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帆布を揚げて
ヨーソロー!
船長は高らかに叫んだ
目指す宝の島は
オレの背中の地図に描かれている
酔えば赤く浮き出て航路を示す
ラム酒を飲み放題という条件で
航海に行く契約書を交 ....
セピア色に閉じ込められた表情は
硬く結ばれた口元と
こわばる頬
眼差しだけが生きている
たった一枚の写真
逢った事のない親族の表情は
戦闘に出る伯父を中心に
こちらの世界を見ていた
....
何かのふりをして歩いていると、詩を書くこころが僕
のなかからふらふらと彷徨い出て来た。そいつはゆら
ゆらと漂うように移動して、道行く人たちをとおくを
見るようなぼんやりとした眼差しで見たり、空を ....
久しぶりに洗車する
マスカラが涙で落ちたような数本の薄汚れが
泡とともにコンクリートへ流れていった
この数日
見て見ぬふりをしていたものに決着をつけてほっとする
助手席に乗せた犬は真顔で少し ....
雨が降る、十二時の長針の上
赤い流星と黄色の音符
ふたつの意思が結婚式を挙げる
白い祝日は
透き通る幽霊たちの歌で始まる
今日はウツボカズラの休日
塞がっていた穴の開く朝
べこべこな ....
うちのたまは五百円玉が大好きで
お腹いっぱいになるのは十五万円
過日お腹が痛いというので
たま専用の銀行ATMでうんちをさせた
もうそろそろ
またお腹が痛いというだろう
たまは食いしん坊で ....
関西風のだしがおいしかったうどんの店は
コロナが始まってすぐのころ店を閉じた
よくお世話になってたのになあ
売り上げが落ちてかどうかは知らないよ
四月にはなくなってたから
それで、ちょっとし ....
犬は臭い
お隣の犬は知らないけど
少なくてもうちの犬は臭い
フランス製のシャンプーを買ってきて
風呂場で洗うが
ひと月もたつと臭い
犬は臭くて当たり前だけど
どうしても我慢できないのは
....
おれたちを殺してくるものすべてをこの手で排除するなら
おれたちにいったい何がのこるというのだろう
シールのはげた醤油差し
ドラグストアに並ぶシャンプーの群れ
大根の花
そういうものにおれたち ....
自殺しちゃったけど
このあたりに井戸掘り名人がいて
地下のことにとても詳しかった
金持ちで人に時計をやったり
飯を食わせたりしていたよ
上着をこの枝に掛けて
煙草を一服するのが好きだった
....
亡くなった犬が鏡の中から
わたしを見ている
わたしの手のひらに隠している
おいしいものを知っているのだろうか
名前を呼ぶと返事のように尻尾を揺らす
黒い鼻はしっとりと濡れ
いかにも健康 ....
神奈川県立音楽堂の夕暮れ
信濃路のナス天そば
朝の水風呂
鈍行列車の窓
影を踏まれないように生きる
夫婦に理屈はない
何を許して 何を許さないのか
クローバーの冬限定牡蠣カレー
6 ....
(だれが呼んでも
(きこえないよ
(きみが、いちばん!
羽根のない子どもは月に擬態する
集団下校の輪の中に居たはずなのに
だれも名まえを思い出せない
古い友だちの口笛は
(風が散ったから ....
テイクアウトのピザを
たらふく食べ
飲みすぎた赤ワイン
炬燵で寝落ちし
ふと目覚める 耳の底の音だけしかない
深夜
空ビン洗って
ベランダの収納ボックスへ入れる音 ....
鯛 花は桜いろ
サワラ 甘やかなピアノのメロディーは
赤貝 血潮の香りが胸を刺す
はた 深く広がるハーモニー
つぶ貝 彼方を眺め噛みしめる
え ....
終えて
始めることを
止めた
当り前に
巡ることを
諦めた
透き通った人達の
声が届かないように
ひたすら囀った
正しすぎる風に
猫背を向けて
なけなしの炎を護ろ ....
1.ジャンク・フード・メモリ
冷蔵庫にババロアがあるから
と言って仕事に行ったけれど
それが本当のことなのか
過去のことなのか未来のことなのか
わからなくなってしまった
残業を ....
その殆どが酒精から生まれたものだった
酔えば酔うほどに覚醒してゆく
泥のような言葉を吐きながら
失われた月を待つ
皆の文字列だけが俺を照らし
涙を拭いてくれる
こんな幸せなど無いこの部屋で ....
東の風が吹いていた
醤油工場から醪(もろみ)の匂いが漂う路地
ぼくはスニーカーの紐を堅く締め直し
重いザックを背負い直した
遠くに行ってしまう前に白い灯台を訪れたかったのだ
乗客は三人だ ....
透き通るように白い肌を薄く削ったらカラフルな内臓がみえました
先端から雲がもくもくまとわりついた飛行機がトマトの味がするように
右手の人差し指で僕から眠った星に地平線を引けば
左手で ....
「独白」
霜の立つ
音のきこえそうな
夜に一人で居る時は
吐息など捨てようと
幾度 思った事か
「街の鴨」
商業施設の脇を流れる
堂の川 ....
昨日の末から断続的に
小さな一年間があり
天気の名前を作って
折り畳んでいく
優しい、誰かのために
二言三言の伝言と
朝用の傘を残しておいた
雨の中身が水になる瞬間の
映し出さ ....
下半と上半をつなぎとめているのは腰の骨
(やれやれ腰がついに口をききはじめた)
つまりは天と地の神聖なむすび目も腰にある
(口をひらけば不自然な違和感もおきてくる)
神がつかわすロープは言葉と ....
寂れた町の匂いのする
季節外れの席でビールを飲む
砂粒だらけの赤い足で、
板張りの床を踏んでいた
濡れた髪の女の子が
ハンバーガーとポテトを運んだ
台風が去った跡の景色が、
そのままこの ....
かさかさと地面をすべってゆく、殺伐とした風に、押しだされた、すっかりと茶色くなってしまった落ち葉も、もう動かなくなってしまった蜘蛛の手足も、気まぐれに、かるく爪弾いただけで、いともたやすく砕けてしまう ....
鳥たちに怒られながら、桑の実を摘む
抱えたボウルに次々とほうりながら
これは私のものよと、何度言っても怒られる
何度も何度も、鳥たちは同じことを言う
こちらも負けじと言い返す
だけどすぐに疲 ....
目覚めた時にすでに憂鬱
カーテンを斜めに開いて落ちる雨に憂鬱
「ごめんなさい」が言えなかった昨日の自分が憂鬱
下駄箱を蹴っ飛ばして靴の踵を踏んでいる自分が憂鬱
土砂降 ....
ひぃらひぃら
ふぅわふぅわ
舞うの真上に舞うの
おぉいおぉい
とぉいとぉい
響くの微細に響くの
するっするっ
あったかぁい
光に充たされ
ずんずんずんと
....
もうひとつの夜の街が動き出す
灯火はみな偽蛍
背筋を伸ばした猫は
糸を池に垂らしてザリガニを釣り
夢遊病者たちは公園に集い
おとがいを比べ合う
看板描きの落としていった
無邪気な絵筆は
....
川を越えて
戻ってこなかった
砂利になった言葉ならば
ひとつかみにして 気のすむまで
玩んでいられるのだが
駅の屋根に
ふる雪のかなしさ 静かさ ....
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