2011 08/31 17:49
AB(なかほど)
ジュール・ベルヌ、手塚伸一 訳「気球に乗って五週間」を読んで
作者の初めての冒険ものとされていますが、のちの作品、とくに「八十日間世界一周」でも出てくるような気真面目なイギリス人主人公が、緻密な計画を立て、常人であれば困難と思われる冒険を乗り越えて帰国するという得意なストーリーが展開されています。「海底2万マイル」や「地底旅行」、「月世界旅行」ほどは有名でもないし、飛行機がこれだけ飛び交って地球が小さくなってしまった現代で、気球はそれほどワクワクできるものではないかもしれない。というわけで子供が読んでくれないので、お父さんが手にとって読みました。正直なところ読んで楽しいのは後々の作品群です。
ただ、アクション・シーンではなく、順調に気球からアフリカの大地をのどかに眺めながら、主人公(ファーガソン博士)と友人(猟師のケネディ)、使用人(ジョー)の三人が何気なく会話をしている場面で、農業が最初に発展したのはアジア(中近東)で、その耕作地が放棄されてヨーロッパで農業、産業が発達し、現在はアメリカに勢いがあることが語られ、アメリカの大地が疲弊した後は、アフリカが発展するだろうと博士が話しています。ずいぶん、説明的な文章だなぁ と眠くなってきたところで、次のような言葉が続きます。
博士「・・・どこよりも肥沃で、どこよりも豊かで、どこよりも活力のある国は、強大な王国になるだろう。ここできっと蒸気や電気よりも強力な、驚くべき動力が発明されると思うな」
ジョー「ああ、先生。そういう時代をみたいなあ」
ケネディ「でも、産業界が自分たちの利益のためにあらゆるものを犠牲にする時代なんて、さぞうんざりすることだろうな。いろんな機械を発明しすぎて、人間が機械に食われちまうぞ。わしはよく考えるんだが、この世の終わりというのは、三〇億気圧なんてばかでかい圧力のボイラーが、過熱してこの地球を吹き飛ばす日じゃないかな」
ジョー「そうですとも、アメリカ人より、もっともっと機械万能の人間が生まれますよ」
博士「そのとおりだよ、ばかでかいボイラーをつくる連中がね。でも、まあ話はそれぐらいにして、・・・」
1863年の作品。蒸気機関により産業革命が発展して、植民地の開発も進み、その中で仕事を奪われた労働者による打ちこわし運動もあり、、という背景があるのでしょう。博士が考えていたよりも、先進国はアフリカの大地や人間を無責任に疲弊させてしまっていることが、残念ながら予測がはずれているようですが、とにかく20世紀から現在まで起こってしまったことは19世紀半ばにある程度予想されたことなのか、と驚きました。ジュール・ベルヌ作品の主人公とその仲間のように、冷静に真摯に緻密に真面目に考えれば、あたりまえのように予想(予測ではなく)され、未然に防げたことがいくつもあったのかもしれません。(”かも”、の話でおわってすみません。)