(本日の天気・九官鳥曇り)
天気予報士が少しくぐもった声で言った
昨日の予報では
(スズメのち晴れ)
小さなさえずりは 集まって
高音と 空へ抜ける
清清しい朝に撒き餌して
集ま ....
ポタージュの湯気 午前五時
日が早めのおはよう
私はまだねむいよう
“真夜中に雨が降ると良いですね”
押さえ切れない怒りの中で
死神の言葉はそれだけしか聞こえませんでした
息子が一人暮らしを始めました
あの子にも手がかからなくなって
お互いに二つ ....
送電線の下をくぐって
アスファルトの海を
ぼくたちは、
泳いで、
はりめぐらされる
緯度や経度に
足をとられながらも
ひたむきに
日帰りの旅をくりかえす
ねむる前、ときどき
....
東京は
私たちの隠れ家だった
誰も私たちを知る人などない街で
なにもかもを忘れたふりをして
ただのオトコとオンナになるための
狭くて大きな隠れ家だった
東京タワーも水族館も
....
いつのことでしたか
忘れてしまいましたが
絶句したその無言の先に
あの日がちらついていたのは、確かです
日溜りの微笑む
静けさのなか
涙は花ひそめ
無表情に泣いていました
それはか ....
たとえば
カーテン越しの陽だまりに
できるだけぽつんと
たよりなく座ってみる
時計の針の
こちこちという音だけが
胸にひびくように
明るみの中で目をとじる
いつの日かお ....
水曜日の唄
色とりどりのビーダマが
ぱらぱらと
空からガラスの水曜日
みんみんぜみのたましいが
ころころと
みんな飴玉水曜日
とんぼが落としたサングラス
きらきらと ....
朝一番の教習所
仄青い雨に濡れ 人々が集う
配車係のカウンターには 秋の虫
鳴いている鈴が耳打ちをする
“ぼくらはさようならの虫なのさ”
明日には居ない私の影
古びた床にすり込む 秋の靴
....
かくすためだけの
キャミソールに飽きて
このごろは いつも
はだかで過ごしている
夏はまだ
わたしの腰の高さで停滞している
午後4時をすぎると
夕凪に 夏がとけてゆく
....
ふわふわが
ふわふわに言います
もっと
ふわふわになる
光が光に目をふせ
渦の生まれを見ます
ふたつ
生まれた
ほつれ
ほどかれる指が
からまわりし ....
職安から帰る道のり
駅からの道を歩く
ぬるい風が襟元をかすめる
まだ6月なのに27度
北国仕様の体には
蒸し暑く感じる
むっとするアスファルトの匂い
駅へ向かう自転車の群れ
甘い花の香 ....
花を差し出されたら
黙って口に含む
蜜を吸う
疑うという言葉は
知らないふりをしなくてはいけないルール
ねえ
毒って、甘いんだってね
*
追いかけられるの ....
輪郭だけをのこしたまま
あのひとがいなくなってしまったので
いつまでもわたしは
ひとりと半分のからだで過ごしている
明かりの消えた部屋で ひとり
アルコールランプに、火を点ける
ゆ ....
入眠の際が瞼の奥で細い光を放っている
生と死の曖昧な絆という楔を
今は、強引に断ち切って 眠りの森へ
木漏れ日を抜けて下方へ沈みたい
怖さに尻込みした夜の
怖さに涙した夜の
夢 ....
天才を諦めた今日この日
エアコンの汚い空気を浴びていたら
汗がひいたバスの中
何往復したのか思い出せば言えなくもないがそれは面倒だ
3×2.4の2枚とドーナツをふたつ
意外と美味 ....
母さん。
母さん。僕は今、とても複雑な心境です。
狐につままれたような気分です。
一体どういうことなのでしょう。
僕はまるで
自分の感情がわからなくなってしまった。
喜怒哀 ....
廃墟の街 焼け野原にひびく声
人々はなみだを拭い立ちつくす
蒼白の入道雲 そまる
白朱へと
たび人は ソフト帽に丸眼鏡
しずんだ日のもと
嶮しき夜の丘へと
歩いてゆく
....
春よ
国家美術館Aホールの壁に青い大きな絵が三点架けてある。ところが、架けてある
三枚の画面よりも、どうやら壁の方が見れば四角い凧が浮いている水族館の水 ....
母に手を引かれ参りし山道を今は{ルビ我=わ}が引き先登をゆく
痩せこけた黒猫一匹山の中
{ルビ終=つい}の{ルビ棲家=すみか}の住人となるな
母を呼び父を呼びつつ ....
わたしの中に森が生まれたとき
その枝は音もなく広げられた
指先から胸へと続く水脈に
細く流れてゆく愛と
時おり流れを乱す悲しみ
わたしを立ち止まら ....
テーブルから
持ち上げたグラスの跡の
丸い水溜りをかき乱した指が濡れた。
夏の熱が引いてゆく。
グレープフルーツジュース。
そのグラスを頬に当てれば
あ、この匂 ....
お兄ちゃん、と
呼ぶのが
照れくさくて
そのまま
僕たちは年をとった。
あなたは家を出て
後を追うように
私も出て
あなたは戻り
あるいは他所の国へ
私は
死ぬまであなたの弟 ....
陽に焼けた黄土色の文庫本を開くと
なつかしいあなたの横顔が
鉛筆で、薄く描かれてていた
添えられた文字は
照れくさくって読むことは出来なかったが
横顔はまったく記憶の通り
....
私はやはり、と
言わざるを得ない
やはりあの{ルビ畦道=あぜみち}を
脇目も振らず
私は歩いていたのだと
炎天、真昼、陽炎
夏が侵攻していた
それはいつも匂いから始まる
濃厚な ....
灼熱の夏のうらがわで
たいようがかなしげにゆれているのを
みのがすひとにはなりたくなかった
カラフルなひよこがちいちいと泣く
こどもがそれを買ってとねだる
ゆかたのわたしはそれをみて
....
わたしがむやみに数えるものだから
蛍はすべていってしまった
わたしが思い出せるものは
ひとつ
ふたつ
と
美しい光
いつつ
むっつ
と
美しい光
けれどもそこ ....
現実として
地平線が
かすかに
欠け
世界をめぐる
赤黒い血が
滴ることなど
ありえない
現実として
この胸の
悲しみは
ニセモノ
なのだ
ああ
夕暮れに浮かぶ ....
十二番目で
いつも言葉を間違えてしまう君は
その次の交差点では
左折ばかりを繰り返している
東京
狭い夕暮れで
夢から覚めたばかりの抜け落ちた体を
ついでのような角度でドアの隙間に潜り込 ....
東京、きみは振り向いて
見過ごすことと忘れることに慣れず
クラップ、手を、たたいて
(光のように)
歩道橋、線になって逃げていく車の
ひとつひとつにああ、ぼくと同じひとが乗っていると ....
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