すべてのおすすめ
味噌汁の中をラクダが泳ぐ
どんなに泳いでも
沖などあるわけがないのに
僕はボートに乗って
ひたすら豆腐を網ですくう
今晩の味噌汁の
具にするために
いつまでこんなこと ....
波がたち
風がたおれる
うつくしい季節
わたしは
いない
ざあざあもえる緑
ここちよく冷えた夜
青じろい街灯の影
わたしはいない
不安
安寧
焦燥
安堵
わたしは ....
僕は脇役になるのが好きだ
目立つのは嫌だけど
一人ぼっちじゃない
声帯を枯渇してしまった
卒寿のおひとりさまは羨望する
梅雨入りまえのそよとの風が
庭木の梢をそっと愛撫するのを
新緑っていぃなぁ
おまえには話相手があって
....
揺るがないものが揺らぐ
仕方のないこと
ありのままを見ているつもりで
水鏡に映った姿を見ているから
冷やかな風にさざなみ
優しい陽射しに微笑み
自らの夢を重ね映して
時を凍らせた写真 ....
わたしたちは
結ばれた みじかい紐のように
そこに置かれていた
女たちが 色々な名前をよびながら
入ってきて
そして 出ていった
わたしたちはほんとうに望んでいた
だれかが、 ....
驚くに値しない
あなたの指のなかに
古い町がひとつ埋まっていようが
青い部屋でわたしは 静かなチーズを齧る
散らばっていた 丸い 悲しみの粒を
一列に ....
太陽の体温はこのところ高めです
切立つ木の足下さえ掬えないのに
躍る毛先をさらう風
愛と調和こそ全体主義の理想だと
あなたは言っていましたね
硝子に映ったしらない町で
空想と現実を行き来する
冷蔵庫を開けるまでは
卵は空想の産物であり
白い宇宙船であったりするけれど
取り出して目玉焼きを作る段になれば
さっそくそれはフライパンの{ルビ最中=さなか}で現 ....
境内につづく階段は長くて
手をつないでいると
歩きにくいのに
離したら二度と会えなくなりそうで
はじめて着た浴衣の
袂をゆらしていた
あれは
いくつの夏だっただろう
抱きかかえ ....
ふってくるものがたとえ伝えたいことでなくても
私のところにふってくるのなら私がそれを伝えよう
どうしても走り出さずにはいられないのは
扉だけが幾つも私たちの家の中にあらわれるからである
....
まだまだ生きろと言われる
みんななにも知らないくせに
向けられた刃物
目には見えぬ言葉のナイフ
摘み上げられ乗せされた天秤
もういいでしょう、もういいでしょう
突然に漆黒の闇が襲ってき ....
優しければいいってもんじゃないけど
時には優しいほうがいい
風はほとんどが冷たいものだから
家のなかはふんわり
優しいほうがいいよ
言葉ってつかわないと
固くなるから
おもったこ ....
詩人と娼婦が恋をした。
詩人は娼婦を
身請けする金を持たなかったので
詩を書いた。
娼婦は感動を
伝える頭と言葉を持たなかったので
体を捧げた。
硬いベッドの上
二人は一つ ....
昨晩の雨は雪へと変わり
昼過ぎには太陽にバトンを渡す。
帰宅した父を囲み
静かに語らう母と娘たち。
その手は何かを決意し
何かを覚悟するかのように
しっかりと握 ....
生きててごめんなさい
安易に
そんなこと想ってごめんなさい
あやまってすまして
ごめんなさい
あやまるなんてなんでもない
傷なんてついてないんです
生きているから
生きてい ....
動物の名前を書いていると
人がやってきて
他人事みたいにほめてくれる
交差点のあちらこちらでは
初夏が観測され始め
立入禁止の札もまた
ゆっくりと音をたてている
このまま一 ....
駅前ターミナルに到着しようとしていた
路上に杖をついた高齢の紳士が
窓のすぐ下に見えた
彼の進む先には確かにバス乗り場があるが
そこが人の歩くべき路でないことに
既に気付いたのか
ほんの少 ....
母の日に送る一方的な便り
必ず返事を返してくれた
受話器の向こうで あれこれ心配してくれた
そのありがたさに気付かない
チョット面倒になり
すぐに受話器を置こうとしていた ....
ながれる息はチューブを駆け巡る
空が季節の階下を滑り墜ちる度に
遠く、
、近く、
と、眼窩をさまよう信号の波
放物線と消えた夜の足音
ひそやかな星の輝き
死なせて ....
春になると
淋しい木々の先に
白木蓮の{ルビ灯=あかり}が点る
ほんのりと明るい白い花は
どんよりした心を照らしてくれるようで
ほっと心が温かくなる
こんなふうに心が晴れない日は特 ....
灰色の道の上に
ひとつの疑問が落ちていた
ずいぶん昔 この胸に生まれ
しなやかに若木のように育ち
そして出て行った
いつか答えを見つけるのだと
朝の光が包む白い道を
振り向くこともしない ....
花は好きです
酸っぱくてもレモンは好きだ
固くても林檎は好きだ
果物は感じがいいから好きだ
花を食べるあの果物の香りが好きなのです
だから果物の香らない人は嫌いだ
....
長い黒、スペースシップでこんにちは
あるいは、こんばんは
ときに、おひさしぶりね
そして、おはようございます
上手く折れない
紙飛行機が
放り込んだ屑籠の
縁から顔を覗かせている
拾い上げて
半開きの窓に向けて
今一度、飛ばしてみるが
盲の鳥のように
あさっての方向へ ....
十六で嫁入りした祖母は
まだ娘だったから
近所の子供達と鞠を突いて遊んでいた
すると 嫁入りした女はもう
そんな遊びをしてはいけないと
誰かの叱る声が聴こえて来たという
春の夜 ....
ラジオから
音楽が流れている
朝の光が窓から差し込んで
世界がうんと美しく見える
女らしさや、男らしさが
ちりぢりばらばらに散らばって
混ざり合ったその向こうの
いや何にも混ざり ....
ふと足を止めるとき
ふりかえるとき
百日紅が見えるでしょう
そしたら
笑って帰って来なさい
泣いて帰って来なさい
喜んで帰って来なさい
怒って帰って来なさい
花を抱 ....
電話を待っている
便利になったものだ
子機を取りにいかなくても
いつも電話はかたわらにある
包み込むような
文学的文章を書く人は
どんな声をしているのだろう
そう思いなが ....
夏の日に日差しを避けて、
冬の日に日差しを求める。
そんな感じでしょうか、
あなたの目に映る、軽薄な姿は。
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