兄は云う
この井戸を掘り返してなるものか、
と。
野井戸はけして深くなく、
雨水が満ちているのだが。
野井戸はすでに開かれて、
....
わたしのからだは
出来損ないのモンタージュで
つぎはぎのでたらめの
パッチワークのモザイクで
ちゃんと機能しないもんだから
子宮にできるはずの内膜が
肺にできちゃったりして
月経の時 ....
夏草が いっぱいです
ガードレールを 乗り越えて
道の両側から
わっ と はみだしています
私は うれしくなります
いのちが
わっ と いきていて
突然
写メールを送りつけてきて
おれの誕生祝いに
夫婦ふたりで
温泉に行くのだという。
ちょっと待てよと
息子としては思う。
おれの祝いなのに
なんで
昭和元年と
大正十四 ....
熱を嫌う
冬の午前十時
錆びた手すりに
もたれて
こめかみを撃ち抜く
動物園に火をつける
噴水は枯れた
飼育員の首吊り死体
食らいつく ....
おそらく きっと
一人で生きるために
生まれてきたんやろうと思う
卵の裏の膜は
楊枝をさすと
窓の桟の汚れが
よくおちます
埃が自分のお花なら
網戸の青いナイロンは
桜の葉の ....
赤土の皿に赤い身
濃い溜まり醤油と
潮気かおる雨宵
ここでしか漁れんもんやから
引き戸かたつく飯どころ左隅で
ちらちら横目くれられビールを半分まで
流し込む
わぁ美味しそう ....
煙草を灰にするように
死に体の鴉たちが一斉に飛び立ったので
空が夜みたい
狭い空ばかり見ていたから
わからなくなるのです
こんなとき
天井がもうきついそうなので
僕は唾を飲み込んで
君 ....
読みかけの詩集を逆さまにすると
文字の列たちは
不ぞろいのビルディングになりました
そして
下のほうにあった余白は
広い空に
しばらくその様子に見とれていましたが
何かが足りない気が ....
聖母子像
霧のなかをわたしは母の手に
ひかれ ながれるもやの
街道を歩いていた
それは途方もないかなたへの
流離譚のようにおもわれた
母が世 ....
わたしは肋骨だ
肋骨はあなたを心から慕い
肋骨はあなたの心臓を守る
あなたの胸を打ち鳴らすものを
至近距離から呪いながら
肋骨はあなたの胸 ....
猫が逃げました
ボヤが出ました
便所は汚すな
と
親切な貼り紙のアパートの
隣の部屋の人の顔
まだ見たことありません
のような午後の世界に
河川敷の花火
の音が聞こ ....
壊れた傘を 拾い集めている男がいた
破れて水が滴る傘
骨が折れてしまった傘
錆びて開かなくなった傘
雨の矢から 人を護る役割を
果たせなくなった傘は
存在価値すら もはや認めてもらえな ....
僕
には携帯を充電す
るより少しだけ大切なことがある たま
に
は逆らってみたいと思う
....
危険です真似しないでねハブクラゲつんと突付くと面舵転進
道脇のガードレールに何気なくアカショウビンが止まっています
真っ白なリーフエッジと砂の浜 引き潮どきの{ルビ美=ちゅ}らさ島々
....
気がつけば文字の抜けた 文からの逸脱と
毛玉の絡み合う不器用なセーターの下から
顔をのぞかせる隣家の猫が
ブロックのpieceを蹴飛ばして眠るように
温かい日の雨と屋根の向こうのテーブル
....
だれもいない台所でぼくは
ひとりおこわの田吾作弁当を
食べた SOGO地下食料品売り場で
買ってきてもらったものだ うまくも
まずくもなかった 見栄えはいいが
....
拝啓
自転車は風をさよなら過多に切りぬけて
そしてイヤホンの歌詞が
はっきりと飛び跳ねてしまう 不意の
踏みそこねたペダルに折り畳まれないように
ああ 忘れないように
妄想がイメージがスピ ....
出会う直前のゆるやかな空気の中で
小さな振動に身体をゆだねる
日常の大きな振動は皮膚をかすめ
記憶の穴をすり抜ける
身体にしみ込む小さな振動
紛れもなく
理由もなく
一番深いとこ ....
わたしはかつて
とてもあまくて湿った土から生えて
花を咲かせることをゆめみた
猫が足元におしっこして
とてもあたたかくてしあわせだった
ちがう土から生えてそだつわたしたちは
た ....
ポンジュースが出るという噂と、狂おしいほどいつも通りの日々。例えば、そんな愛媛で風景している校庭が、東京の夕暮れの向こうにある。午後、水飲み場で、挨拶は永遠にすれ違っていく。す ....
言葉の裏側は、足の指のような不揃いさで、
感触 呼吸と名付けられた ふわりと
羽根を広げる 鳥のような舌 見上げられる影 のように歩き
足音 おそらく成長の凍え 沈着と 隣り合わせの揮発
重曹 ....
雨おじさんが、
今日もたくさん教室の窓に張り付いて、
にやにや にやにや
わたし達を見ては、
弾けたり潰れたり消えていったり
雨おじさんが、
窓にたくさんたくさんの雨おじさんが、
....
わんわん
吠えるものがあって
そのあたりを
おずおず
掘ってみたら
ぎょっ
犬の死骸が
ぞろぞろ 出てきた
ぶるるっ
熱帯夜の怪である
あの空の話
もう遠くなった映像の中では
坂道の向こうの太陽と
薄くなるグレーの空とが
混在していて
蝉時雨
引いては寄せて
寂しさを反芻している
知らない知らな ....
雨が近づき
誰もいない
贈り物を捨てた
霧に立つ
赤と白の脚
ひとつの弦を聴いた
動かない虫
窓ごしの雨
深緑の声
夜は去り
水は残り ....
そらが
投げかける光を
見なかった
膨らんだ
ほおぼねのあたり
あかく火照る
夏の痣がひりひりと
ひりひりと
うずいて
コンロのうえ
やかんから溢れる
湯気が
おも ....
卵をひとつ落として
夕焼けは夕焼けへと帰っていきます
さよならを言うのが嫌で
いつまでもふざけていたのは
言葉を越えられるものは
言葉ではないと
ある日ふと知ってしまったから
ちびた ....
午後いや午前も
コルゲンのようなうずら卵のような
つるりと白く圧倒的にやわらかく飛び散りそうな
つきぬけてせつないぼくらなのです
ただポケットでヴァイブする神経が
吸い付くように研ぎ澄まされ ....
穴が開きました
私の中にブラックホールのように
かといって何も吸い込まない
多きな穴が開きました
毎日が長くなりました
終わりのない映画の様に
もしかしたらCMかもしれない
とにかく ....
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