白樺の若葉は濡れてなお淡く
陰りの中に揺れ
畑の麦はより深く
滲むように息づいた
日差しにかすむものたちが
雨の日には薄められず
沁みて とおる
焦げついた所まで
土の匂い
湿 ....
人は
ひとひらの
花のように舞い
着地するまでの
風を感じ
陽の光を浴びて
寂滅の歓びの中に埋もれてゆく
歓びも悲しみも
大したことではなく
ひとつひとつの現象がただ通り ....
柔らかな
背中の地図を這う指先に
明日を占い
地獄を垣間見て
白蛇のような舌先で
あなたを舐めつくす
不思議なその眼差しに
見入られて
心が波立つようです
巡りあったのはレタスの ....
うすい眠りに包まれて
探っている
五月の風を手招いて萌える木々
光の纏いで取り戻す
ざわめきの形象は
淡く爪先立ち
まどろみに波紋を呼び起こす
山と山との重なりに
隠された遥かなる道程 ....
砂のような
罵詈雑言を
浴びせられても
べつに痛くもかゆくもない
友達だったこともないヤツから
雨の日に浮かれ
這い出てきたのだろう か細い
蚯蚓が
ぺかぺかに光って
張り付 ....
石の中から掴みだし
ほとばしる火の
洗礼により
おまえ打たれ
錬られ砥がれ
握られた人と共にあって
土を切り開き
木を切り倒し
人を切り裂いて
国を興しまた滅ぼし
繁栄と文化
....
言葉で語られるほど
俺の傷は浅くもなければ単純でもない
逢魔が時
物の怪との戦いは深傷を負うまでに至った
今日もフラッシュバックが俺を襲う
ただ先生だけが俺の希望
先生だけが俺の希望
ぽろぽろあまだれ
跳ね蛙スローモーション
滲む文様から浮かんだ島
鳥に紛れ白髪女ひとり
永い束ねを千切る声震わせて
ふたつみつの影を漉く
ひと筆の青さもない
そら背負ってうみは来る
....
春だから
でしょうか
あたたかな風が吹いているから
でしょうか
何でもない小川の縁に
何でもない白い花を見つけました
白い花は
「それでいいんだよ」
と言ってくれているようでした
人 ....
もみの木のてっぺんで何してやがる
季節外れの煤けたお星様って訳じゃあるまいし
カラスのくせに風見の真似か なに
風は見るものじゃない 乗るものだって?
違いない 世のなか乗ったもん勝ちよ
だ ....
鉛筆で、ノートのページに横線を引く。
上に白い入道雲を描く。
太陽は紙の外側にある。
雲と横線の間にもう一本、水平線。
横線と横線の間にあるのは、青い海で、
白く波打つのは風があったから。
....
二匹のマルチーズと男が一人
春の錯覚を辿りやって来る
姿はゆらぐが後ろめたい足跡は一切なく
コンビニ袋のなかに桂馬を隠している
策士だが出世はできない
文脈の中に時は在って無いようなもの
....
丘を越える夢を見たい
風吹く空に金色の
夕陽に溶ける夢を
穴の中にいる自分
暗がりでなおうつむいて
夢さえ見なくなって
どれだけ経っただろう
開けても閉じても目に
色彩 ....
時々
体の壊れる音がする
それとも
心の壊れる音か
耳鳴りは
永遠に続くかのような蝉時雨
悲しくはない
目を閉じれば
あの夏にいる
――あなたは、聴くだろう。
日々の深層の穴へ
ひとすじの{ルビ釣瓶=つるべ}が…下降する、あの音を。
――漆黒の闇にて
遥かな昔に創造された、あなたという人。
遺伝子に刻まれた、ひとつの ....
我が身にはこれからも
あまりゆかりのない言葉
新学期
なぜだかわからないが
断固として幼稚園にも行かず
日々放浪していた僕にあたえられた
小学校という世界の箱庭で
やっと社会 ....
夕方のショッピングモールで見かけた
こげ茶のブレザーと黒いリュック
早足の後姿は あの頃と同じで
リュックから にょきっと突き出て揺れているゴボウ
器用な指先を思い出す
鉛筆を削 ....
ボディブローのように
じわじわ効いてくるのは
僕の中にも君が居るから
君の中にも居るらしい僕の片鱗を
君がこよなく憎むように
その嘲りは抗い難い誘惑
拒むにしても
逃げるにし ....
風が風を離れ 人が人を離れ
のぞきこみあう空は 青く
もくもく 雲 かげリいだく
つきとめられ つきつけられ
ほしい ほしくない
のぞむ のぞまない
組み込まれた祈りも呪いも ....
思念の淵で息をしている、
私の息づかい。
耳から流れ込む、
目の海の水を、
飲み込んでは吐き繰り返しながら。
呼吸が荒くなる。
海になった私の指から、
あふれてくる思いを、
窓硝子に叩 ....
あの日を境にわたしの中から
わたしがいなくなり
半透明な海月になった
荒ぶる海流に叩きつけられ
なす術もなく右へ左へ
痛みとともに流され続けた ....
見えなかったものが見える
ふくらんで
ふくらんでほどけ
ふわり ひらく
ゐろかおりかたちあまく
風に光にとけて
そらを渡るもの
ほそい弦で触れながら
匂やかな{ルビ詩=うた}の足跡をた ....
誰でも心に
ピアノを持っていると
どこの国の神話にも書いてある
だから無謀にもきれいな
旋律を探して
雨の日も晴れの日も
歩き回っている
この街は楽譜のようで
地下鉄が東西に走ったり
....
若い頃は良かった
なんて言わない
思わない
今が一番
いつだって
これからだって
とかなんとか言ってみても
こんな春のいい陽気に
年頃の娘たちが
きれいな足を惜しげもなくさら ....
どんなに悔しくても
どんなに悲しくても
どんなに苦しくても
生きなければならない。
なぜ生きているかと言えば、
出会い
が
あるから。
私には先生との出会いが
生きる鍵になりまし ....
温かな陽射しを浴びて
細い腕の静脈が
緑色の葉脈となってしまったのは何時のことだろう
そう
苦しみのない世界に来てしまったのだ
父が死に
母が死に
弟が死に
妹が死に
失うものはすで ....
失う口形を魔の辺りに視て尚も孕むかシ
トワに問う意味に倦み編みあぐね拗ねる
ウタの蒼さ麻袋に包み墓に供え貫かれた
裸の螺の水仙うねりのネを張り伸ばし蝕
される音韻のシズク触覚でハジク悼むこ
....
花だから咲いたらすぐに散ります
誰かが言いました
わたしは薄いうすい一枚の紙です
折り鶴が言いました
わしは古いふるい一本の木だよ
仏像が言いました
ぼくは孤独でまぬけな人 ....
蛇はひと口咬んで
あとは丸呑み
四の五の言わず呑み込んで
ゆっくりと消化する
蜘蛛は牙でひと刺し
注射して中身を溶かす
あとはハンモックで横になり
ゆっくりストロー
蛆は胃液を ....
木のかけらと
あたたかい水が
午後と夜の境いめに
蒼い浪となり流れ込む
錆は子らの名をくちずさみ
鉱は荒れ野に伏している
陽を転がす指や指
流れの内に華やいでいる ....
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