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夕方のショッピングモールで見かけた
こげ茶のブレザーと黒いリュック
早足の後姿は あの頃と同じで
リュックから にょきっと突き出て揺れているゴボウ


器用な指先を思い出す
鉛筆を削 ....
暁のうたたね 夢の中で泣いて
白くぼんやりした夜明けの部屋に
ムウドだけが薄く残っている
メランコリックな仕草で 髪をかきあげる


オルゴオルの上で踊る 白鳥が優雅に
ころんころん ....
越えられない 許されてもいない
つるんとした壁を 軽々とひと羽ばたきで
容鳥は笑顔で越えていく 見たこともない
世界へ 想像の中にしかない静かな森へ


平穏な壁の中は 灰色の焦燥に
 ....
降る雪の間に間に後姿 
灰色に滲んで 小さくなる
誰も開いたことのない 図書館の古びた新刊書
端末はいつもいっぱいで 書物は忘れ去られる


早朝のバス停で 
凍えながら待っている
 ....
風が悲しいため息をつく
かき曇った空に 葉を落とした大木の影黒く
烏が鳴く 惨めな輝きを目に宿して
閉ざした扉は 誰かが叩くのを待っている


開き果てた花薄は 干からびて
土の中で ....
一晩で覚めた酔いは 何も残さず
それなりの仮面を被って 朝の光にびくともせず
生活者としての仕儀で 感謝されてみたり
立派な人間は そもそも詩を作ったりしない


後ろめたさを糊塗する ....
季節は容赦なく 黄昏を早める
暮れなずむ街頭に キャバクラの呼び込み
ラインを際立たせる タイトなミニのワンピースで  
道行く仕事帰りの おじさん達に声をかけている


下心に乗っか ....
絨毯は 空に舞い上がって
塔や市場や 大きな川を見下ろす
初めて 飛行機に乗った時の記憶
風を耳元に感じることはなかったけど


ぼくは古びたランプを 本棚の後ろに
小難しげな専門書 ....
深い森の中を彷徨っていた あの頃
草木の名も 花の色さえも知らないで
認識は ぽっかりと開いた陽だまりの草地に
唐突に現れて 「境界」 を教えた


黒い雲の切れ間から洩れる 血のよう ....
若い父親は 汗で髪の毛が張り付いた子供の頭を撫でている
母親は 胸に抱いた汗まみれの子供を 一生懸命あやしている
車窓に青々と広がる田んぼに 草取りの白い長袖シャツと麦藁帽が流れ去る
当たり ....
浴衣の帯が苦しくて 不機嫌な顔をしていた
それでも金魚の袋は しっかり握って
夜店の光が届かない 闇の狛犬が怖くて
握った手に力が入った 小さい弟の小さな手


田舎の家の 広い居間で ....
群竹を抜けてきた風が 木戸を開けた
重い飛行機雲は 丸い山をかすめてたなびく
TVでは 認知症の軍事評論家が勝手なことを喋り
狭い路地の向こうから 野菜売りの声が届く


ご先祖様 ....
熱い日ざしが 爽やかに木の葉を青く染める
夏休みになって 少し賑やかになった
迷惑なような 嬉しいような顔
普段は老人ばかりの 閲覧室の空気

戦争中のことを書いた本を広げて
いつかの ....
遠い夏は旅の果てにある 汽車が鉄橋を渡って
青い駅に着いたら スカートを翻し
湧き上がる雲を見上げて 目を細める
見慣れた飛行機雲が 交差する


引込み線には 背の高い雑草が風に揺れ ....
同じ電車に乗って 毎日同じ汗をかく
風景は少しずつ変わっているはずなのに
同じようにしか見えなくなる 馴れ合い
美しい森に迷い込んで 彷徨って自分を見失っている


煽てられて 舞い上 ....
左手のスマホから 右手へ「淋しい」と送る
右手のスマホから 左手へ「元気出せよ」と返す
LINEで一人芝居をして バランスを保っている
スーツの着こなしはスマートに ロンジンの腕時計が光 ....
風だけが 通り過ぎていった 
時計は止まったまま ベッドの上に
白い部屋の窓辺に 深紅の薔薇が
赤い影を落とす 花瓶の陰で


黒猫が身を伏せて 狙っている午後
死んだ蜂の羽が虹 ....
閉じ込められていた扉が開いて 一斉に流れ出す
群集に紛れる 安心感に包まれて
たくさんの孤独は 水族館の鰯になって
同じ水槽の中を 泳ぎ続ける 死ぬときまで


独り暗闇に潜んだ金魚の ....
雨の夜の物語は 濡れた
石灯籠に絡みつく 蛇の赤い舌先に
想いは 蛍火にほの暗く 闇に
浮かび上がる 老いた眼は 涙に濡れている


森が深さを増し 光を拒み始める
明るい陽光に踊る ....
電車の窓ガラスに映る
何か忘れ物をしたような顔は
別の世界にいる自分を夢見ている
手に入れたものと失ったものを 秤に載せて


手の中にあった 虹色の玉は
守ろうと握り締めた瞬間に  ....
時が経っても たぶんきみはきみのままで
あたしは ラッシュの人波に流されて溺れて
年老いた患者の愚痴を聞きながら
磨り減って 川下の石みたいに 丸くなる


そうして彩色されていく
 ....
まだ悲しみから 逃れられない
古い歌を聴いて 涙を流したりして
帰っていく 記憶の彼方にある
そこにあったはずの 別の世界に


きみが去った後も 同じように
山は煙を流し 村は雪に埋も ....
あたしの悲しみは 彷徨った後
水仙の咲く堤の 老いた桜にたどり着く
蕾はまだ固いのに 水は
香りに混ざった 陽の光を揺らす 軽やかに


きらきらと 光の粒はころがって
橋を渡る老人 ....
しばらく前まで そこには山があった
ショベルカーの快活な饒舌や
ブルドーザーの笑い声と共に
預金通帳に増えていく 零のよろこび


狸は自動車のライトに眼が眩んで
白いセンターライン ....
彩色された 醜い些細な日常を
覆い隠すつもりで 目を閉じて見ている
心に残った出来事だけを 何度も何度も
繰り返し話す 自分の世界に浸って


大根の葉が 黄色くなった
裸になった樹 ....
堆く積まれた 書物は昔のままに 
午後の斜光に 照らされた埃の層は
舞い上がることもない 部屋は死んでいる
窓ガラスは乾いた風に ことこと揺れる


紙魚が食べた詩集には 空洞になった ....
モノクロームの写真に 影だけが見える
真珠の耳飾りが 揺れる 泣いているのに
あたしの瞳は 無垢な少女のように
耀いている 嘘をついている


アンリエット… きみの墓は 毀たれた
 ....
「その紙に書いて…」
ぶっきらぼうに言った
彼女の横顔は デジタルに
その上 形而上学的に

LEDに代わった信号は
きっぱりと 黄色から赤に変わった
車のウィンカーだって 余情なく ....
死んだ犬の名前を呼んで 秋の夜
泣いているのは 初老の男の独り暮らし
妻が亡くなり 娘は家を出た
錆び付いたぶらんこは 荒れ果てた庭に 


2階のヴェランダには 溜まった土埃に
埋 ....
リルケの詩集を 雪の積もった日に
重いコートの襟を立てて 携えてきた
大事な宝物のように 頬を赤くして
そんな時代に きみの後姿が重なる


茶色くなった 欅の落ち葉に書いた
秋の香 ....
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