細い道を一人で
ひっそりゆっくりあるいていると
背中をつめたい汗がするりとながれ
自分がほどけていくのがわかるのだ
おだやかにあれ
かぜとともにあれ
朝を生き 夜を生き
かぜのなかに ....
ドビュッシーを聴く
なんとなくの気分で
なんとなくの夜
泳いでいると ちくり
ふいに
音楽が死んだらきっとかなしい
なんておもってしまって 私
父が
美意識の問題だね
といっ ....
あの日も汗を見ていたのは
水色のユニフォームと白い靴
時の詰まったタイムカードに
行儀よく刻まれた青紫色の印字
晴れた夏にタオルを投げ捨て
雪の日も半袖は変わらず
(腰に装備し ....
言葉の手
音の火
途切れながらつづく歌
原をめぐる者たちは
けして治らない傷を持ち
手を継ぐもの
火を継ぐもの
いつの日か果てるもののひとりとして
不完全な魂に
またひ ....
取り締まることのできない光の減少が
駅のホームに加算されていき
歩みと停止を繰り返す人影を貶める
遠近法を失い胸まで迫ってくる欠落に喘ぐのだ
やがて満たされる黒の描写の内 ....
29歳の僕と53歳の N さんが
向き合うテーブルの上に離れて置かれた
2つのコップ
減り具合もそれぞれに
薄い道の途中で{ルビ佇=たたず}むように
遠い未来の方から
おぼろにやって来 ....
{引用=思い浮かべるは深い森
私の湖がある
花びらが舞う
夜露に湿る
声に響きになって
私はほどけてゆく}
オモイ ハ コエノ ヒビキ ト ナッテ
ホシ ....
{ルビ魂=たま}のかたちの悲しみに
五つの手のひらが添えられている
{ルビ澪=みお}のようなかがやきを
大きな花が抱きとめる
素足の行方を
はばたきの行方を
抱きとめる
....
もし僕がDJだったら
もっとカオルのことを愛せたのに
整理していた父の荷物の中に
見慣れた筆跡で
そう書かれた紙切れを見つけた
母は屈み込んで
机の下にある二箱目のダンボー ....
{引用=
悲しいけれど すべもなく
横たわる お布団の傍ら
3本の 煙を悔やむことさえなかったのだから
いまはとらわれのみ
明け暮れに
流すのは もったいのうございます
お待ちください
....
あなたの
しあわせ
のぞまぬ
かくどで
ゆびの
ささくれ
みつめた
そのとき
だいじょうぶ
だよって
わたしの 胸を
ひゅう
って
かける
....
四肢を垂らし立ち尽くせば
卵は割られず何も加熱されず
窓硝子の北向け北に閉じ込められ
朝は有耶無耶のまま凝固した
無臭のお皿だけが、仄白い円形の
仄白い、せめても ....
触れ合うためにあるものを
手、と呼ぶのなら
私はいらない
私には
ない
たそがれは穏やかに
その時を待つ
眠れない暗闇と静寂は
心を熟すのではなく
怯えさせるのでもなく
た ....
何か空腹を満たすものはないかと
見上げた空は午後だ
トンビがビルの屋上で踊る
薄色の羽根が舞い散る
猛禽が食らっているのは鳩
同族の羽根の降る中
広場ではポッポーとのんきに ....
草むらを分け入ると
シジミチョウの群れが一斉に飛び出した
散りじりに空へ舞い上がる
小さな薄紫の花びらよ
先を行く 私の体にまとわり付いて
軽くなる体 ここは、春の国?
頬に触れる一匹の ....
あなたの方で風が吹いている
わたしはわたしで知らないことばかり捜している
秋がそこらじゅうで溶けはじめるとき
空き瓶には夕くれが満たされるとき
幾つもの詩を繋げるようにして
わたしはあな ....
天神様の 秋祭り
出掛ける空は 青高く
吹く風 先っぽ 心地良い
今日はおめかし リボンのついた
私の好きな 赤いワンピース
隣町の 天神様まで
お姉ちゃんに 手を引かれ
お ....
憧れのフリージアさま
こんにちは
私はカラスノエンドウです
あなたはきれいな名前を持って
あなたはきれいな香りを持って
あなたはきれいな姿を持って
咲いてらっしゃる
{引用= ....
雷鳴にかきけされてく「さよなら」と微笑みながら消え逝く夏よ
画用紙の上でちぎれんばかり手をふるは向日葵それともきみか
欠けてゆく月も満ちてゆく月も紙一重に映す海鏡
....
ついっと 顔をあげ
仰ぎみている
病室の 窓は薄暗く
パジャマ姿の そのひとは
ベットを 脱け出し 立ち あがって いた
「いまねえ そらを かこうと おもって」
少しとまどい ....
秋桜揺れる
秋揺れて
風の彼岸を見渡せば
時の遥かに思い出揺れて
塩辛い川面に光注げば
懐かしく
哀しく
かの人は手を振る
道を分かちて
生きた君
人のか ....
わたしは咲いていた
わたしは咲く
わたしが咲くとき
わたしが咲けば
わたしよ 咲け
あなたが咲くうたの
聞こえるところ ....
一 うろこ雲 雨が来るのを 知らせに来
二 夕空の 空気にとけて かきあかね
三 縁日の 思い出してよ 浴衣の子
四 洗い立て 昨日の事は 日の匂い
五 逢いに行く ....
麦色の夕方に
夏は死んだ
その致死量の傷口をさらに広げるため
強い風が吹く
夏の屍骸
それは輝くことのなくなった横断歩道の上に
反射することのなくなった水たまりの中に
横たわっている
....
子供のころは簡単だった
青いクレヨンで雲のかたちをくりぬけば
それが空だと言えたけど
いま僕が描こうとしてる
この空には青が足りない
たくさんのことを知ると
たくさんのこと ....
憎悪は森が
憐憫は人が
ひびくは草
ひびくは草
草の風紋
草の風域
ねえ、ことばがもっと自由だったら
よかったの?
やさしい手を
戸の隙に隠し ....
響かせて 声を
聴いてね 声を
私ぜんたいで声になって
あの透き通ったところまで
のぼっていきます
また遊んでよ
また笑ってよ
さきにのぼったひとよ
薄いピンクと
....
海はまたおほきな墓地であるだろう魚たちみな水葬されて
昔、龍がいたのと妻が子に語るうろこ散らばる魚屋の庭
会ふべきか会はざるべきか点滅す横断歩道の信号の青
水性じゃなくて ....
それは天へ向かって続いているのか
ほの暗い奈落へと続いているのか
立ち止まった時、よく考えてみるがいい。
自分がどちらを選ぶべきなのかを。
その夢のように美しい線上で。
淡い紫煙の霞 ....
語らない言葉たち
綴られた言葉たち
もの言わぬ物たち
擦れて軋む物たち
遺物として刻む
異物として誘う
構築された古ぼけたロジック
放逐された錆ついたレトリック
書かな ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143