とてもちっちゃなテーブル
だけどぼくのテーブル
幼い日は僕のテーブルなんてなかったんだ
いまは大切なものをそのテーブルに展げたりして
東京下町大衆酒場ノ味
と銘打ったトーキョーハイボ ....
坂の下は霊魂の溜まり場だった
降りて行ってはいけない と彼女に言われた
彼女は二十四の歳に逝ったままの若さだった
その代わりにある家を見て欲しいと言う
二階に八畳間が二つ在るのだけれど何か変な ....
店員さんが運んできたコップの中に
凪いだ海があった
覗き込めば魚が泳いでいるのも見える
こんなにたくさんの海は飲めそうにない
先ほどの店員さんを呼ぼうとしたけれど
彼女なら里に帰 ....
さむい朝
世界じゅうで息は吐かれて
甘い詩をなめて生きていくの
といった
彼女が死んだ
千鳥足で夜は歩き濡れた草の間に風と横たわる。夜は朝に焼かれていく。私は夜の肋を撫でて、その灰を撒きながら昼を千鳥足で歩いていく。また夜が芽吹き、我々は酒を酌み交わす。何度死に何度産まれ何度生きたのか、 ....
苦しみの記憶のように手のひらは赤く血走っている、毛細血管のなかを歪みが駆け巡っている、おれは繭のようになにかを抱えようとした姿勢で横たわっている、脳裏には真っ白い壁を放射状に散らばっていく亀裂のイ ....
*
昼の薄暗い店
キーケースからはみ出した
鍵がぼんやり光って見える
蝶がビロードの翅を立てて止まっていた
氷が解けてもグラスが溢れることはなく
微かな光を傾けてもピアノは眠ったまま
....
叩きつけ合う鋼鉄
反響スル
この森に
霊魂をぶら下げ
午後五時に入る
異界ノ息、
異様ナ相、、
移行ノ刻、、、
穿たれる
窪みに
今や鉛と化した
前頭葉をズブリ
....
本名も知らない男に胸を揉まれてる間
スタバの新作フラペチーノのことを考えていた
チョコレート味の氷に
粉々のクッキーがまぶしてあって
ホイップクリームがたっぷり絞ってある
とても美味しそ ....
もうすぐ生えてくるよ。いまにみてろ。
0+1+0=もうすぐだよ。
ふたつあるお釜が重なって大きな鍋になる。
なるわけないじゃない
ひとつとひとつのお鍋が重なって大きな釜になる。
どんだけ ....
私のメールボックスに詩編をくださった方がいらっしゃいます。今年は災害の多い年でしたが、いつも通っておられる教会も被害をうけておしまいになった方から、一遍の詩が私のメールボックスにとどきました。
....
鹿
という字に
お湯をかけるとあらわれる鹿に
みつめられながらカップヌードルをすすっている
いつまでこうしていられるだろう
これからの時代は
もっとたくさん間違ってしまうことも
ある ....
あのころゲーテを読み返しては
死んだように眠った
いまではゲーテも読めないから
枕をたかくして眠る
癒されたのはわたしではなく
夢にみた彼、誰かしらの人物
朧気な影と薄茶のレース
そ ....
ちいさい秋みぃつけた、と
歌う、子らがいなくなって
久しい庭で百歳近い老木が
風にひどく咳をする
また長く延びる影を
煩わしく思った人が
老木を切り倒して
春には明るい庭で
....
注がれて、熱くなって、割れちゃった
苦い液体をよくわからないまま漏らしている
シャリシャリ割れながら天井を見回したわたし
あなたはふわりと電気を消した
ください、と言えなくて
くれませんか、と聞いてしまった
人々の影は長く伸びているが
わたしに重なるものはひとつもない
今晩はメンチカツとかぼちゃの煮物
腎臓の弱いあなたのために
塩分に気をつかって調理した
いつかのメンチカツとかぼちゃの煮物
思いっきり味の濃い
今晩のメンチカツとかぼちゃの煮物
....
綺麗にしてたつもりなのに
悲しみの中に蜘蛛が湧いた
わたしは掃除機をかけた
ただ、黙って、掃除機をかけた
とうもろこしをもぎると、
骨が折れるような音がして
透明な血がじゅわっと溢れて手首を伝った
舐めとるのに夢中になっていると
入道雲が発達してきた
わたしにはまだ涙が残されている
流 ....
置き去りにされた筆は
黴びて、いいにおいを放ち
窓の隙間から吹き込んでくる青空は
甘く舌に転がりこんでくる
永遠を誓うように
誓われた永遠はキャンパスの上で
苦しみにのたうち回り
....
あ、
歌が聴こえる
ほら、よく聴いてごらん
なんだかとても寂しげな歌だねえ
あなたには歌ってほしくないなあ
もしもあなたがこの歌を歌うときは
僕は何をしているんだろ ....
光溢れる夏の午後
庭の梅の木が微かに揺れて
三才の僕はその瞬間、
〈じぶんは自分なのだ〉と不意に気付いた
なにものにも替えられ得ない〃この私という存在〃
その認識が僕を稲妻のように打ったのだ ....
フォークリフトは俺の愛馬だ
手綱はハンドル
レバー操作で
馬はいななく
俺の愛馬は屋内じゃなく
屋外だけを走る
馬なんだから当然か
雨が降っても
たとえ
槍が降っても
....
燃え出したアスファルトの中華鍋のカーブが
油まみれのぼくの額を照らしている
野菜炒めのように瞬時に仕上げられた身のこなしで
逃げるように潜った自動ドアのその先は市民プールだったというわけだ
....
オアシスの波打ち際を飛び立ちはじめた鳥たち
が足取り軽やかにアジトにたどり着く頃に
コロニーにようやく帰ってくる。
砂漠でも冷たい風って吹く。
舞っていた一枚のかみっ切れが
降りてきたんです ....
オーヴァードーズで死んだ海外の俳優のニュースでワイドショーはもちきりだった、俺は適当に皮を剥いた林檎を丸一個たいらげて顔を洗った、そいつの映画は一本も観たことはないが名前くらいは知っていた、世界的 ....
気まぐれにオカリナを吹く
郊外にある運転免許証センターの駐車場で
これが最後だという妻の免許更新の日だった
ペーパードライバーの妻は
当然、無事故無違反だから
更新は二時間ほどで終わる
....
長い坂道を夕日が
駆け下りてくる
木々を草花を燃やしながら
並んで歩くあなたの目も
ルビーのように揺れている
強く光るのは涙のせいなの
それとも私が泣いてるから
赤い目で ....
ゆっくりと 歩くスピードを
なだらかにしていく
都合よく転校したきみが
どこかでごろごろしているのかな
大きなたんこぶの上を痛がりながら進んで
元気いっぱいの掛け声から逃げている
爽やかな ....
病院の午睡時は
誰も居なくなる
ただ人の気配だけ
影絵のように残り
自分が此処に居ることが
怖いくらいはっきりと浮き立つ
病院の午睡時は
誰も居なくなる
ただ人の気配だけ
影絵の ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38