冷たい雨音を遮りながら
仕事帰りに紺色の雨傘は
静かに溜息をついていた
鉄道駅に着いたので
ちょうど雨傘をたたもうとして
夜空を閉じるときに
満月がみえると本当はいいのにねと
何か反実仮 ....
気忙しく男は高みから息を吹きかけた
後退りする光の中でいつまでも己の内を見つめ
色を失くして往く
女を見続けるのは正直もう嫌だった
白く
すべてを
終わりの先の始まりの
まだ始まる前の上 ....
さようならアメリカ
たぶんぼくはアメリカが好きだった
ジーンズが好きだった
コーラが好きだった
ポテトチップスも好きだった
さようならアメリカ
自由と平等と人種差別の国よ
民主的で覇権的 ....
ほそく
だけどまわりの庭木よりたかく
そよいでいる
白樺の梢の辺り
黄ばんだ葉の疎らな繁りにふと
青いまま
いくつか
乾きながら
さわさわと光にそよいだころの
面影を残し
....
ハトが二羽歩いている
なにもない場所で
なにか啄みながら
啄まずにはいられない
生きるために
地べたを歩きまわらずにいられない
うまく歩きまわるには
首をふり続けずにはいられない ....
あなたの微笑み
落ち葉を踏みしだく音のよう
深まるほどに
冷たくなって
高くポプラの梢を揺らす風
渡らなかった深くない川のせせらぎ
なにかが去って往く
色鮮やかな痛みを灯して ....
いつだっていまだって青い
地球は朝で昼で夜だ
なのに地表の隅っこで(あるいは真中で)
いまブルーライトに照らされぽつねんと
もの思いに耽っているわたしには律儀にも
朝昼夜は朝昼夜と巡り訪れる ....
あかい傘ななめに濡れた路をながれ
雨音のつめたさに背中を欹てながら
遠景へ漕ぎ出して傍の違和をぼかす
迷い鳩に差し伸べた手の仕草の嘘を
街路樹の間から無言のまま見つめる
おんなの ....
朝のひとときに
部屋の窓ガラスに
打ち付ける様に降る 雨
その降り方は
この身に潜む暗いものも
洗い流していくかのように
雄々しいあなたは お久しぶりですね
あなた ....
溢れる海の{ルビ思想=おもい}を
透いた生命の鼓動にのせて
ぼくはきみに語りたい
{ルビ灼=あつ}い 熱い視線の息吹に恋い焦がれ
ひとり 沈んでいった人たちのことを
ふるえる ....
失う事よりも
忘れられる事の方が
どれだけ辛いのかを
想像しきれないまま
大切なものばかり
増えて 増えて 増えて
灯火の様な感情ばかり
胸の奥に 生 ....
ひとつ屋根の下で暮らした、お婆ちゃん
僕が生まれるより前に病で逝った、お爺ちゃん
幼い僕の頭をかわいいかわいいと撫でた、ひい婆ちゃん
娘の幸いを願って逝った、嫁さんのお母さん
年老いたある日突 ....
車の中のあなたは雨 避けがたくとりとめもなく
一つの今と一つの場所が移動する 相づちは質量を残さない
「モノローグ」そう題された つめたい彫像として心臓まで
こと切れたままのラジオ ....
こんな俺だからこうなんだ
どこまで我慢したら我慢になるんだ
すべては生き方のために
どんな歩みだしになるとしても
まっしろな紙のうえで転がる石のように
ほっさなう
....
寂しい気持ちになるのを
誰かのせいにしてた
流れ星の行方が
願わない場所にばかり向かうから
二人の思い出は
全ての言葉より
もっと脆いものだった
一人の気持ちが
頑なすぎて笑え ....
偽ること無く 生きろと言う
隠れることも 逃げることすら
あなたはけして 許しはしないだろう
照らされる度に 濃さを増す
影と孤独 私の姿は
恥じるものでは無いの ....
立てかけたエレクトリックベースの
三絃のペグが反射して
眼球の面をにわかにすべりながら
谷底に微かな光を届けている
祈る女の言葉に
二つに引き裂かれたのだ
気が付けばカエルやコウモリばかり ....
ホロリと涙 ひとしずく
枯らし ぴーぷー 吹いてきた
貴女は何処へ行ったのか
風の便りも途絶え消え
ホロリホロリと 泣き濡れる
一人ぼっちで日が暮れて
夢見る明日もありゃせんな
....
沈殿する鉛の溶液
筏の上を旋回する風
雨燕の航跡に
月の光を編み込んで
透かし見る夕暮れの
押しボタン式信号機
「おつきさまはついてくるんだよ
ほらずっとみててごらん」 ....
講演会で初めてみる、彼の顔は
元受刑者というレッテルの仮面を外せば
(もうひとつの素顔)が視え、休憩時間に
窓辺で佇む僕の瞳に、窓外の夕陽が滲みた
許されないと言えば
誰しも
平等に
許されない
許されていると言えば
誰しも
平等に
許されている
ただ言えることがあるとすれば
人生は輝くためにあると言うこと
切り取 ....
腰のまがった老人はめったに見なくなった
まがった腰で
ヨッコラショと
風呂敷をしょった爺ちゃん婆ちゃんは
わたしが子供のころの爺ちゃん婆ちゃんだ
農村や漁村では今だって
腰のまがった老人 ....
どんなことを言おうと
そりゃまあ 自由ですけどね
だからといって 妄想したことを
有ったようにしゃべりちらしちゃいけませんわな
妄想だよってしゃべりゃいいだろうな
想像だよってしゃ ....
おとといは仄かに薫ったキンモクセイ
昨夜の雨で濡れた路面に、花びらの星は散らばり
しゃがんだ僕は呟いた
――今日という日の、星を探そう
沈黙して眠るほかない
鬱積を投げ合う蒼い人語の地穴で
帆軸を極北に向けたまま
難破船のようにふかく朽ちていく
沈黙して眠るほかない
世界の清しい涯てをむなしくも夢みて
....
{引用=わたしの正気は陰鬱だが
わたしの狂気は陽気な歌
木魚バンドネオン炭酸水
(証城寺住職 囃子ダダイ)}
証城寺の性悪少女
ひどくあくどいのだ
そのだんま ....
捨てないかぎり夢の続きはついてくる
あきらめない限りことばの谺は響きつづける
僕の頭の中の世界図書館は閉鎖されたまま
精神の廃虚には孤独な回路が短絡を待っている
魂の階梯はかぎりなく地 ....
ぼくには海がある
山がある
大地がある
宇宙がある
じぶんに都合がいいところに行けばいい
深夜
腹痛で目をさまし
あなたのなまえを呼ぶ
神のなまえ
....
光の傾斜のよわいめまい
に
いななきも止んだ朝の膨らみ
秋は秋と重なって遠近を失くしながら
凧のように {ルビ空=くう}の{ルビ空=くう} 淡く燃え
無限の、 矛盾の、
存在の、 ....
週の半ばを過ぎると背中が強張りだす
眩しい声が
ほら すぐそこ
地平を跨いだ辺り
小さなキックスケーターが往くよ
時の車輪はゆっくり素早く
ゆらゆら揺れて
蕾 花 あっという間に
....
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