風の声が聴きたかった
新緑の並木道の向こうでは、
アスファルトに杖を落とした老人が{ルビ蹲=うずくま}っていた
僕は見ていたに違いない、
何故彼がそうしていたのか一部始終を ....
詩と技術ということを常に考えています。
というのは、私は詩を書くとき、技術的なことはぼんやりとしか考えていないから。
ぽっと浮かんだものを何も考えないで(言葉で表せるようなことは考えてない)書いて ....
われわれのうちの多くは、自分の脚でいろいろなことを行う。
走り、跳び、ボールを蹴り、時には自分の頭より高く脚を振りあげたりもする。
だがこれらの動作はまず、「歩く」ということが出来なければどうにも ....
沈んだまま明日のこない
深海に揺れる一群れの
長い、深い闇
地縛された肉体の
閉じる奥の扉
なにかのなまえで封じられ
こたえを閉じこめ ....
「彼、自称詩人なんだって。」よみきかせの仕事をくれた女性にそう紹介され、挨拶をしたことが二度ある。心の中で“自称は余計だよ”とおもいながら。
世間で「詩人」と云う存在がどんな風に扱われているか ....
足跡は
続いていく交差点の
その先に落ちている
踏締めるには少しだけ、遠い景色
よくありそうな一日を
(転がるように)
*
無駄なことだと、言葉にしたものと
無駄 ....
夏が終わって、私はまた学校に行ったり行かなかったりの日々を過ごした。学校に行けばまあ成績は中の上、ほとんど図書室で本を借りるためだけに学校に通っている生徒だった。その当時、私には目も合わせないくらい ....
「SFの黄金時代は12歳だ」という言葉がある。つまり、SFが最も面白かった時代は20年代でも60年代でもなくて、読者本人が12歳だったころ、とゆーことなのである。そんなものだろうな、と私は思う。しか ....
当時私が住んでいた町には、本も売ってる店が2軒あった。言っておくが書店ではない。「本も売ってる」店である。どちらの店に行くにも、自転車できっちり20分かかった。ひとつは、スーパーに隣接した、雑誌と文 ....
13歳の私は、キャプテン・フューチャーと火星シリーズと栗本薫の小説を愛した。それらの本はすべて母が母自身のために買ったものだった。母が買ってくる本はだいたいが私の趣味にあっていたし、面白くもあったの ....
11歳の年に、私の人生は暗転した。何がどう問題だったのか、私は詳しく書きたくない。私はそのできごとについて様々なかたちで詩にしている。勝手に想像だか妄想だかをふくらませてもらって、かまわない。ともあ ....
まず、母について語らねばならない。
私の母は、かなりとんでもないヒトである。イナカ住まいの高卒のキャディーだというのに、創刊号からSFマガジンを購読し、本棚には中国文学と江戸文学とハヤカワ ....
まっすぐな帰り道が見えなくなると
穴という穴からノームが這い出て
ら、るほ、ら、ら、るほ、
ダークダークノームダーク。(あれるっちぇんど)
君たちの手に掴めるものはわずかしかない
ら、るほら ....
「恋してないのに恋の詩がかけるんるんですか?」何年か前にある女性から問われた事がある。その人は小説を書いていて、自分が必ずしも体験していない事も書いているのに、詩は気持を書くもの、そういう気持になるき ....
「理由」
今、また飛び立っていった
その跡地に残っている匂いを慈しみ
つま先に少しだけ残った春を払い落とした
することもないので、踵の重さを告白する
あなたが、立ち尽くしていた ....
博士が遊びに来た
難しい話と
難しくない話を
わからない比率でしていった
翌日、
明日遊びに行きます
と届いた博士からの手紙には
二日前の消印が押されていた
お待ちして ....
やまびとの散文詩・断片1
春の息吹が、空から地面から次々と芽吹いて、
美しい山々の栄光は、
わたしたちの赤い血液のように循環する貨幣と、
太陽の動きと星々を絶えず観察して、
それを文字や ....
気がつけば部屋中掌だらけだった。私は小さ
なため息をつきながら場所を空けて座り、滞
っている作業を始めることにした。
遅ればせながら私も掌を買いかえることにし
たのだ。確かに飽きてきたとい ....
1
子どもを産んだら{ルビ早月=さつき}と名付けようと決めていた。
だけどぼくは子宮を持っていない。女には興味を持てなかった。だからといっ ....
私の仕事はガテン系なので、仕事中は、いわゆるカーゴパンツ、動きやすく、大きなポケットがいっぱいあるズボン、それも男物を穿いている。男物の服のポケットは、女物のそれに比べると段違いに大きく使いやすい。財 ....
私には自分が岩であった頃の記憶がない。だが、確かに私はかつて岩であったのだ。恐らく私は、人の欲望に汚染されることのない高山の頂上付近で、時折空から降ってくる虚無の波を一身に集めていたと思うのだ。ある ....
軽業師
ビルとビルの間のロープ
風
バランス
を
く
ず
し
{引用=
砂時計ははかないものの象徴のように
いつも扱われていたのに嫌気がさし ....
やまびとの散文詩―断片4
緑色の太陽が沈まない夜が、軋み、傾き、唸りを上げて
動揺する、わたしたちの長い旅は続いた。
黄金を隠し持つ禿鷲が棲む不毛の大地は、ときに、わざわざと
道を次々と造 ....
{引用=ソコは。}溢れている
ただ、天蓋はない
一斉に眠ることもあれば
一斉に目覚めることがあるという それだけのことだ
街に耳を当てカツテは聞いた雑踏の鼓動
力強かった
でも、偏在し ....
平野啓一郎氏の『文明の憂鬱』のうち一篇を読み、メディウム(medium)から発生した語がメディア(media)であり、それが中間を意味するものだと知った。この「中間」というものは、人間にとってはとて ....
身に覚えのないことで
なぜか{ルビ矛先=ほこさき}はこちらに向いて
誰かの荷物を背負う夜
自らの影を路面に引きずりながら
へなへなと歩いていると
影に一つの石ころが浮かぶ
理不尽 ....
戦争に行きたいと
妹は泣いた
誰かを殺めたくて
仕方ないと言った
兄ちゃんを殺していいから
お前は戦争に行くな
と宥めて
固い指切りをし合って
その日は一緒に寝た
明くる日
妹 ....
1
ひかりがなく照っている太陽は、世界の黄昏を
予言して、黒いかなえた起点を、再びふまずに、西を眺めながら、海が飲み込む土地をたんねんに探していく。太陽は、誰もみたことがない、隠し ....
「私がおばさんになっても」と森高は歌った
ついこの間のことのようだけど
もう十二年も前の話だ
その年に僕らは結婚した
つまり、僕らが結婚して既に十二年たった
ということだ
僕は一度、交 ....
わたしの肌は
蜜柑のかおりが
少ないせいか
かさかさに
なってしまって
こんなんじゃ
新しい恋なんて
できやしないわ
燃えるような
熱い恋だなんて
わたしは
そう、言った ....
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