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{ルビ梔子=くちなし}の満開の下へは
決して近寄ってはいけない
『クチナシの木の満開の下』
子が出来ぬ
という理由で離縁された女は
梔子の花しか食べられなくなった ....
えのぐのあじがする
と、遠ざけられた皿には
白いドレッシングのかかった
シーザーサラダが
盛られたかたちのままだ
野菜も食べないと大きくなれません
と云われて
娘はふくれている
....
足音が
大勢の中に還っていく時
遠くで自転車は雨音の中に忘れられている
少年が
少年のままで頭を下げながら生きていく
そんな時々、あれは私たちが作り上げた
屋根や壁や、縁の無い窓
遥 ....
お嬢様、今は寒う御座いますが。
雪虫舞う空は御納戸色で御座いますが。
お顔をお上げ為さいませ、
やがては春が来ましょうとも。
お嬢様の指の白いことと申しましたら。
全く蝋燭の様で御座いま ....
水平線が夕日を融かすというので
その仕組みを知りたいと
渡し船を探しに海岸づたいを
西に向かう、それが私たち
綺麗なものばかりを
追いかけてはいけないと
釣り人が忠告したが、僕たちは
綺 ....
風は暗がりから吹く
私の影は滴りつづける
誰も居ない
かつて誰かが居たかもしれない
そのわずかな痕跡も
とうの昔に温度を失い
記憶を失い
頭上には黒い星座たち
ただ脳裏 ....
改札口の向こうで
ピアノに蟻が集っている
きっと甘いんだろう
ハモニカを忘れてきた駅員が
時刻表に小さな落書をする
間もなく秋が来るのに
量が足りてないのだ
まだ君と僕とが出 ....
「修行」
午後には温かくなる体
ベビーピンク の爪の肌
血が通いましたよ 私
今日も祈るように手を合わせ
指先に軽く接吻する
上瞼は慈悲深く閉じられて
朝靄の消え行く間に ....
夜中に仔猫が鳴いている
さぞ寒いことだろう
行き交う人は皆孤独のコートを纏い
白い息を吐きながら雑踏に消えていく
乾燥するのは肌だけでなくて
心まで乾燥していく
まぎれも ....
月のしずかを詠むほどに
月を
寡黙に封じ込む
聴きそびれていたかも知れない
のに
細い肩には雲をのせ
風をたよりに
風さえも
去り
物云わ ....
{引用=
月の夜に
後ろから囁く
危うい光
地獄にも
天国にも
行きそびれたね
傷の深さに降りる
水晶の測量器
闇の奥で光るクリ ....
定年後
趣味で油絵を始めた親父が
キャンバスに向かい
一枚の絵を描き直している
さっ さっ
と音をたてると
窓辺から
午後の日が射すこの部屋に
絵具の匂いが満ちて ....
ひとひらひとひらと
空から雪が舞い落ちて
小さな小さなその粒は
一つ一つの言葉のよう
ゆらりゆらりと
空から風が吹き流れ
右へ左へ漂いながら
言葉と言葉をつなげ合う
ひとひらひ ....
{引用=
一、レプリカの四月
たとえばそれは食卓のさかな
二度と泳がない姿はあわれです
しかし言葉はあぶくですから
気付かれずに消える、その
あぶくこそが ....
たまねぎを刻むと涙が出る
それにかこつけて
少し本気で泣いてみる
そうして
矢張りわたしは
要らない子かも知れないと思う
だけど午前の台所は
悲劇ごっこをするには明るすぎるし
誰かを想 ....
午後から
雪がすると言って
ハツコは眠った
ハツコ
はつこ
はつ、子
ああそれは
どこまでも
降りしきる降りしきる
降りしきる降りしきる
向こうはもう見えないよ ....
カシスが含まれたケーキを
よくいただきます
思えば私はあなたについて
とても甘い夢を見ています
逢いたいです
逢ってください
微笑みたいです
微笑んでください
口づけた ....
1
夥しいひかりを散りばめた空が、
みずみずしく、墜落する光景をなぞりながら、
わたしは、雛鳥のような足裏に刻まれた、
震える心臓の記憶を、柩のなかから眺めている。
(越 ....
冬の寒気が細く伸びて
岬の先のほうへ
鋭く尖っていった
遠くで生まれた赤土の丘が
最後に海へこぼれ落ちていく場所で
わたしの そしてあのひとの
フレアスカートのはためく裾から
なめらかに ....
いのちの大切さって何だろう
きれいごとでは済まされないこと
野生の獣が弱い生き物を捕らえ
生きる糧とするように
人間だって経済動物と言う名のもとに
生き物のいのちを断っている
(ひとのいの ....
一、
欲するのは桃色の乳房であり
熟れた林檎の頬ぺたでもあり
二、
卵殻のなか足の指で貪る夢という名の水菓子
三、
拒むために無知を選んだ
意識した愛情も無意識の悪意も
....
照る岩に
砕かれてゆく波のうつくしさ
それはもはや
言葉には乗ってゆかない
冷たい、
というわけではなくて
いつからか
鋭いものが岬だとおもっていた
まるくても
まるくな ....
{引用=僕がチャーくんに出会った頃は
魚が飛んでいました
鳥が泳いでいました
月が溺れていました
太陽は寝ていました
僕の世界は笑うことを知りました
}
初詣に行く前に
チャーくん ....
あ、
あさごはんが
きょうもやわらかい
そしゃくされた
いのちが
おなかに熱くしみとおる
やわらかくなって
この手に
とどくまで
いったいどれほど
かみくだかれたの ....
帽子を覗くと
中には都会があった
かぶることも出来ないので
しばらく眺めることにした
頬杖なんてしたのは
いつ以来のことだろう
自分にも重さがあったのだと少し驚く
風変わりな光景があるわ ....
星の言葉 降る降る
空の端から
投げかけられた 放物線
かすめていったひとかけら
こぼれて描いた その軌跡
ほんの少しを呼吸して
小さな夢を叶えるために
届くといいな 流 ....
小さく微かな星の灯が
大地を照らすこの夜に
何も語らずその時を
佇むのみでいい
ゆっくり流れる川の音が
足音とともに響いてる
何も考えずその場所を
歩くのみでいい
その時にしか ....
胸の奥底を突き刺す
あの時の届かなかった想い
尖りきった気持ち
傷つけてしまったことば
風が攫っていったのか
冷えこんで行く空に
張り巡らされた鉄条網から
....
水の上に凍る陽の音
霧の祭が去ってゆく音
緑の底を流れ来るもの
道にあふれ 道をひたす
いきどまりが双つ 手をつなぎ
傾いだ螺旋にはばたいている
岩の壁 土の壁に触れ
生 ....
うすずみ色の空はひくく
ピアノ線を地におろし
哀しみという歌をかなでる
さえずる鳥さえもいない
こんな午後は
暴かれてしまうことをおそれて
いくどもたしかめた肌の ....
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