思い出すのはうれしかった出来事ばかり。
九九を全部言えることが出来てほめられた日
すき焼きを食べて「おいしいね。」と笑いあった寒い日
試験に合格をして「おめでとう。」と言われた日
初めての ....
離れると 音もなく
落ちた 花びらは
ひとつひとつ 冷たく発光して
私たちは 消失のただなかで
不釣り合いな接続詞を
あてがい 続ける
たくさんの繊細な 傷を
指でなぞり 再生して
....
昔の番号に電話する
トゥルルルルルルトゥルル
深夜1時
折り返しの点滅
もうきすしたい冬なあ覚えているかいむかちで真つ白なこころのいく先はいつだつてかなしみの真つ白な翼がなくてはいけないところだつたからふたりはいとくの真つ白な翼を生やしよごれたあきらめ渦巻く風吹く迷宮 ....
朝だ 頬に
柔らかい寝息がおちる
木々の揺らぎ
僕たちの日々も老いていく
なめらかに熱い 夜を仕舞い
看板を出すように服をきて
ざらざらと 今日が膨らみはじめる
ビルに 街に ....
茜色の雲から
茜色が抜けていくのを眺めていた
わずかの間に光を失い
灰色の雲に戻っていく
その色を目に焼き付けて
覚えておこうと思ったのに
ほんの少し
視線をそらせただけで
もう ....
小鳥のなかにある巣箱を見る。
小鳥のなかにある巣箱のなかには、
ちいさな穴があり、
それは小鳥にとっての全て。
穴の外には広い大空が広がっている。
小鳥の歌う歌声は、小鳥自身にしか聞こえない ....
足で漕ぐのは
オルガン
という名の舟
音符の旅
息でつなぐ
ときおり苦しくなって
とぎれる
生きていたという波の上
気配だけになった猫
ふんわり鍵盤の上を渡る
秋の日は
....
あなたの体温が近づいてきた、と日を追うごとに思う。駅のプラットホームですれ違う人々も薄着になり、半袖のTシャツ姿も時たま見かける。不本意に外套を脱がされていく様は、虫なら脱皮、植物なら蕾が開い ....
きみとなにかを分け合う様に生きていたいとおもう
からっぽのカゴの自転車のままで自由を走ろう
所有することなしに生きてゆくことも良いのかもしれない
手にするものすべてはさよならをはらんでいるか ....
これが言葉になった言葉
話しようもなく
離しようもない言葉
待つもののない
またたきの言葉
ロウソクを吹く
何回かに分けて
煙が目に入り
涙を連れて行く
空っぽになった
誰も訪ねてくる
予定のないスリッパは
値札を切るまでが前夜祭だ
暖めた部屋の壁が
白い生クリ ....
細胞が音もなく引きちぎれて、消滅と分裂の繰り返しが体のすみずみを満たしている。一年後、五年後、十年後のあたしからオリジナルのあたしが目減りしていく。きっときみは化け物で、とうに正気を失っていた。あたし ....
あなたがいると、
世界は
星くずみたいになるから、
右や 左や
上や 下はなくなって
きらきらざくざく溢れゆく波になって
みんな 傷まみれで
ひかって、
転ぶみたいに流れて ....
ほんとうなら、あの夜は
晴れて、きれいに星が見えるはずだった
それで、ほんのりと酔っぱらって
ふたりむかしみたいに、仲良くなれるはずだった
けれど降った雨を
うらんでなんかいない
傘を ....
瞬きするたびに肌を刻んで、わたしは大人になっていく。昔よりもぼやけた視界のどこかで、この街では星が見えないと舌打ちが聞こえた。ここも誰かの故郷なのだと、わたしたちは時々忘れてしまうね。この目が誰の輪郭 ....
その人は
一生の間に六匹の猫に出会うのだという
わたしが知っているのは
九回生まれ変わるという言い伝え
あなたに会いたくて
も一度生まれてきたんだろうか?
昔死んだしろちゃんに
....
交差点で君の香りがした
誰も視線が合わない
すれ違い
髪になびく風だけが交わる
そういえば今日は昼まで雨で
湿気でうねる髪に
ため息をついていた
路面の水溜まりにカラフルな影が踊れば ....
育てているのは言葉の木
晴れている日も
そうでない日も
知らない鳥が
ひとやすみしていく
言えないことが
枝や葉を伸長させる
朝だけでなく
真夜中も
ペンと紙きれ ....
物語たちはことばのうしろですでに出来あがっている。辛抱づよく待っていてくれるのだ。それはつよくてさびしくてやさしい。
みどり色のオアシスのうえに花を作っていく。わたしの指は傷傷して汚れて、それは ....
2月の心音を思い出しながら、8月の憂鬱を海に流した。夏の夜はきみの瞳の色をしていたの。拾い集めた星屑を沈めて、ひかりを宿して、わたしの再生が始まる。こうしていまさら思い出すのは線香花火のにおいや、なだ ....
ここが夢か現実かなんてきっと一生わからない。揺るがないものなんて何ひとつないんだと、停電した部屋のすみでキットカットをかじっていた。あたしただのバグで、この部屋はゴミ箱で、正常値を保つために世界から取 ....
爪の色を塗る
指先に春が憩う
私だけの春が
つま先の鼻孔をそっと覆う
設えた指が
織り込まれた雲母が
革命の讃歌をうたう
解放のマーチを奏でる
爪の色を剥ぐ
灰色の日が始まるから ....
あなたが作ってくれたオムライスは変わらずわたしの好物で、特別に優しいのは終わりが垣間見えるから。見送りに来たあなたから逃れて、揺られて、揺られて、降りて、そこはわたしの街。あなたが追いつけないわたしの ....
かたいかたい土を破って死ににくる蝉。六角形の頂点で、
わたしたちは夏を迎えた 地味で可愛い花とか、葉っぱ
とか、きれいな石や安くてぺらぺらの靴。32階建のビル、
眼鏡のあの子、クーラー ....
君と僕をシャッフルにして
どちらかが先に死ぬということ
永遠に流れ続けられるのは
音楽でしかあり得ない事実
だったら僕たち音楽になって
ビートに乗って泳いでいようよ
命がどこかで骨 ....
今度生きたらレモンを摘みに出かけようよ
木漏れ日のイタリアンイエローで手を汚して
その夏の麦わら帽でさえぎられたわたしを探して
探してよ
この夏の先
子供の影とか空き缶とか茜色の空、猫の集会 ....
あれっきりだけれどお元気ですか
月と火星を指でつなぐくらいの距離
びゅんと、目をつぶっていれば三時間くらい
インターネットがぼくらの秘密基地から
渋谷の交差点になったころ
あいもかわらず ....
140文字なんかじゃ語りきれない何かを
ありったけ全部ぶちこんで叩きつけてみろよ
からっぽのままで終わった
生乾きの青春みたいな10代も
何通りもの終わらせ方を
シミュレーションするだけ ....
とても天気が良くて
気持ちいい風が吹いて
少し眼を細める光が射して
心を許せる友だちが数人いて
いつ聴いても飽きない音楽があって
偏見の目で見られても胸がときめくひとがいて
からだ ....
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