あんたの短歌はフルーチェの匂いがするね愛しいだけさ
真白なTシャツで作ったフラッグを振る死んでも名前は同じでいたい
眠れないのは誰のせい深夜音楽番組を片っ端から惚れる土曜日
....
微笑みの匂いがする最後の頁を
めくるかのように
僕が女を忘れたころ
女はいつもと同じ場所で
いつもと同じ歌を
歌っていたそうだ
未明
人も車も動き出さない冷たい駐車場
空を見失 ....
泣いているこどもは
湯気が立っていて
かわいい匂いがする
抱き締めて
頭に鼻をくっつけて
くんくん嗅ぐよ
産まれたてのときは
わたしの内臓の匂いがした
今も少し
する
....
耳を澄ます
この死への欲求は
どこから来るのかどこから来るのか
ひとつだけ
たくさん
あげるから
ひとつだけ
たくさん
たべてね
おねがいね。
しっとりと重いスポンジの中で
ただただ黙り込む
水色のことば
遠い時間の証言者
優しさの代わりに膨らんだ
水色の記憶
どんなことにも限界はあるのでしょう
今夜スポンジをしぼろ ....
*
目覚めると音のない世界
カーテンの隙間から灰色の光が射している
明けていくカーテン越しの光のなかで
青磁の肌が鈍く輝く
この部屋はこんなふうに朝を迎えるんだね。
僕は君を置き去りに ....
駅前にすべり込む黒塗りのクラウンに太陽光。降りてくる半起ちの牛若丸に「クソ暑い」と吐き捨てて夜を待てば、彼女は得意げにチャイナドレスを着て「誕生日のプレゼントだ」と言い張る。ああやりきれない。「バロッ ....
駅のホームに
オクラがひとつ
おはなしは
あなたが考えて
(夜勤前に愛野駅にて)
一時間に一本だけの電車の中で居眠りをしてみると
回想の中で自分の自分に逢えるので
もう一度と思ってみても
一時間に一本なものだから
すごく困ってしまう
ぼくらは、たまに
どうしよう ....
どどどどど 屋根の音とつらなって濡れておちてくベランダの灰皿
こういう日は思い出してみるちょっと前 ひとりぼっちが普通の雨の日
ゴムのはし結んで噛むと汗のあじ 赤白帽の活躍した ....
ビルディングの肩はとうに壊れていて
投げ損ねられた昼がアスファルトで砕け続ける
どれが致命傷なのかわからないくらいの夜が始まる
黒々と割れたビルディングの窓は
誰かの死に愕然としたまま死ん ....
三番線に十両編成の
パフェが到着した
中から降りてくる人たちはみな
クリームまみれ
母親に手を引かれた幼い男の子が
頭にフルーツをのっけて
昨日からだよね、昨日からだよね、と
....
歩行者は夜9時を過ぎていく
ぼくの身勝手でやさしさを決め込んだ算数が
ドライな公園でひたすら石を数えるように
きみは月を見た
マイクに空気を
あたたかく篭ったノイズが閉じては枯れ
なぜ ....
魂のやさしさなんてたてがみの獣の飢えにひきちぎられろ
その底のやさしさひとつひっそりと夕陽のなかの草に宿れる
きりきりと秋の深夜の草むらのなかにいっこの電池は鳴れり
留守電に君の英語のうつく ....
{ルビ晩餐=ばんさん}など絶えて久しい
誰もが膝を抱えてうずくまった夜に僕は
屋根の隙間から星を見あげてた
あかい、涙みたいにうるんだ一粒に
名前をつけようとしたとき
父さんが僕の髪をく ....
消しゴムは
あの日
机のひきだしから
転げ落ちたまま
ぼくの過去だけを
見つけられずに
教室でふいに
かかりっきり
になってしまう先生
背後で
好き勝手する
魚を食べたり
それを戻したり
さらに並べたり
する
駅や図書館には
変な音を出す人が
いっぱいいて
そ ....
たった一言交わして
すれ違うだけの人にも
私を憶えていてほしい
それは贅沢なことだろうか
食卓や墓地や廃屋にさえ
いつも人の面影があった
私の生まれは人だから
....
夏の初めの宴会は
私の手の届かないところで始まる
少し水を含んだ粘膜が柔らかく糸を引き始めて
まだ湧いたばかりの入道の行方を
飛ぶ鳥だけが追いかける事が出来る
遅咲きの妹は去年の春に熟れ ....
風のつよく吹く日には
惑星間電話で
火星に電話をかける。
受話器のむこうから伝わる
赤錆色した砂あらし。
その夢の原石のような響きに、
そっと
耳を澄ますために。
どううぶつえんの檻の前で親友は盤を取り出し
飛車角落ちで良い、と言う
親友の温かい手から飛車と角を受け取り
どううぶつの檻に投げる
どううぶつは隅でうずくまったまま見向きもしない
飛 ....
ああ 雲ひとつない
騒がしい季節が終わって
空も
心を一つに決めたんだね
横浜の郵便局のかげ曲がる畑在っても彼は在らず
ただそんなことを思って珈琲を手には同じ銘柄の煙草
靴先を鳴らして白線を踏む仕草にさえ一筋つたう
さいごだと線香の先灯すけどこらえきれずに ....
冷え切った校舎の裏
ささくれ立った言い訳をした日
嘘をつくのは単なる処世術ではなく
空気と同じなんだと信じることにした
地球は今この瞬間も律儀に回っている
無数の嘘を繋ぎ止めながら
....
砂糖まみれのドーナツは夢の中で真っ二つ
綺麗な三つ編みがふちを残して焼け落ちた
だからあなたは笑ったの
求める事を忘れたらあたしはどこへ
欲望にまみれた両手では そんな答えでる ....
風 向 き が 変 わ っ て も ま だ 大 丈 夫
夕 暮 れ 電 線 あ た し は あ た し
ほの暗い世界に浮かぶ首筋に沿われる指がナイフに変わる
地図にも載らない楽園を住民票にも載らない妹の兄一方通行
百回目姉と知りつつ背徳を覚えて二人鉄柵越える
....
愛の奇跡であの娘と結婚させてください
そう神様にお願いした次の日の朝
目を覚ますと僕の右手には一本のわらがあった
どうにかしろ、ということなのか
どうにかなるさ、ということなのか
わ ....
かぜをたべて
いきているとりを
たべて
かぜは
なんだか
かなしいきもちになった
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