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【期間限定〜9月15日】23歳以上の人の『夏休み読書感想文』(原稿用紙3枚) (創作系)スレッドオペレーター:田代深子
・本日より9月15日まで限定(9月16日には過去ログに入れます)。
・23歳以上の方の投稿を募ります(上限はありません、年少者の年齢詐称についても特に追求はしません)。
・本の感想に限定します。ただし本のジャンルはまったく問いません。
・文字数は原稿用紙3枚(1200字)程度でお願いします。
・「課題図書」は自分で選択してください。
・べつに夏休みをとれない方でもかまいません。読み書きする時間と欲求がありさえすれば。

【公的注意事項】
・コメント冒頭に「課題図書」の著者名・作品名(必要な場合は出版社名・出版年)を明記する。
・「課題図書」の文中から引用する際には、引用であると明確に判じられるような記載方法を行う。
・他の文献からの引用も同様に記載し、引用元を明記する。

今年は年齢枠を2歳引き下げました(笑)

[15]田代深子[2011 09/16 00:01]
……はいっ! 時間切れです!
もーしわけなーい
またそのうち続きを書きます

さて 今年もご参加ありがとうございました
また来年もたぶんやります そのときまたよろしく

それではみなさん ごきげんよう!
 

[14]田代深子[2011 09/15 23:58]
ガルシア・マルケス『百年の孤独』
 最初に読んだのは、おそらく20年ほど前である。
 最後に死んだ赤ん坊が蟻の群れに運ばれていくところ、南米の森に閉ざされた集落のやかましい明るさと蒸し暑さ、などが印象として残っているばかり。読み返しはじめて驚いた私は家人に「これすごい、マジすごいって」と、それこそ23歳の若者のように口走っていた。
 百年にわたる一族の物語。マコンドという土地を切り拓いたホセ・アルカディオ・ブエンディーアに始まり、6世代目として生まれマコンドの消滅と共に死ぬ運命の赤ん坊にいたるまで、一族の者たちがさまざまに生きて死ぬ。
 百年というのはとても長いようで、じつは人ひとりの人生程度の長さであることがよく解る。宗主の妻、一族の母ウルスラは、5世代目が大きくなるまで生きていた。中世さながらの隠れ里に「外界の文明」を連れてきた彼女は、マコンドが電気や電車で徐々にふくれあがり、息子や孫たちを内乱や権力に奪われ殺されるのを目撃し、自身とマコンドの収縮を長々とあじわってから死んだ。「聖週間の木曜日の朝、ウルスラは息を引き取った。」とあるのは、307総ページ中の256ページ目。
 

[13]田代深子[2011 09/15 23:05]
ほんとにすっかり夏休み状態だったスレオペ
もーーーしわけなーい!
しかしみなさまの感想文 ちゃんと読ませていただきました
あいがとうございます
さすが23歳以上 みんな選ぶところがシブいなぁ

で かく言うスレオペの感想文がまだ未提出なのですが
夏休みの宿題ですからね! ぎりぎりで!
…いまから1時間 書けるところまで書いて
そんでアップしてから
このスレッドを過去スレに収納することとします
ではいざ
 

[11]mizu K[2011 09/14 03:47]
>>5 奥主さん

ウェストールはすこし読んだことあります。おなじく『かかし』が初めてだったかな。あと『ブラッカムの爆撃機』も。ベネッセのこのシリーズは良作が多かったような(うろおぼえですが)。『海辺の王国』は読んだことないのです。機会を見つけて。いつか。

『ブラッカム - 』は某ジブリの監督氏がはたらきかけて新装版が出てるみたいですねー。
http://book.asahi.com/clip/TKY200610110249.html
イメージが固定されるかな、と思って読んでないのですが、飛行機の解説などあるみたいなのでそれはちょっと見てみたいかも、と思いつつ今に至ってます。
 

[10]mizu K[2011 09/14 03:43]m.qyi深水遊脚田代深子
チェーホフ『かき』(『カシタンカ・ねむい 他7篇』 神西清・訳 岩波文庫 2008.に所収)

