雨に詠えば
松本 卓也

国道に面した真新しいホテルで
五回目の夜を寂しく過ごしている
激しい雨音を掻き鳴らす春は
去年よりもずっと冷酷だった

ルームライトに浮かぶ哀れな影
照らされる白髪を何本か引き抜いても
紛れるほど気楽な悩みを抱えていない

今日も待っている言葉がある
明日もきっと待ち続ける声がある
物憂げな佐世保の夜に慣れないまま
聞こえない声に耳を傾けるため
肘をついた姿勢がただ一つの習慣

泣いているような顔で笑いながら
走り行く疎らな車を目で追って
ささやかな暇つぶしで暮れる日は
呟くため息とどちらが早いのだろう

窓から見える明日の姿を想像して
今日と同じ風景しか思いつかなくて

気がつけば今日も同じ言葉で
寂しさと妬みを囀っている
どれほどの無意味さを生んできたのか
洗い流す雨は知っているはずなのに

燻らせる湿気た煙草に
誤魔化してきた数々が
胸に残ったままなのだから

僕はきっとまだ明日に行くべきでなくて
引き留める雨脚に晒される事を
奥底で望んでいるのかもしれないのに

何遍も何遍も
勝手気ままに期待して
勝手気ままに裏切られ
勝手気ままに立ち直り
勝手気ままに生き延びて
勝手気ままに
勝手気ままに

雨が止むのを待っている
流れるだけ流れつくして
最後に頬を伝う小さな一粒を
掌に掬い取ってみたいだけなんだ


自由詩 雨に詠えば Copyright 松本 卓也 2006-04-11 00:07:31
notebook Home 戻る