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ここに今日しかない風景
いつまでも同じじゃないあなたと私
田んぼに張られた水面の見方を少し変えてみれば
流れる雲の切れ間からわずかばかりの青い空
徐々に徐々に赤らんでやがてやがて黒ずんで
一 ....
僕が死ぬ時
あなたはそこにいて
僕の目を見つめて下さい
僕は死ぬのです
少しくらい我儘言ったっていいだろう?
・・・できれば、僕の膝枕をして下さい
そして僕の目を見つめてこう言う
「あな ....
夕だちが風をおこす
わたしの中にはわたしを包むたくさんの気泡があって
ひしめき合い、じぶんのかたまりをばらばらにしている
夕だちのあとにふく風は、プリズムの階段に繋がっている
そんな寓話を ....
信濃の森の山深く
一筋流れる清流の
脇にいでたる温泉に
ずぼりと飛び込む心地よさ
男子の本懐ここに有り
手ごろな岩に頭載せ
手足を泳がすお湯の中
眼閉じれば思い出す
父 ....
垂直に聖なるものが地に倒され
狼の声を聴いている
流木がふちどる
真昼の路
終わりは来ない
そんな終わりが
もうひとつのはじまりまで
つづく
木の根元か ....
この瞑想は晴れた日の公園のベンチでやるのが望ましいのですが
雨の日などは明るい室内でもできます
電車でも座れたらやってみましょう
まず楽な姿勢で座り目を瞑ります
額に輝いている光の球をイメ ....
地面とじかに触れ合う春は
たった一つの落し物をした
そのたった一つの落し物が
みるみるうちに散らばっていって
こんなに豊かな花々になった
花々は凍り続ける
大気が花々を許すその日まで
....
会社をたたむと決心して以来
もののたたみ方に注意するようになった
これまで自分でたたまなかった布団を
たたんでみたりするようになった
いつもはそこら辺に放り投げている
パンツや靴下もたた ....
母は肉体と魂が徐々に離れていくものだと言った
こうして話をしているときにも
食事をしているあいだにも
離れていくのだと
だから私たち姉妹は
祈りはそれを遅らせるものだと思っていた
不思 ....
君のために雨のなか
スーパーへ水菜を買いに行った
料理用の鋏を入れて
細い翡翠色のくきも緑の葉も
みんなガラス容器にあけて
たったそれだけのサラダ
台所には オリーブオイルしか
ないよ
....
それはすぐにわかった
マンチカンは死んでいた
わたしはあたしによりそって
あたしはあなたのもとへ
わたしはひとりですなあそび
油圧式の義手はゆっくりと弛緩
与圧室の医師はただただ遺 ....
時間少女は宇宙浴槽のなかでうたた寝
水浸しの朝はシャンパン雨のなか
ブーツに子猫がいて可愛がっている
見えない月をおもいながらはしゃいでる
桃色のブランコ漕いで黄昏の光景のなか
滲んでいるき ....
この川を もすこし下ったところにあるのが 静物園
果物や骸骨が 額に収まっている花のように静かな生き物の館
ガラス張りの館の角は どこも ゆるやかに丸く
おたまじゃくしの卵のように静謐
....
嫉妬という言葉を
あなたは教えてくれた
無防備に眠る
あなたが憎らしい
そっと首に
両手をかける
胸の奥で
ちろちろと燃える炎
このまま力をいれたら
あなた ....
バスタブからあがった
ブロッコリーが塩と胡椒で
身支度を整えている頃
次から次へと切り出された
キュウリの楕円形の
車輪は朝日を照り返して
クロゼットからはがされた
レタスが ....
春が咲く
アリ ア ルウ
美しく香るときを待って
種を手のひらにくれたひとを駅まで
アリ ア ルウ と若さを数え
目で追う 見上げる ひかりたち
半月 日々にゆき交う道
…さくら
いち ....
≪さいごの夜≫
自動改札機は水槽で
中に魚が住んでいる
という夢
をみている魚が居て
自動改札機の水槽を
....
岩陰に隠れた巨きな手
陽に染まり さらに隠れゆく
灰緑のなかの金のうた
岩めぐる径をすぎてゆく
もとのかたち
もとのかたち
ひとりの子が抱く
壊れたかたち
....
四月一日に
まともな嘘をついてこなかった
嘘だったらいいのにと
そんなことにばかり出会って
人を驚かせて
笑わせるよりも
自分が驚いて
今日まできてしまった
笑いの効能が
希望につな ....
細くやわらかな毛氈が
鳥の道に触れてゆく
夜の上の朝
光にじむ日
猫の幻が五つ
壁の幻を視ている
街が眠るまで
会話はつづく
冬が招く冬の道を
影に刺 ....
三角フラスコで
コポコポ
何度も抽出した液を
スポイトで一滴
ポトリと額に垂らしたら
私はぬるりと溶け出して
ぐるぐる機械から絞り出され
滑らかなソフトクリームに
生まれ変わってい ....
ムリーの病名精神病
学がないから自分でつけた
ムリーは黒目がちで夢見がち
素敵な王子様と心中したい
でもいつだって叶わない
ムリーの全てはむり
長女マリーは勉強家
次女ミリーはしっか ....
ぼくは沸騰するスープである
ジャガイモが崩れていく
ぼくは真っ赤に茹で上がる毛蟹である
苦しさに前脚を伸ばして泡を吹く
底から熱せられていて
二重の蓋がかぶさる
重くてもちあがらないで ....
この秋のあまりの美しさに 歩みを止めてしまった友よ
色づいたけやきの葉を透かして やさしい光が
おまえの大きなからだをつつみ
少し眉を寄せて 落ち葉に埋まった足先を見つめながら
一人思いを ....
降り続いた氷雨の残り香と
幽かな血の臭いがたちこめる
その日の屠殺小屋は静かだった
赤い肉がまだ少し残された
一頭ぶんの、豚の外皮だけが
壁にだらしなくぶら下 ....
月を{ルビ齧=かじ}る
空に凍てつく月光を
画鋲を摘み取るように
指の合間にひょいと挟んで
口の中に含む
すると世界が暗くなり
おまえの喉は冷たく燃える
噛み砕いた光は 食道を這い下 ....
松の葉を踏む
鴉が
踏む
影の波
何の影か
わからない波
半分の鏡に
すべてが映ることの歪み
弦の音
空に昇る昼
ただ昼のままの昼
昼の昼
放る ....
昨夜の口喧嘩の
後始末もそこそこに
降り止まない雨の中へ
ぼんやり歩き出す
昨日より重い靴底
視界に覆い被さる雨傘
押し黙ったまま濡れる自転車
舗道にすがりつく安売りのチラシ
....
ぼくはいつも
あおい国を探している
仕事場へ向かう朝の舗道で
灰色の敷石の
一つ一つの継ぎ目から
あおが立ち昇る
草原の朝露たちが集まって
小川になり大河になって溶けて行く
....
はじまりは喉笛で、下から上まで続く階段が蜷局を巻きながら地球を埋めているときに、経血間際どもの血みどろは表される。
よくわからない管の奥から送り込まれる液体の炎がじゅうじゅう鳴いていて、ちぎれそうな ....
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