです
時間を追い抜いていく時計の刻む
バンアレン帯に太陽風が吹き付ける
海溝の暗闇で深海魚のため息
....
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