天界の桃を食べてしまったのは
大きな間違いだった
帝釈天は怒り
死ぬことのできないぼくは
闘いを続けなければならない
ほんの少しの過ちは
誰にでもある事なのに
後戻りができないことが ....
付き合って初めてふたりで観る花
桜をみると胸がいたい
桜なんかだいきらいと言いたくなる
だから桜に謝りながら
盆栽みたいなかたちをみつめている
一方向にしか膨らまない宇宙なら
星はこんなふうに見える ....
測れない
計れない
量れない
ものをはかろうと
脳は身をよじるが
生まれたのは不肖の子ばかり
どれ一つ それ一つでは
役に立たないものたちを
手妻よろしくこき使い
広げてきた
安心 ....
生神の鍬に
ぬっくり耕され
おれは畑になった
ねじ切られた灌木の陰茎に
スズランテープが引っかかって
女の声みたいに風がふざけている
ムクドリ毛虫食え
ミミズ食うな
おれはミミズの糞を ....
《ひどい! わたしの蕾に粉砂糖したの
姉さんでしょう
《あなたがはしゃぎ過ぎなの
わたしはまだ帰り仕度の最中よ
《ああうるさい こんな早くから蝉はよして
まだうたた寝したいじゃない
《駄目 ....
百均で買ってきた
ミニチュアの黒いうさぎは
手のひらに載せて
選りすぐろうにも
どれもみな
哀しくなるほど同じ顔
同じ姿勢同じ表情
どうしてこんなに正確に
大量生産できるのか
まるで ....
2016年3月21の吹雪
対
マイルス・デイビス
「Bye Bye Blackbird」
コーヒーの湯気と
古いポートレート
中心を射抜 ....
一日の仕事を終えて
帰った家のソファに、坐る。
ママは台所に立っている。
人より染色体の一本多い、周は
パパが足を広げた間に
ちっちゃい{ルビ胡坐=あぐら}をかいて
「おかあさんといっ ....
病気になったからこそ
命はそれぞれ
使命を持って生まれてきたのだと
強く実感できる
僕は強く生き抜いて
同じ病気になった人を
励ますことができる
師は言われた
「人の前に灯りをともせば ....
わたしたちは小さな生き物です
(小さな生き物)
どの程度かというと
気にさわるほどの
空き缶の下 おっと
踏まないように ちょっと
たたらを踏む
あなたのつま先にさしさわるほどの
....
どこからかハーモニカの音がした
なつかしい
ぼくは酔いと怪我でふらついていた
雨があがっている
砂で固められたような道が月明かりにひかっている
ぼくは路地の奥にすすんでい ....
何故だかわからないけど
生きてることが
情けないほど
悲しくて
悲しくて
仕方のない春の夜には
先生のことを
思い出して
自分を慰めようと思う
そして
宇宙の広さに
想いをはせ
....
近づくこと
遠ざかること
暗い
音節の
蝶番
止まることを拒む
海の裾のドレープ
駆けあがる白い泡
絶えまなく
描き直され
拒みながら ....
苦しくてたまらない
ぼくにできることは
詩を書くことだけだ
ひやりとした現実
夢のまどろみのなかで
考察を繰り返すしかない
詩を殴り書きするしかない
こころにメスを入れる
存在の耐 ....
桜吹雪の舞うのは
春のみか――?
否、人々は気づかぬだけ。
目を凝らせば
宇宙永劫二度と無い
今日という日の花びらが
ほら、目の前に透けて
ひらひらと
能面被って
声を、殺して
あえて明るい色彩の着物を身に纏い
たとえそれが千年昔の恋物語であり
源氏に捕らわれた{ルビ重衡=しげひら}が、死刑へ歩む
前夜の密やかな宴だとしても
透け ....
予約時間に早すぎて
十数年ぶりに弘南堂書店へ往く
見慣れたブックオフとは違う
天井近くまで積まれた学術的古書に
おまえの目は泳いでいる
楽しい散策 わたしには
安い棚から掘り出した一冊は
....
書かねばならない事
を 探して
言葉の海を泳いでいました
今の私に書ける事
を 尋ねて
言葉の風に吹かれていました
波はさざめいて
私を弄び
風は追いつけない速さで
私を通過し ....
爛れ過ぎた夕陽が
一軒の二階の窓を
ギラリと択び
怯えた鴉が見上げた先に
規則的に並ぶ建築の
一面だけを
薄明るい色に染め
足元のザラメにも
一粒ずつ微かではあるが
予兆のように
....
懐かしいトムとジェリーを観ながら
人生スラップスティック論入りの缶チューハイで
ほろ酔いの仕事明けの朝
様々な宗教の勧誘やってくる
団地の一階だからな
ハッブル宇宙望遠鏡が25周年を ....
幼いころの古びた靴は
シャベルよりも
ずっと小さくて、
土遊びをしながら
泥だらけで夕暮れに沈んでいた。
永くて遠い春はすでに
まなざしの向こうにあって、
冬を越えるたび
軽くうな ....
籠から溢れそうな
熟れた果実の
すこし傷んだ
あまい匂い
視線は蠅
めまい/匂い/めまい
スケッチしながら
溺れている
出口のない部屋
ぬるい潮が満ちて
鋭い線が
削り盗り
移 ....
風の幕をそっと空へ還すように
温かく見守る 吹いてくる知らせ
風は笛を吹く
物心つく頃には耳にできない 笛の讃頌
風の演奏誘うような 最前線
朱華色
鬱金色
それに
....
暗闇で会話する
わたしの鼓動と
悲しくはない?
―かなしくはない
寂しくはない?
―さびしくもない
無理 ....
土手の手つかずの雪が老いて
カラスがなにやら啄んでいる
穏やかな冷気に衣服の戸惑い
惜しめば儚く望めば遠く声は
なにも残さないただ揺らした
言葉が追う死者を追うように
セー ....
朝
街はすみずみまで霧に覆われていた
平等に満ちている粒は
白いサプリメント
普段は透明が満ちていて
遠くまで見渡せた
海に点在する小さな島や
船が描いてゆく波のような道までも
....
夕暮れの空は
少し甘めのコーディアル
濁り踏み荒らされた雪解けの道に
照り返し
闇雲な胸騒ぎも
無知な喧噪も
先鋭化した矛盾の
せっかくの露呈も
ほんのり澄んだ彩で
やさしく ....
どろうみから
タって
ミせて
あなたはあなたを
ミて
イたり
ニたり
《シ》ナいから
《シ》して《シ》舞う
カのふ ....
故郷を遠くはなれて
というより
次の故郷をもとめて
家族はまだ
ふたりきりだけど
静かに暮らす日々が
永い冬の西日みたいに
遥かな春を望むように続いて
ふたりで
寝坊ばかりし ....
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