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いつもすでに記憶だった夏の日に
俺は裸体を晒した少年少女達と
沖合を鳥が群がる海を見たかったが
だれひとり気付かぬうちに
海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた
熱気だけが渦巻く無音の嵐に ....
言葉なんて要らない
あんなにも人を動かす言葉なんて要らない
街のさびれた一角の
小さな自転車屋の店内で
カンカン音を立てながら工具で自転車を直す
あのおじさんの鋭い技術が欲しい
....
薄暗い博物館の
階段下 脇
上半身だけの
腕組をした文覚像
その見開かれた眼
その視線の先には
首無き骸の袈裟御前
聞こえぬ絶叫の声と
絶望の表情
何思うか苦悩と ....
「お父さんは、いつもむっつりしてたけど
家族は結構大切にしたんだよ。
日曜日の度に色々なところへ
連れて行ってくれたんだから。」
週六日精一杯働いて
やっと巡ってきた休日なのに
....
生前の祖父のことをよく覚えてはいない
祖父はわたしが物心つく前には亡くなっていた
抱かれた話を聞いても
、抱きおとされた怖さを聞いても
、色の剥げた写真に並ぶしわくちゃな姿だけが写る
....
汚染された少年は
灰だらけの翼を広げて
身を抱いている
汚染された少年は
ろくでもない世の中から
隔絶されたいと願っている
心が血を流し
私は気を失いかけ
果てのない悲しさに
果てを ....
かなしい
かなしい
のはしかたがないのだから
オレンジいろの実を植えよう
ひとつぶ
白い蝶がまい群集がなあに?あれはなあに?
ととう
ただしがきに埋めこまれたコスモスばたけの
....
このしどろもどろっぷりは
階段を上るたび
右足だっけ左足だっけと
迷って
足が
しどろもどろ
お通夜で
名前を書くには書けたけど
震えて筆がキャップに入らず
手が
しど ....
ゴロツキおじさんは混乱した
自分がどこに居るのかわからないから
ここからどこへも動けない
あの日々こそ 本当だった頃の最期で
今はおまけみたいなものなのだ うん
くっきりと秋の匂いが ....
徒歩五分で海
という環境で育ったわたしは
ただ鈍感だった
ひどく夕陽が眩しく
一日の終わりを告げる焼けた空が
ひりひりした匂いを連れてくる
そんなものだと思っていた
その空もあの ....
荊の洞
乳白の土
夜から径へ落ちる光
水へ水へ分かれゆく
腕ふるごとに
曇呑む曇
刃を振り下ろす
粉の光
風はふたつ
夜を透る
忘れた言葉
積もる ....
【飛行模型】
露草の花は ひかりをうけて翼のようだから
おだやかな 面もちで 飛び石を踏み外さないように歩く
縁側で 竹ひごが 飛行機雲のように しなやかにのびている
そのなかでも ....
わたしの砂浜、波打ち際に
いちばん美しい波が寄せてきたころ。
月の腕にあやされた赤い花花の
うっそうとした香りは風にまかれ
わたしの刻んだ足跡も
すっかり消えてしまった。
雨が ....
人は必ず
先人の犠牲
弱者の犠牲
多くのものの犠牲
その元で生かされている
人は往々にして
日常に埋没してしまう
はらりと剥がれ落ちてしまう
見失ってしまう
怠惰な自分に気付 ....
小学校の新学期のような香り
ニスの塗っていない木晒しのカウンター 両サイドに詩人
木漏れ日は蝉の亡霊と小春日和 ぬくぬくと光は木霊する
カウンターに座り 両サイドに詩人 語りを始める
....
今日プリンタのトナーカートリッジが届いた
いま遣ってるMacにトナー残量警告のダイアログが出たためだ
用紙も少なくなっていたので5,000枚を箱買いをした
それは明日も書いたコピーをプリンタ ....
夕焼けは空全体が燃えることだった
そんな日々からずいぶん経って
いま夕空のどこを探しても
みつけられない六歳の空
大人なのに泣いている理由がわかって
こんな場合にこの気持ち
どう切り替 ....
駅前に
アーケードの架かった商店街がある
八割方の店舗はシャッターが下りた状態のまま
今やその役目を
郊外型の大きな店舗に奪われてしまった
下野薬局の前の
排気ガスで煤けてしまっている ....
君の絵の具に赤色はなかった。
赤い色をいち早く使い切ったわけじゃないみたいだった
新品の絵の具に
赤い絵の具だけが入っていなかった。
美術の時間 色面構成で、どうしても赤い絵の具が必要だっ ....
こがね色の岩の洞
居ないものの影が映る
葉より上に浮かぶ捕食者
傷のように緑を焼く
骨と星 骨と星
白紙が白紙に落ちる距離
昇る泡のなか
線を描いて
猫 ....
傾いた径を
傾いた柱がなぞり
森を巡り
坂を下る
傍らをすぎる見えないかたちの
わずかな動きにひかるもの
夜の端
夜の痛みを照らすもの
枝から枝へ雨 ....
森の音楽家が奏でるピアノを聴きに行かないか。
それが僕のプロポーズ。
愛する君へのプロポーズ。
君が優しく微笑んでくれたら良いのだけれど。
森の美術館の香りを堪能しに行かないか。
こ ....
星からおちた小さな人が 走る
走れることが ただ 嬉しくて
他の子たちが小さな人を 追いかける
笑いながら走っているから 追いかけたくて
星だったころだって 走っていた
回れ ....
伝言はない
ただそこに ティファニーのシャーベットグリーン
メッセージはない
ただそこに 蒼のレンズを外した 自分史の空の色
云わない
ただそこに オーラの触覚を挿したオパールの花 ....
コーヒーをひと口飲むと
下腹部に非常に強い便意が襲ってきた
そう言えば今日は朝方から
何となくお腹が妙な具合ではあった
この店では駅構内のトイレに行くしかない
けっこう遠いんですよこれが ....
真夏の青空を
吸い込む
くちびるから
生まれる蝶の
羽根の色は
南太平洋の耀く
海の色よりは
ずっと淡く
抜けるような天空の
青空の色に近い
在りし日の情熱からは
傍らで誰か ....
妊娠が発覚してから
私は毎日キャベツばかり食べている
サクサクサク、とリズムよくキャベツを切っていると
必ず亡くなった祖母を思い出した
統合失調症を患っていた祖母は
財布から母が金を盗んだと ....
闇を切り裂いて走る稲妻に
たたき落とされたトカゲが岩礁に絡まれ
つぶされて息絶えようとした日
不規則な潮の流れに珊瑚の枝がきしみ
剥離した細胞から芽生えた
悲鳴が海を漂い やがて群れて渦 ....
【ジェンダー】
そのひとらしさ
家族のまえで
社会のなかで
自分として
どんな役割をになえるのか
女性らしさと母親像は相反しないか
男性らしさと父親像は相反しないか
ひとつしか ....
思い出を一番から五十六番まで
USBメモリに移動して
一息
私のディスクは空(から)になる
空(から)になった空(そら)に
星が一粒
もう一粒
繋がって
絵を描く
尺取り虫が
一歩 ....
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