僕が雨のような水性のものを纏うみたいに
彼女は単純
分類する歴史の過程と起こりうるすべての結果について
彼女は明確に区別する
偶然と必然の隔たりを超えて
彼女は読書する
運命でも垣間見るよ ....
目じりの皺や
口もとの皺は
あなたがこれまでの人生で
よく笑い
表情豊かに生きてきたアカシだから
恥ずかしがることなんかなく
堂々としていればいいと思う
眉間の縦皺は
いつもしかめ ....
ここで赤い魚の話をしてはいけません
最初の貼り紙は公民館のドアに貼られた
誰が貼ったのか
誰も知らなかった
次の貼り紙はあちこちのスーパーで見られた
誰が貼ったのか
店員も店長も知 ....
忘れない
高い小さな窓から覗き込んだ時間を
校舎の隅、零れていた笑い声の隙間に混ざった寂しさを
夏だった
世界がゆっくりと溶けていくまでの時間を
知らない、知ることもない
あと少し ....
二人の男がいた
一人はただ何もせず寝て日暮れを待ち
一人はただひたすら歩き夜明けを待ち
こうして二人は離れていった
一人はまたむくりと起きて月を眺め
一人はまたぽとりと汗をかき座った
こう ....
霧雨の降るぼやけた朝の向こうから
「夢の国行き」と{ルビ記=しる}されたバスが近づいて来る
後部座席の曇りガラスを手で拭くと
数ヶ月前に世を去った
認知症のゑみこさんが住んでいた{ルビ空家 ....
ジットリと纏わりつく雨のヴェールは
西からさし込むその日最後の煌めきを二重の架け橋に変容し
ジャン・フランソワ・ミレーが1863年の春に見かけた虹のように
夕ご飯の買い物客でごった返す街並を ....
きつく結う、
わたしの髪を、
わたしには見えない後ろ側で、
わたしの髪を、
きつく、結う、
その役目だった指々を、
ふと慕う、一日の終わりに、
嫌な煙草染みた髪を強く洗う、
....
亡霊ときみの名付けし少年の漕ぎしブランコ揺れている初夏
遠ざかる白い小舟の行く先を流れる水や風に聞く午後
紫陽花を抱きしめているパレットにきみの瞳の色を混ぜつつ
防波堤越 ....
マンションの地下11階に住んでいる。
このマンションは地上36階、地下12階建てで、築65年くらいになる。
結構古いけど、僕は特に気にならない。どちらにしても親が買ったもので、古いのは当たり前だ。 ....
わたし
猫好きやねん
本間に
大好きやねん
この前
小学生が木の上の猫に石投げててん
許せへんから
わたし石拾って力一杯投げたってん
そしたら小学生の前歯と猫
一緒に落ちてきてん ....
遠くはならない
それ以上はどこへも
窓辺に並んだ椅子は
白く塗り変えられていた
捕まえ損ねた手は誰のものか
白く塗られる前も
その前も
そこに在るだけで
忘れていくことばかりで
遠く ....
カタカタ
キーを叩く
音もなく
変換されていく言葉達
モゾモゾ
呟きながら
キーを叩く
色もなく
記録されていく言葉達
この瞬間
世界から言葉を寸断し
切り刻みながら
モザイク ....
君に触れたことはない。
君を弾いたこともない。
だけどこんなに心惹かれてる。
これは君のため息。
心弾かれて、今夜も音を愛撫する。
....
想い髪を切りにゆく。
君が嫌いだったこの長い髪。
君に逢うために切りにゆく。
あれから一度も切っていない。
そんな泣かせることは言わない。
何度だって切っているし ....
砂糖漬けの果実のように
甘い甘い蕩ける旋律に誘われて
行った先は間の抜けた空洞
ウィスキーグラスの氷のように
冷たい透明な空気に飲み込まれ
言った後は気の抜けた風船
そんなデート
そ ....
友達と仲直りをした娘は
昼食を食べ終え
さっさと青空の下に飛び出していった
子供同士っていいね
うん
娘たちは今ごろ
どのあたりを走っているのだろう
昨夜の小さなほころび ....
私は今まで通り過ぎて来た
広大な荒地の上に黒い血を吐いた
無数の遺体の傍らを
倒れかけた木造の家の
ベランダに干されたシャツが
突風に身をよじらせ
空に飛んでいく様を見ては
鈍い心 ....
痛みを持ち上げて
此処に立っている
へしゃげた首も
切り落とせぬまま
鉄のような水面
なにを想う その心
芯から病んでしまった
水無月の花々よ
重たすぎる花弁を
いついつ散ら ....
玄関のドアを引く
駆け込むようにして進入してくる朝は
少しだけ暗い白
今日も天辺まで積み上がった世界で
濡れたままの人たちが歩いていく
傘を忘れたわけでもなく
濡れることに気付かないわ ....
こんなにまだ日が高いのに
カーテンを閉めて
ほら魚が寝ちゃうよ
ひとりでだっていられるはずなのに
あなたのところに来ちゃうのはなぜなんだろう?
愛してなんかいないのに
こんなに興奮できるの ....
わたしは、ほんとうは楽譜なのです
と 告げたなら
音を鳴らしてくれるでしょうか
指をつまびいて
すこしだけ耳をすましてくれるでしょうか
それとも声で
わたしを世界へと放ってくれるでしょうか ....
色画用紙に一日の花を描くよに
夏服の少女の贅沢なアトリエは
少し柔らかなメイプルの
敷き詰められた木床の上で
重なるパウダービーズのクッションが
転がる足先まで受け止めた ....
誰も気付かない
雑草に埋もれながら
濁った太陽を浴び
くたびれた大地に根を張り
凛と
揺れる花びら
意地っ張りな道の端
譲れない生き様
誰も振り向 ....
雨に濡れるのを忘れた人が、信号の前で返り血を浴びている。どんよりと、ただどんよりと生きていけ。おまえの夜の病はいまだ進行中だ。魚群探知機に映る影の人びと。探そうとしてもけっして探し当てられない影の呼吸 ....
蛍
ちりちりと
夏の焦げ目
しく、しく、しく、は
いつも夜で
いつも雨で
それらの夜の
それらの雨の
夏呼びの音が度重なり
しく、しく、しく、が、ひとつの
酷く暗い気体となり
ねえ、午 ....
悲しみが生まれた頃は
見えないものなのです
それは
徐々に姿を現すのです
時間が経つにつれ
小さくなることはありません
同等の質量を維持したまま
心の真ん中に居座り続けます
....
からっぽだから
蒼いの
とうめいな翅を
ふるわせて
飛んでいったから
からっぽなの
埋めようとして
あなたが
抱いてくれたとしても
満たされないの
満たされない ....
さよならの「さ」は
さよならの「さ」
さよならの「よ」は
さよならの「よ」
さよならの「な」は
さよならの「な」
さよならの「ら」は
らっぱの「ら」
突撃らっぱ ....
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