わたしは耐える、
この肉身の苦を
平然と平静に
ヤバいじゃんとか
想いながらも飄々と。
*
魔と、魔の
間で
均衡保ち
呪われ祝福された
わたしを ....
ぼくの礼服はスリーピース
着ている人は見ることもない
{ルビ誂=あつ}えてから40年の時を過ぎ
いまもジャストフィットする
鏡に{ルビ映=うつ}るぼくは少し若く見えた
火葬場の職員が骨の ....
帆柱の{ルビ帆布=はんぷ}は風に散り
ボロボロになった海図を胸に
白骨化した船長は錆びた剣を掲げ
地獄から呻くようなかけ声でヨーソロー! と
かけ声を響かせた
白骨の水夫たちは深海魚のように ....
小さな庭の忘れ柚子
採ってみれば中がブカブカしています
ちょっと前まであんなに固かったのにどうしたことでしょう
果汁を絞ってみたところで焼き魚の足しにはならないでしょうね
この数ヵ月ですっかり ....
シン・ジャガのシンは新です。
収穫されたばかりの新しいジャガイモです。
シン・タマは新しいタマネギです。
新しいたまさんではありません。
残念ながら、ぼくはもう再生不可能です。
では、
....
コトコトと
ゴボウと牛肉の甘煮を作る
グラスを傾けながら
美味くなれよと
酒気帯び呪文
故人を偲び
独り
骨を拾った帰り道
西陽がとても眩しくて
何も見えない
いっそあの夕陽に向かって
ふたり 空の果てまで行ってしまおうか
何時も一緒に{ルビ詩=うた}を歌っ ....
{ルビ冬の雷=ふゆのらい}マクドナルドは混んでおり
紙の白寒しインクは北斎の藍
餅の黴削ぐ母在りて台所
冬苺 逢いたい、だなんて今さら
倒れこむ人の音かと しずり雪
空咳 ....
ちいさな灯りを枕元に遺しておこう
キミが真っ暗闇でも
夢を掘り起こせるように
閉じられたまぶたの下で
かすかに動く気配みせる眼球
昼間の世界とは別に
もうひとつの世界があると知った ....
光る風光る
風に乗る雲へ
さようならと
手をふる
風の子
・
冬
鈍色の空の
雲間から
光がさしこんで来て
いのちに灯る
冬の朝なのに
ぼくはアイス珈琲を2杯飲む
夜明け前に紡いだ夢を反復し
物語を繋ぎあわせてみる
これがぼくの日課なんだ
風、そして風の鼓動
空の欠片を集めると
それはいつも爪に似ていた
窓だけが知っているわたしの形
初雪が観測された朝
静かに紙で指を切って
独り言のように
痛いと思った
....
悲しみのピエタ
貴女はぼくをそっと抱きしめ
紅い涙を流してくれた
ぼくは復活することはないけれど
貴女に{ルビ抱=いだ}かれ
子守歌を口ずさんでくれた
嗚呼…
{ルビ悲母=ひ ....
絶対届かない詩がある
死者への詩だ
私はまだ生きている
そんなにじろじろ見ないでくれ
独り言は遠い
青き狼は
白き雌鹿をともない
旅は千里を越えた
野を駆け 河を渡り
此処までやって来た
壁を打ち破り
数多の屍を乗り越え
果てない天地を追い求め
日々の至福を味わった
遥 ....
秋過ぎて
名残の風は
漂泊の
想いで刻む
たむけ花
{ルビ荼毘=だび}に付したる
{ルビ骸=むくろ}には
五色に浮かぶ
{ルビ懸想文=けそうぶみ}
てのひらほどく
文様も
....
酔い酔いて
はるばる来たり
漂泊の
独り旅ゆく
冬の路
背にかかる
粉雪払い
往きゆきて
弥生の夜を
垣間見る
漆黒の
夜空舞い散る
さくら花
{ルビ闇路=やみじ}の ....
悲しいことを
悲しいと思えない
悲しさ
悲しい時は悲しもう
涙は愛に帰る
・
ずっと
マヒしている
空気の子は
ありがとうだけを
忘れ去らないでいる
・
この
....
とらわれないようにすることにも
とらわれないようにするには
きちんと
それと
向き合うということでもある
やすらかな君の寝息をそっと聴き
独り静かにグラスを傾むける
まどろむ君に{ルビ詩=うた}歌い
もう一杯とキッチンに氷を求め
明日の天気を占った
酔い夢を…
否! 良い夢を
....
子供の頃 何にでも興味津々な
そんな人間を演じていた
そうすれば
博士枠に入れると思っていた
友達ができるのじゃないかと 期待していた
真似ることは学ぶこと 格言に勇気を ....
かくとだに
想いを馳せて
きみはいま
祈り捧げる
満月の夜
たらちねの
忘れた歌を
想い出す
今宵静かに
ぼくは歌うよ
あしびきの
夏に登った
山なみに
今はもう亡き ....
昨夜
オマエから電話があり
今週末にまた骨を拾うことになった
オマエの父さんは理性と優しさをそなえ
オレを何時も歓迎してくれた
二十歳の真夏日にビールをしこたま飲みながら
ぼくの屁 ....
雪は
春に
解ける
こう知りながら
冬を生きる
・
今
今があれば
これでいい
ありがとう
あなたへ
もしもの時は
もしもの時です
私が居なくなっても
地球は回る
あなたと共に
暗く深いトンネルを抜けると
其処は石化した暗い時計の森だった
文字盤の針はみな狂っていて
ぼくの足音だけがサクリ サクリ…と空に消えていく
遠くから
ギリッ ギリッ… とネジを締める ....
能登半島地震、羽田空港の事故火災
壮絶な始まりだ
多くの当事者がいる中
ぼくは表紙のような顔で
誰かに道を譲った
月の昇らぬ砂浜に
{ルビ唐紅=からくれない}の空眺め
忘れた歌を想い出す
衣を染めた{ルビ白鳥=しらとり}は
{ルビ空=うつ}ろな波に身をまかせ
{ルビ還=かえ}る{ルビ棲家=すみか}を ....
子供たちが去った夕暮れの公園
鋼色の空に咲く
小鳥のような白木蓮
その一輪をきみにあげたくて
手を伸ばしても届かないもどかしさ
独りグラスを傾けて
想い出す 顔と顔
都会で育ったぼくたちに同窓会はない
車を出して
思い出の街を訪ねたら
空と路は狭く
商店街もなくなっていた
小川は埋め立てられ
桜並木もア ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39