「柿」と思っていたら、「カキ(牡蠣)」の話。

カキのおいしい食べ方といえば、と思いめぐらしてみると、だいたいカキフライとカキ鍋あたりがまずうかんできます。フライがとにかく、おいしい。鍋にしても、やっぱりおいしい。口に入れたときのプリッとした弾力だとか、その後のじゅわじゅわーと広がるジューシーかつクリーミーかつ濃厚な味とか、それでいてちりっときて少し舌にざらつく苦みがこれまたよくて、口の中をやけどしそうになりつつも、はふはふと、ついつい箸が止まらず食べ過ぎる、ということも。ああよだれが。

もしくは七輪であぶって、醤油をちょっとだけたらーっとたらして、そのまま殻からずずずっとすすって、つるんとした喉ごしを楽しむのも、これまたよいものです。カキカレーもおいしそう。秋から冬にかけて、これからの季節が旬となるので楽しみなものです。ああよだれが。

けれども、チェーホフの『かき』に登場する少年(8歳)は、カキのことを、まずその姿かたちはおろか、食べられることすらまったく知らないでいました。ところが、カキが海のいきもので、食べられるということを聞いただけで、そこからひたすらカキについて想像をめぐらすのです。ここの描写がすごいのなんの。ある事情のためにとにかく空腹で、意識ももうろうとしつつある状態の少年。カキについての諸々の情報、色、味や食感、におい、調理方法など想像は、実際のカキを知っている読者からすればまったくのデタラメであるのに、正直けっこうグロテスクなところもあるのに、妙にこちらの食欲をそそられるのです。そしてカキを食べたい!腹いっぱい食べたい!という少年のとにかく貪欲な食欲がこちらにばしばし伝わってきます。ああよだれが。

空腹でたまらないとき、人はどんな顔をしているのでしょうか。

食欲というのは生命維持のために必須の欲求でありながら、その行為にはどこか背反した感情がつきまとうような気がします。食べたい、おいしいものを食べたい、食べ尽くしたい、その欲望、その飢餓感。けれどもおなかがくちくなってしまうと、ああ満足した、幸せだ、という充ちたりた状態とともに、ああ満足してしまった、という、ものがなしさにもおそわれるのです。みちてしまった。くちくなってしまった。食べ尽くしてしまった、もう食べられない。せつない。

人はその生の間に何度、おなかがすいたと泣くのだろう、それが空腹からくるとわからずいらいらするのだろう、飢えに欲するのだろう、満腹を感じるのだろう、幸福に満たされるのだろう、胸が苦しくなるのだろう、嘔吐して後悔するのだろう。そして『かき』の少年はそれらの、彼がこれから経験するであろうことのとば口に、このとき立ったのではないだろうかと、そんなことを思いました。
 

[9]深水遊脚[2011 09/12 18:18]只野亜峰AB(なかほど)田代深子mizu K
かっこ悪さは強さ (『一茶』藤沢周平著 を読んで)

