秋の夜に
煌々と浮かぶ半月は
闇に艶めく大地のあちこち
銀の涙を溢しながら
陶然として傾いていく
わたしは寝床でゆっくりと
その推移を辿りながら
迫り来る世界の無表情に
今夜もやっ ....
薄っすらと
はった氷を割る
秋が終わる音がする
霧がかった紅葉の
空がまだ青い
辿る記憶の先に
肩車をする夫と
肩上のわが子
手を振る
生きることとは
悩み過ぎ去ったあ ....
夜風はぬるく低きを流れ
あちやこちやに華が咲く
そこかしこ
手が絡み合い蓮に成る
ゆらりぬらりと結ばれて
愛しきものを求めるか
赦せぬものを求めるか
ただただ生を求めるか
手の群れ ....
老いた虎がいる
四肢は痩せ、臥せっている
しかし、その眼からは咆哮がのぞく
虎よ、虎よ
わたしはおまえになりたかった
虎よ、虎よ、おまえは
無駄や無理や、と吠え
わたしの頭をね ....
天の川 A train crossing
渡る列車 the Milky Way
is
忘れられて forgotten
and has ....
糸を伝わる震えとぬくもり
声の往信が私達をつがいの鳩にする
時間が道路なら振り返って走ろう
白線にそって回顧の草を摘みながら
あの白い家屋に飾ってある
陽に焼けた一枚の写真を目にするため ....
詩を歌う人は月が好きなんだなぁ
分かるよ
こんな身近に
夜空にたったひとつ
あんなに美しくて あんなに悲しいものは
そうあるものではないからね
僕もその一人
貴方もそうなので ....
だるまさんが
転んだ
そこにいたはずの
みんなが消えた
時の流れに
目を瞑りながら
眠ってしまった
呼吸を残して
戻っては来ない
人の足跡を
散りゆく落ち葉が
埋めていく ....
青星灯る夜に、コールタール色の水底から貴方が呼んでいるのだけど、私は泳げないし、よく見ると確かに星や月が水面に映り込んでいるのだけど、それを捕りに行く気にもなれない。
今日はやめておくわ、と私は言っ ....
命を頂いて生きている
だから頂きます、というらしい
けれどそれはそんなにありがたく
罪深いのだろうか
鶏が産み落とした精の無い
卵をいくつも使ったケーキは
悪徳の味がするのか
命を失った ....
電信柱と電信柱を繋ぐ電線の上に
天使が羽を休めている
天使を数える場合
鳥同様に羽がはえているから
一羽二羽と数え始めたが
途中で断念した
数えきれない
電線が重みで垂れ下がる
....
ガラスケースの中には
成人を迎えた晴れ着姿の女や
子どもを抱いた夫婦、百歳を
迎えた女の満面の笑み
とぼとぼ、夜を歩けば
冷やかな風が問いかけてくる
その顔はなぜ、俯いているのかと
....
十匹めの
熊を抱いて眠る
波寄せて ひいていく
ながい一瞬に
あらゆるものを天秤にかけ
そして
壊しました
抱いたまま ゆきます
壊れながら
熊たちの なき声を
眠りに ....
こツン、と
硝子戸がたたかれ
暗い部屋で生き返る
耳鳴りがしていた
からの一輪挿しは
からのままだ
幼い頃、祖父が置いていた養蜂箱に
耳をあてたことがある、蜂たちの
羽音は忘れたけ ....
命には限りがあるのです
タマネギ伯爵が言います
それを知ってほしいから
我々は皆を泣かすのだと
タマネギ伯爵は言います
隣のタマネギ伯爵婦人は
始まったわよとの溜息を
リキッド状にし ....
天使だって、
死ぬんだ、って。
それは、
凍りついた川の岸辺に
天使の肉体がたどり着いていた。
なぜか、
人が、
人の心を、
疑い、
恐れる、
荒野の街の、
夕間暮れ。
....
訪れる
時はじんわり
湧き出づる
その時わたしはオレンジの
奥処の懐かしい陽に照らされ
生きている、生きている
くっきり浮き立つ輪郭と
物という物が発散する
確かな響きに包まれて
活 ....
日陰に隠れていた
雪の子が見つかり
陽の下に散らされ
きらきらきらきら、と
子どもたちや猫たちの
軽やかな足音と踊って
あの空に昇っていくよ
だれもが春めくなかで
ひそやかにひ ....
晴れ時々嘘をつき
君も嘘つきで僕も嘘つきで嘘がドシャ降り
傘を忘れたからそれを軒先で眺めてる
君のためとか誰かのためとか
人のためだという嘘はスパイシーな隠し味で
ビターな味は好きだけど
....
浮かんでいる言葉をつかみ取り
並べたり、眺めたり、呟いたり
日常が絵になり詩になる
それが、ミミズが這っているだけでも
カラスが鳴いているだけでも
おもしろい
詩を死と言ったり
....
寒イボの立つ 色ボケです
言ってくれれば すぐにやめます
いつでもお声掛け 待ってます
三百六十五日 お返事楽しみにしてます
毎日お宅の鉢植えに アンプル刺したくてたまらなくてやめます
餡か ....
呼ばれたむかし
そんなことも
なかったけれど
なぜか
悪者と
呼ばれていたわけは
わからない
わからないけれど
みられる熱い
まなじりだけは
ほおを刺すように
感じら ....
光に
見捨てられても
光
「黄色い傘」
きいろい傘が咲いていて
わたしのうえに 屋根になっている
かさついた
この指は
皿を洗い刺繍をし文字を打ち
自由になりたくて
書いていたはずの文字に
とらわれ ....
曇天の下、
足早に通り過ぎていた街並みが
ぱたんぱたんと倒れ出す
書き割りの如く呆気なく
次から次に倒れ出す
後に残っていたものは
果てなく続く大地のみ
俺は ....
色褪せたクリーム色の壁、不自然なほどにしんとした空気―わたしはたまにこの景色を病室のようだと感じることがある、でもここは病室ではなくて―まあ、そのことはあとで話すことにする…道に面した壁はすべ ....
みかづきをみた。
空は真っ青なよる。
すべりこみセーフならいい、
いや別にどっちだっていい。
たるんだ自転車のハンドルをふらふらさせて、
よみち。
狸がひらいた居酒屋があるんだって、
と ....
帰り道に空になった弁当箱に納めたのは月でした
夜の道路にころりと落ちて悲しくて
これでは死んでしまうと思ったので
それにしても十月は騒がしく
息は
吐かれるのを忘れられたまま
コン ....
みたこともない
みなみのくににむかって
いっせいに とびたつ とり
ないかもしれない
あした にむかって
ゆめを 放つ
たどりつけるのかどうか
じつはわからない
ふゆのむこ ....
近づいて来る人
去って行く人
巡る日々のその中を
波打つ光に包まれて
優しい笑みを浮遊させ
車椅子の老人が
彼方の蒼穹仰ぎ見て
運ばれていく秋の午後
わたしは独り心のなか
静かに ....
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