【期間限定〜9月15日】23歳以上の人の『夏休み読書感想文』(原稿用紙3枚)[8]
2011 09/07 00:01
ふるる

『いい子は家で』青木 淳悟著を読んで

最近評判のいい『私のいない高校』が図書館の順番待ちで借りられないので、同じ作家のを借りて読んでみました。

これは・・・・いい!
保坂和志とガルシア・マルケスとジャン・フィリップ・トゥーサンを足して割ったような感じ。語り手のあやふやさ、視点の留まらなさ、日常のどうでもよさげなことを延々と語り続けるしょうもない面白さ。
『いい子は家で』も他の短編も、ただ、家族がうざいんだわ〜みたいなことが書いてあるだけ。でも、その書き方が上手いというか可笑しい。たとえばガルシア・マルケスの『族長の秋』ですと、一体誰がこんなに細かいことまで嘘だかほんとだかわからないものも混ぜこぜにして観察記録してるんだろうと思い、それが目くるめく視覚的記述の連続で、翻弄されたり酔う楽しさがあるんですが、あんな感じを日本の作家がものにできているとは驚きです。バターや父親を観察しているうちに妄想だか幻覚だか創作だかの世界にするーっと入っていくのですが、その自然さといい、珍妙さといい、破綻の一歩手前で踏みとどまる理性といい、この作者の筆力はただものではありません。
日常を書く細かさもいーいところに目が行き届き、洗濯ものにティッシュが混じってる時のことなんか、ニ槽式のことまで持ち出せる作家はそうはいまい。もちろん書くことはできるけど、読者の目を離さないように、引き込みつつ書く、なんてことが、ティッシュからニ槽式に行き着くまでキープできますかね。
「何」を「どう」書くかについて、問われ続ける文芸ですが、最近売れている小説というのは、「起伏のあるストーリー」を「わかりやすく、読者が飽きないように」書くことに特化している気がします。けれどもあえて、現代において、「よくある日常の風景や家族へのいらっとくる感じ」を「それとわからない技術を駆使しつつうまく読者を引っ張っていくふうに書いた」人って、私ははじめてだったです。読んでいる間じゅう、小説というものの枠組みがぐらぐらするような感じを味わえました。

ただし、小説に涙とかストーリーとか山場を期待する人には全く面白くないと思われます。
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