 誰かの生き方に対する評価は、その人自身にも、他人にも分からない。後世の歴史家に評価を委ねようとすれば余計に大事な部分は抜け落ちてしまうかもしれない。何かが欠け、何かが過度に強調される他人の評価は(異なる時点からの自己評価でさえも)、数を集めて相互に補い合わないと、評価対象の人に対するひどい誤解をもたらすことになる。結局のところ評価は役に立たず、人はただその時々を懸命に生き抜くしかない。
 小林一茶については人間味のある作風、子供や小動物に対する慈しみの感じられる句に定評がある一方で、遺産相続の際の強引な交渉、歳をとってから娶った妻との貪るようなセックスがたびたび話題になる。これらは矛盾する事柄だろうか。私がこの小説を読んだ印象では、一茶の生涯は、生きる力をその時々で身につけ、清も濁も丸ごと引き受け、気取って体裁を繕うことなく懸命に格好悪く生き抜いた、あっぱれな人生に見える。藤沢周平もそのあたりに興味をひかれて一茶を題材に選び、筆が進んだのではないかと思われる。この小説には、一茶が二十前後の若者だったときに、三笠付けという下の句に上の句(あるいはその逆)をつける博打まがいの遊びにたびたび参加し、賞金を稼いでいたという描写がある。これは資料からは分からないその頃の一茶について作者がかなり想像力を働かせて作り出したものだ。一茶にとって俳句を作ることが金に困らぬ者の道楽ではなく、それを使って生きてゆく為のものであったことを端的に印象付ける描写だ。
 俳句を使って生きてゆくといっても、身も蓋もない言い方をすれば、自分の句を面白がってくれる誰かに庇護されて食い繋ぐというものである。幼少期に父親によって江戸に奉公に出されて郷里を離れたが、奉公先の仕事が長く続かず、三笠付けの場で俳人と出会ったのをきっかけに俳句で食い繋ぐ生き方を一茶はしてきた。一方で郷里では弟と義母が中心になり真っ当に努力して田畑を増やしていた。一茶の義母(父親の後妻)と一茶との不和を解決すべく一茶を江戸に奉公に出していた父親は、将来一茶が困窮することを見越して、長男である一茶に田畑の半分を相続するという遺書を残してこの世を去る。あくまで小説の描写だから一茶の心理がこのようなものだったかは分からないが、一茶は当初人並みに遠慮する。田畑は自分が大きくしたものではないのだと。しかし幼い頃から自分をいじめてきており、今また露骨に自分を胡散臭げに見下す義母に対する反感を募らせ、父親の財産を受け取ろうと決意する。相手にされない状態から、「半分にこだわらなければ」と弟がわずかに心を許して設けた会合の席で、父親の遺書を公にしてその半分の権利を主張する。実際に引き渡されるまでになお数年を要したが、受け取った後に、権利確定後に義母と弟が占有していた家や田畑のレンタル料も取るという徹底ぶりだ。
 こうした逞しさゆえに、既得権に胡坐をかいていばっているだけの俳人に対しては激しい侮蔑の感情も見せたりする。社会的な地位は侮蔑する相手のほうが良くみえるのだから嫉妬も混ざる。そうした社会的地位よりも生命力のほうを尊び、己を貫いた生き方に、私は強さを感じる。筋を通す生き方では全くない。めちゃくちゃだ。でも、形にとらわれて身動きできなくなったとき、この人のように生きられたら、と思うことは大いにある。
 

[8]ふるる[2011 09/07 00:01]mizu K田代深子
『いい子は家で』青木 淳悟著を読んで

最近評判のいい『私のいない高校』が図書館の順番待ちで借りられないので、同じ作家のを借りて読んでみました。

これは・・・・いい!
保坂和志とガルシア・マルケスとジャン・フィリップ・トゥーサンを足して割ったような感じ。語り手のあやふやさ、視点の留まらなさ、日常のどうでもよさげなことを延々と語り続けるしょうもない面白さ。
『いい子は家で』も他の短編も、ただ、家族がうざいんだわ〜みたいなことが書いてあるだけ。でも、その書き方が上手いというか可笑しい。たとえばガルシア・マルケスの『族長の秋』ですと、一体誰がこんなに細かいことまで嘘だかほんとだかわからないものも混ぜこぜにして観察記録してるんだろうと思い、それが目くるめく視覚的記述の連続で、翻弄されたり酔う楽しさがあるんですが、あんな感じを日本の作家がものにできているとは驚きです。バターや父親を観察しているうちに妄想だか幻覚だか創作だかの世界にするーっと入っていくのですが、その自然さといい、珍妙さといい、破綻の一歩手前で踏みとどまる理性といい、この作者の筆力はただものではありません。
日常を書く細かさもいーいところに目が行き届き、洗濯ものにティッシュが混じってる時のことなんか、ニ槽式のことまで持ち出せる作家はそうはいまい。もちろん書くことはできるけど、読者の目を離さないように、引き込みつつ書く、なんてことが、ティッシュからニ槽式に行き着くまでキープできますかね。
「何」を「どう」書くかについて、問われ続ける文芸ですが、最近売れている小説というのは、「起伏のあるストーリー」を「わかりやすく、読者が飽きないように」書くことに特化している気がします。けれどもあえて、現代において、「よくある日常の風景や家族へのいらっとくる感じ」を「それとわからない技術を駆使しつつうまく読者を引っ張っていくふうに書いた」人って、私ははじめてだったです。読んでいる間じゅう、小説というものの枠組みがぐらぐらするような感じを味わえました。

