熱く
青く
南から押し寄せる
夏の、ソ、ラ、シ、の
反復の幾つかは
肌を灼熱させたり
唾液と共に高笑いに混じったり
アイスクリームをベトベト光らせたり、そうして
幾 ....
洗濯物をたたむうちに
不意に可笑しさがこみあげてきた
昨日までの
それまでの
汚れを落した衣服の形
そうだとしても
ひとつひとつ
笑顔や葛藤や
その他{ルビ諸々=もろもろ}の生活を ....
あたりじゅうすべてが蜃気楼と化してしまいそうな
夏の午後
裾の長い木綿の部屋着に包まれ
籐の長椅子で微睡む一個の
流線型の生命体
窓からのゆるい風が
肌にときおり触れて過ぎる
ほの甘くあ ....
金で買われる夢があり
偽りで交わされる愛があり
富む者となるしたたかな術があり
そんな修羅の世を
罪に汚れた身のままに
今夜もとぼとぼ歩いていると
「 この世に在りて
汝の胸 ....
なにかがたりないよね
って
みんないう
なにが
ってきいても
こたえてくれない
たしかに
それはめいかくに
おもいえがかれているはずなのに
めをそらして
うまくいえないけど
....
クラシック聴きながら詩を書くと詩が3拍子になってしまう、
でも詩は4拍子のほうがいいから、詩を書くときは狂ったロックやテクノを聴くと言う人のことを思い出していた。
今日中にたどり着けない電車に乗り ....
海に行く
護岸の上でいつものように
体操をしているおじさんと挨拶する
釣り糸を垂れる
魚が一匹釣れる
魚を一匹殺す
やがて日が暮れたので帰宅する
途中おじさんはもういない
今日 ....
金魚鉢に
南は燃えうつるか
わたしは見ている
溶けない黒出目金の生体
燃えない色彩の存在を
本当は願っている
願いながら
燃える南に金魚鉢を晒す
晒しながら ....
呼ばれていく
わたしの行く場所は
今はもうない
小さな平屋の家
家々の裏をすり抜けるように駆け抜け
小さなコンクリートの階段を上がると
カラカラと音がするサッシの引き戸
薄いガラスが嵌め ....
私はやはり、と
言わざるを得ない
やはりあの{ルビ畦道=あぜみち}を
脇目も振らず
私は歩いていたのだと
炎天、真昼、陽炎
夏が侵攻していた
それはいつも匂いから始まる
濃厚な ....
じめんにぶつけて
かどをおとし
いわにこすりつけて
かたちをととのえ
すなでみがいて
ひょうめんをならし
どろでこすると
やっとぴかぴかになった
さっそく
むねのおくにしまって
....
すれ違った自転車の子供を
振り返る
白線が
鮮明に割き続ける
通学路だったアスファルトから
子供たちの声が古いものから順に遠のいてゆく
肌で増殖する蝉の羽の ....
日記は忘れています
かつて
誰かの小鳥であったことを
目を瞑ると
まぶたの中で風景が裏返る
人は皆
空の切れ端でした
初毛の水紋
遠い雨雲
川が生まれ出るところ
谷をめぐる暗がり
稲妻を映す手のひら
狩りのはじまりの音
新月も終わり
諍いも終わる
花盗人の道に沿って
夜は子供の ....
かなしい夏 ?
夏の首すじが
眩しい
何もすることのない午後
空気さえ発光している
しなやかな夏のゆびさきが
飽きもせずあやとりしてる
夏はあの木立のてっぺんあた ....
ふりつもる夜の殻が
ふみしめるたび
かわいた音を立てて
砕ける
名前を思い出せない花の香りが
密度を増した湿度となって呼吸を
奪う
夜の果てにたどりつく
手っ取り早い方法は
眠りなの ....
女が化粧している
裸の背中を私に晒して
射抜くような眼で
鏡に映し出した己を見る
内にある存在へ
女の手は問いながら作用する
ただの身だしなみでも
誰かに見せるためでもなく
太 ....
えのぐでも
けせなかった
いろがみをかさねても
けせなかった
くぎでめちゃめちゃにひっかいても
けせなかった
もやしても
あきびんにつめてすてても
うらにわにうめても
けせなかった
....
わたしは
命ではないものの声を聴く
わたしをここに
わたしをここに置いてゆけ と
横倒しになったわたしの心
たったひとつの言葉に浮かび
たったひとつの言葉に沈む
横倒しの ....
窓の外側に
内側から腕をさしだす
こうも空気に差がないと
飛び落ちても気付かないかもしれない
ぼんやりにゆっくりと浸食されて
ぼくは
蝉の声を、聴いている
....
蹴った石の音が
朽ちながら
からから、石を乾かしてゆく
腕に抱くものが欠けている
そっと、歩行の動作に紛れて探れば探るほど
空間は何処か冷静だ
石は乾き果て
気が付けば音も、 ....
第一章 権利
君をみたす酸素分子はさだめられた方角を見失うとき、霧となる。池のおもてで朝日が砕かれてゆくのを、君は燃える指でなぞる。どこまでが記憶なのだろうかと、問うこともしない。背後にあいた ....
君のいた夏が終わる
故郷を知らないという君が
旅先で描きためた風景画、
古びたスケッチブック
迫る山並み
水田に映る空
夕暮れの稜線
風に ....
曇った窓ガラスに
家の印をつけて
それから
母の勤めている店の印をつけて
でたらめな道でつなげる
窓が汚れるから、と
後で怒られたけれど
それがわたしの初めて描いた
世界地図でした ....
駅のコンコースに敷き詰められたタイルの一枚が
エレベータになっていて
上昇
もしくは
下降する という都市伝説
それは、踏み込んでみなければわからないという
カフェでビールを飲んで ....
{引用=
水は低いほうへ流れてゆくのだよ
}
空がようやく白みはじめた
霧の山小屋
去りゆく人の走り書き
{引用=
めざとくえらんで流れ込み
いつかは、とまる
....
日に焼けた古びた手は
私の知らない
たくさんの出会いをつなぎ
また別れをもつなぐ
いろいろな色の数珠
ひとりひとりの私連珠
ふるえる手で
なぜか
繊細な作業を
つづけてゆ ....
空をゆく流氷が
原に立つ子の瞳に映る
旧い川が運ぶ黒い土
小さな光の波
いつの日か原に
何本も土の柱が立ち
やがて次々と倒れ
原を埋めていった
原はうね ....
サワレナイという女の子がいました
何を贈られてもそれに触れないでかなしそうに笑うので
そう呼ばれていたのです
サワレナイはある朝、さみしい夢に目を覚ましました
そして、毎朝そうやって起きていた ....
とおくから まよなか が くる
いとまき あなた の きら の なか
せんの とおり を こえましょか
とおいひび まよなか が なく
からくり あなた の ゆめ の くち
せん ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60