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書庫の扉を開ける
水の中になってる
たぶん海なのだと思う
昨日まで資料や本の類だったものが
魚みたいに泳ぎ回っている
手を伸ばして一冊つかまえる
ページを開くようにお腹を指で裂くと
文字 ....
たあいも ないことで
かんたんに
きずついたり
しぼんだり
やわらかな
きみの たましいは
まいにち とっても
いそがしい
だけど どれだけ
いそがしくっても
....
ひと足踏み入れば
彩る花弁の甘い香りが
しあわせの時を与えてくれる
いつの日も
六月の雨に濡れている足が
軽やかに茨を縫って進み
見え隠れする背中を追う
赤い薔薇、白い薔薇、あなたの ....
{引用=「序」
万華鏡に
甘い想い出だけを そっと詰めて
くるくるまわして のぞきこむ
金平糖のじゃれあうような
さらさらした音がはじけて
あまりの甘さに 歯を痛めて ....
薄桃色の花は手のひら
包んだ途端灰に変わって
冷たい風に
さらわれてゆきました
どこか見知らぬ街の
誰かの頬をざらりとかすめて
ほんの小さな
でも確実の
いたみを芽生えさせました
....
せっかくの連休も 僕は家に独り
遊びに出る お金もないし テレビの前で寝転がる
僕の愛しいサトミちゃんは 男と旅に出るんだって
日帰りではないみたいだから なにもないわけはないな
いつ ....
初夏の陽射しを やわらかく透す
けやきの葉
唇をかすめる毛虫たちの味覚
ほろ苦く 青臭い清冽
あるいは夏みかんの若葉
アゲハの幼虫
オレンジ色の角に
凝縮されていく鋭い香
....
かつての持ち主が言ったように―「長い旅になりそうだな。」と、
懐中時計が呟いた。そして歯車は相方を探しに出たっきり戻ってこなかった。
縫い物をする少女の手の中で秒針だけが動き続けた。
換気扇が、軋んだ音を降らす。
両親たちが、長い臨床実験をへて、
飼い育てた文明という虫が、頭の芯を食い破るようで、
痛みにふるえる。
今夜も、汚れた手の切れ端を、掬ってきた、
うつろな眼で、 ....
曇った空に手をかざす
指の上をアブラムシが伝い歩いてる
ちいさな六本の足を動かし
三十何度かのからだ指の上歩く
人差し指の先のほう
小指の付け根
指と指の隙間
....
あぢー
暑いよぉ
あぁ 暑い
あちー
あぢー
なんやねん
この暑さは
クーラー欲しい
クーラー欲しぃ
クーラークーラー
クーラー クラクラ
クラクラ クーラー ....
こんな
晴れすぎているから
隠されてしかるべき一つの
ほんのちいさなことさえも
道路のうえ
黒すぎる影のせいで
焼けて
見つけられてしまう
かつて
日焼けしない手で
ただ赤くな ....
忘れものを取りに教室に戻ると、
男がいた。
知らない男だ。
若い、
ひどく痩せた男。
クラスの誰かの彼氏だろうか?。
男はあたしに気が付くと、
声を掛けて ....
肌の表面から熱を奪ってしまう
チリチリと焦げ付くような視線が恋しい
ストーカーは勘弁だけど
犯罪一歩手前の絡み付く視線は、どこ?
釣った魚に餌はやらないのが信条の男ばかりで
....
ヘンリー 私の膝の上でお眠り
窓辺に当たる雨の音を聞きながら
時々は 可愛い耳をぴくんとさせて
解った振りをしてくれれば いい
ひとり言を 話すから
....
陽射しを包み込んで
柔らかい手をした
風が
頬を撫でる
気持のよいそよ風
抱きしめてあげたい
その温もりを感じて
応えてあげたい
その優しさに感謝して
風は黙って ....
駅までの道を雨の中歩いていて
改札に入ろうと財布から定期券を出して手に持って
けれど指からすり抜けて濡れた道路に落としてしまって
だから拾おうと僕はしゃがんで
水の流れるアスファルトを爪で引っ ....
一 「ミッシング・ピース」
手渡されたたった一枚の
欠けた切符のように
行き先でもなく
日付でもなく
空白のはずなのに
それ以上に大切なものを
どこかに忘れたまま
....
近頃やたらと
涙もろくなっちゃった
なんでかな
自宅で映画の予告編を眺めていても
気がつくと
ぽろぽろしている
自分に気付く
やっと梅雨入りしたんだってね
紫陽花は
お隣 ....
六月の雲がゆっくりと上に迫る
スーツの男が鞄の傘ではたまらず駆けだす
かたわらでぼくは
そっとつままれたまま
雷と雹を孕んだ姿で
上下するのどぼとけに合わせた
きみの乳房を
後ろから ....
りんごの皮を剥いていると
こんなことを聞かれたのです
それってさ
どっからりんごなん?
絶句しました。
応えをいろいろ考えたものの
どうにも私には答えられないということに
いきつ ....
―半眼 仰向けにソファからガラス棚の中へ
帆船模型の帆が擦り切れる様を想像して、視線を窓外に移せば
季節の欠片がもろもろと崩れながら天気雨に縫い付けられていくところだった
中庭の、陽の当た ....
*プラットフォームから
色とりどりの屋根が遠く連なって
その上を目を細めてなめて
果てに一本の灯台を見つけて喘ぐ
夕刻でも陽は照りつけて
灯台は
小さく真っ白に
発光して ....
買わなければいけないものがあるのに
あなたはまた、あなたに似たものを買ってしまう
部屋はあなたに似たもので満たされていく
あなたに似たもののほとんどはいらないものなので
あなたに似たものがなく ....
街灯で
ところどころ熱病だ
この道では
駐車場まで
浮かされて
君 という名前を僕しか知らなくて
僕の名前も君しか知らないだろう
それが夜の景色の中で
電柱の隙間で影を重ねている ....
祝いのメロディのなか
少し照れたおまえは
肩をすぼめて優しくゆれている
ななつのロウソクの灯を
遠く、近く
瞳に映して
{引用=
おまえの生まれたときを思い出すよ
(パパ、気絶しち ....
はしゃいで飛び込んだプールの底に顔面を泣けるほど打ったけど
涙をプールの水に紛らせ笑った夏でした
カルピスが痰みたいに絡んだけれど
白くて甘い夏でした
台風で傘が根元から折れたけど
....
「観月橋」
せせらぎの音は
いつのまにか、ざあざあと鳴り
錆び付いた欄干が
しとどに濡れる紫陽花の、夜
ここには愛づる月もなく
ただ名ばかりの橋が
通わぬこころの代わりに、と ....
#10
花
呼び鈴が鳴った。古アパートの玄関を振り返る。こちらが開けるのを待たずに硝子戸がガラガラと乱暴にひかれた。
女が一人立っていた。
赤子を背負っているようでねんねこ ....
#7
夏の雨
少年の夏の葉には蛇の抜け殻の模様がついている
彼があの時流した涙は自己嫌悪の錆びた味がした
乳飲み子の口に含んだ乳は黄色くて甘い 母からもらう最初の贅沢
一 ....
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