ただし、小説に涙とかストーリーとか山場を期待する人には全く面白くないと思われます。
 

[7]ガリアーノ[2011 09/04 23:02]mizu K田代深子
夢野久作「犬神博士」を読んで
 夢野久作は、気になりながらずっと手を付けずにいた作家でした。「ドグラ・マグラ」や「少女地獄」が有名だとは知りながらも「犬神博士」に手を付けました。気負いがなくて済むような気がしたからです。
恐らく一番有名であろう「ドグラ・マグラ」が「三度読み終えたものは必ず発狂する」「三大奇書の一つ」等と謳われていることが意識の片隅にあったため、どうしても身構えてしまいました。しかし読み始めると驚くほどすいすい読み進めることが出来ました。言葉遣いの古さにさして時代を感じさせない、シャープな文体についページを繰る手が進みました。
要するにこれは、マイノリティの物語です。マイノリティとして生かされ、マイノリティとしてしか生きられなくなった少年の人生史です。また、親を素直に慕う子ども心が飾らない文章で随所に描かれています。ちいさな子どもが、どのようにして親を慕い、どのような仕打ちを受けて親と関係性が築けなくなるのかもわかりやすいです。小説として、子どもらしさがピュアに誇張されている感がないとも言えませんが。
子どもが無力で、親に従わざるを得ない存在であることが全体を通してよくわかります。実の親でなくとも、物心ついた頃から傍にいた年かさの男と女を親と認識するのは子どもなら当然でしょう。そして、実の親でないとわかりながらも慕うことを禁じえないのが人間というものです。血の繋がりは確かに超えられないものがありますし、血族でないと共有できない文脈があるのも確かです。しかし、生活の場と生活を長年共にしていないと通じあわないものがあるのもまた確かです。遠い親戚の訃報より、近い友人の事故の方が衝撃が大きいというところで我々にも理解できるものです。
加えて、公的権力の理不尽さもよくわかるものです。警察や政治家の機嫌を一切取らずによい結末を迎えるのはいかにも小説ですが、その展開は小気味よくついあたたかく誇らしげな気持ちになってしまいます。そういった意味では、主人公を「神童」や「幻魔術使い」として扱われる場面が度々登場するのはうまい設定だったかもしれません。
個人的に最も気になったのは、結末から冒頭へどのような経緯があったのかです。逃げ切った少年がどのように生き延びて、どのような経過でぼろを纏い手作りの掘立小屋で無数の犬猫を飼育する「犬神博士」となったのか、さまざまな想像が頭を過ります。両親はどうなったのでしょうか。あの事件から、一度も会わなかったのでしょうか。天沢老人とはどのようにして別離したのでしょう。何故このようなエンディングにしたのかはわかりかねますが、二度三度と読み返さずにはいられない小説だなあと、最後のページを繰りながら思った本でした。
 

[4]AB(なかほど)[2011 08/31 17:49]田代深子
ジュール・ベルヌ、手塚伸一 訳「気球に乗って五週間」を読んで

 作者の初めての冒険ものとされていますが、のちの作品、とくに「八十日間世界一周」でも出てくるような気真面目なイギリス人主人公が、緻密な計画を立て、常人であれば困難と思われる冒険を乗り越えて帰国するという得意なストーリーが展開されています。「海底2万マイル」や「地底旅行」、「月世界旅行」ほどは有名でもないし、飛行機がこれだけ飛び交って地球が小さくなってしまった現代で、気球はそれほどワクワクできるものではないかもしれない。というわけで子供が読んでくれないので、お父さんが手にとって読みました。正直なところ読んで楽しいのは後々の作品群です。
 ただ、アクション・シーンではなく、順調に気球からアフリカの大地をのどかに眺めながら、主人公(ファーガソン博士)と友人(猟師のケネディ)、使用人(ジョー)の三人が何気なく会話をしている場面で、農業が最初に発展したのはアジア(中近東)で、その耕作地が放棄されてヨーロッパで農業、産業が発達し、現在はアメリカに勢いがあることが語られ、アメリカの大地が疲弊した後は、アフリカが発展するだろうと博士が話しています。ずいぶん、説明的な文章だなぁ と眠くなってきたところで、次のような言葉が続きます。

