帰る場所のない人こそ一点に留まる
寂しさを解体して
目を瞑る
うつむかない
前を見ない
定まらないこれは
警鐘なのかもしれない
孤独とは
つながらないことではなく
むしろつな ....
地をふりかえる
もはや人でないものとして
山に分け入るべき時だ
鼻を濡らして
舌を濡らして
人としての重荷を下ろす
頬を赤らめ
森を通って山の頂上にたどりつく
おしり むずむずする
....
僕らは 一列に並んで
少しずつ 進んでゆく
かぎりなく長く思える柱廊を
誰も 一言も発さないまま
僕らは 白い衣を着て
白い布で覆われた銀の皿を両手に捧げ
少しずつ 進んでゆく
....
何か掴まなければ と
恐れなくてもよいのだ
いつでも繋げるように
私の両手は空いている
嘗て星々に触れたとき
驚きながらも微笑んだ
一秒よりもはやく
私たちは老いてゆくから
....
嵐の日にカンパーナが遠くでないている
そんなに悲しい声でなくのはやめてくれ
森が揺れているよ
悲しい悲しいと、
カンパーナ
誰もおまえの森を奪いはしないのに
....
かた かたん。
取り付けの悪い、古びた窓を開けると、
鮮やかな色が目に飛び込んできたものだから。
かたん
すっと、手を伸ばして
触れようとして 気づいたこと。
かたん ....
叔父が僕の万華鏡を批判する
32番目の粒と33番目の粒を隔てる
その境界が許せない
そう僕をなじる
叔父は万華鏡の向こうに
破れた手紙と生まれた赤子を取り残し
僕と同じ歳になる
そう ....
その喧騒の中にあって、ミス・ブランチだけは異次元にひっそりと佇んでいる
ようだった。水槽の中で絶えずうごめいていて他のものはひたりと動くのを止
めている。彼女は金の魚ではないのに金魚という種類だ。 ....
雨の中
彼は一人
一人彼は雨の中
雨の粒の櫓の下で彼は
一人濡れている雨の粒の櫓の下で
そのゆれる髪も手も櫓のような雨の中で彼は
濡れた髪も足もゆれる雨の中でかすれ ....
暖かな雨に追われて迷い込み君と出会った六月の町
徒に花びら数え占った恋の行方を君も知らない
花は花やがて綻び散るものの定めの前に花鋏有り
裏庭でか ....
黄色い鎖が
何を縛るでもなく
地面に置かれている
廃車と遊具の鉄は響き
午後はゆらりと夜になる
夜のなかを
夜が動く
その高みにある輪郭が
すべるように落ちてくる
....
僕らはいつまで子供でいるというのか
100メートル競争に出場したままゴールから帰って来ない少年
給食を食べ続けたまま昼休みの教室から帰って来ない少女
草原では僕の生家が新たな生家を産 ....
斜体
滑空する
地平は沈黙したままの
全くの木蓮
光/グライド
焼けだされる
きれいな、
春を
{ルビ廻輪=くるま}の中で幸せだった
花の匂いがしていた
四方八方が ....
また一つ
約束を破った
夕涼む縁側
うちわ
ねつ
におい
笑うしかないと
娘は知っている
あ、あー、あ。
ニューステージでは、悲しいこともあるよ。
雨振ればバラバラでもう元に戻せない、けれど今日、暗い夜の丸い月の射し込む光、そして負。ぼくらの足音はひどく響いて ....
山の端にさそり座一つずつ昇る
釣り針の尻尾が銀河を吊り上げる
文字盤を重ねて二つの柄杓時計
麦と真珠 腕をそらせて指ししめす
冠をひとに贈りたがったひと
冠をひとに贈りたかったひと
....
雑音まじりのレコードを絵にしたら
古いテレビの画像みたいになって
鳥と葉っぱの区別がつかなくなった
川べりを歩く ゆうぐれ
右の道が途切れると
橋をわたる
左の道が終わりそうになった ....
仕事から帰ると
ぼくの部屋からは、なにもかもなくなっていた
電話台の上に電話はなく
テレビ台の上にテレビはなく
洗濯機と冷蔵庫は
黒っぽい埃の四角形だけ残し
スチールのベッドだけはなぜ ....
花を摘んだの?
群青に沈んでゆく
風の流れてゆく
窓辺で
聞かれて
君の後れ毛を
遠くに感じて
僕は急に
君の腕をつかんだ
とてもやさしい腕を
君は驚いてそして笑っ ....
つぎはぎの笑顔
目を閉じた笑顔
ひらくたびに変わり
ひとつ前のかたちに
重なりゆく笑顔
鳥のようなさよなら
午後の水たまりの道を飛ぶ
雲ひとつなく まばゆさもなく
....
峠には若い糸杉の木が一本生えている
すっくと立ち、
天を指差して
糸杉の木が、生えている
峠の糸杉から少し離れたところに、
朽ちかけた切り株がある
....
生きていること
朝が また 私を 駆り立て
呼吸とともに 一日が始まる
縛られていること
気持ちからは 成り立たない 行動
目頭は いつだって 乾いている
歩くということ
....
あたしの中で
水が{ルビ捩=よじ}れる
還るべき水脈を何処かに探してのことなのか
それとも単に気まぐれなのかはわからないが
あたしの中で
時折ふいに
水が捩れる
たとえばそれは
安易な ....
冷蔵庫が空と意味の境目を走る
洗濯機は今日も何かを言いそびれている
昔、電子レンジで猫を乾かそうとした人の話を
聞いたことがある
まさか自分がその当事者になろうとは
炊飯器が黙祷を始めた ....
− 素子へ、特別版 −
子供の頃は戦後のモータリゼーションが
発展し始めた時期で
うちの車は初代パブリカのデラックス
その頃は車のグレードと言った ....
春の偏西風が吹いて反芻は加速度を増す
牧場は世界との境界線を更に曖昧にする
牛飼いは牛の記憶を朗読している
元牛飼いはふと乗り換えるべき駅を間違えている
世界で最も模範的な牛に関する解 ....
今朝ひとり海に行って
砂浜でナイフを拾い
海賊になる運命を知った
ああ
そうだったのだ
これまでの人生はすべて
海賊になるための
複雑な道程だったのだ
風をいっぱいに受けた帆が ....
0
プラズマ
プリズム
スコープの内側
気を失いそうなくらいに
星空だけがキレイだった
1
キラキラと一本に光をうける溝のなかをビー玉が転がっていく
....
初夏の夜、首が痛くなるほどに
高い空を見上げて、
あれがかんむり座だよと、
いつかそう教えたのに、
あなたは忘れてしまった。
七つの星でできた王冠を、
あっさりと投げて捨て ....
遠い、遠い、記憶の中
不安で、不安で、しかたなかった
つないでいた手を
ほどかれたとき
まるで自分の一部を失ったかのように
泣きじゃくった
子供の頃
デパートのおもちゃ売 ....
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