博士「・・・どこよりも肥沃で、どこよりも豊かで、どこよりも活力のある国は、強大な王国になるだろう。ここできっと蒸気や電気よりも強力な、驚くべき動力が発明されると思うな」
ジョー「ああ、先生。そういう時代をみたいなあ」
ケネディ「でも、産業界が自分たちの利益のためにあらゆるものを犠牲にする時代なんて、さぞうんざりすることだろうな。いろんな機械を発明しすぎて、人間が機械に食われちまうぞ。わしはよく考えるんだが、この世の終わりというのは、三〇億気圧なんてばかでかい圧力のボイラーが、過熱してこの地球を吹き飛ばす日じゃないかな」
ジョー「そうですとも、アメリカ人より、もっともっと機械万能の人間が生まれますよ」
博士「そのとおりだよ、ばかでかいボイラーをつくる連中がね。でも、まあ話はそれぐらいにして、・・・」

 1863年の作品。蒸気機関により産業革命が発展して、植民地の開発も進み、その中で仕事を奪われた労働者による打ちこわし運動もあり、、という背景があるのでしょう。博士が考えていたよりも、先進国はアフリカの大地や人間を無責任に疲弊させてしまっていることが、残念ながら予測がはずれているようですが、とにかく20世紀から現在まで起こってしまったことは19世紀半ばにある程度予想されたことなのか、と驚きました。ジュール・ベルヌ作品の主人公とその仲間のように、冷静に真摯に緻密に真面目に考えれば、あたりまえのように予想(予測ではなく)され、未然に防げたことがいくつもあったのかもしれません。(”かも”、の話でおわってすみません。)
 

[3]田代深子[2011 08/16 14:31]
『ぼくらは海へ』は誰もいない小学校の図書館で机の上に寝そべって読んだ本のひとつです。しかもそのタイトルを知らないまま、30年ほど過ぎても忘れがたく、なんと昨年あたりにこのフォーラムで他の方から教えていただいたのでした。それだけの印象にたがわず評価も高いようです。今になって本を手に入れることができ、うれしいような、おぼろげな記憶と謎がなつかしいような。
 

[2]はだいろ[2011 08/15 21:13]田代深子mizu KAB(なかほど)ふるる
那須正幹「ぼくらは海へ」を読んで

考えてみると、子供のころから、好きな場所は、ずっと、本屋さんと、公園。本屋さんにいれば、いつも幸せ、疲れたら、公園の日陰へ行くだけ。そうならば、いっそ本屋さんになろうと、どうして思わなかったのだろうと、ふしぎだけれど、お客さんでいることの幸せを失いたくなかったのかもしれない。
だから、素敵な本屋さんが、近所にあることほど、嬉しいことはなく、今回紹介する那須正幹の「ぼくらは海へ」という恐るべき少年小説は、千駄木の往来堂書店の「D坂文庫」という企画のなかで、紹介されていたので、ぼくも手に取った一冊です。(もちろん、D坂というのは、乱歩の団子坂のことです。)たしかに、少年が主人公の、少年向けの児童文学なのだけど、それでは、これが、小学校のころのぼくが出会うべき本だったのかといえば、いや、大人になった今こそ、出会うべき本だったというふうにも思える。読書感想文向きの、爽やかなソーダ水などではなく、ほんものの毒薬なのである、これは。
夏休み、5人の少年が、それぞれにそれぞれのこころを持て余しながら、力を合わせて、一艘の船を作りはじめる・・・。作者は、あの「ズッコケ三人組」シリーズの作者なので、気軽に楽しく読みすすめる子供もきっとたくさんいたのだろうけれど、物語のなかに、しかけられた時限爆弾は、ラストで、火がついたまま、読み手のこころのなかに、ぽーんと放り投げられるのである。その身震いするようなおそれと、静けさ、そしてまばゆさ。
希望を持とう、とか、夢をみよう、とか、大人は気安く言うけれど、ほんとうに希望を持つことや、ほんとうの夢を見ることが、どんなに危険なことか、そして、どんなに美しくはかないことかを、この小説は語っています。そして、それができるのは、少年よ、君だけなんだよ、ということを。
団子坂のあたりはこのところ、小さな、素敵な個人のお店がぽつぽつ生まれていて、ぼくは歩いているだけでなんとなく楽しく、ぼくの胸にも投げられた時限爆弾が、どきどきと疼くのが、うれしいような、おそろしいような夏なのです。
 

[1]田代深子[2011 08/07 14:51]mizu K
2011年夏休み。今年もよろしくお願いします。
参考用に、昨年のスレッドはこちら。
http://po-m.com/forum/threadshow.php?did=216237
 

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