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街の本屋さんで
握手会をした
テーブルを一個出して
ぼくはぽつんと座っていた
なんの垂れ幕もなく
司会者もいない
道行くひとは通り過ぎてゆくばかり
交差点の信号が変わるたびに
秋が ....
いつかきっと
そんな先のことはわからない
いままでもそうだったように
未来を確実な強度でたもつこと
そんなことは一体誰ができたんだろうか
過去に二回結婚を約束したりもした
それ ....
君が記憶の裏庭で
水浴びを楽しんでいる間
僕の記憶の天井は雨漏りで
傘の中、数えきれない雨粒を
指折り数えている
頭の中にはいくつかの泥濘が作られ
天使が次々と身を投げる
それを手 ....
私は、水没した一つの古代都市、
そしてその記憶を、子宮に、抱いて
産み落とすための機関全体の名前
私は副産物、男が生み出された後に
破棄された一つの悲しみ
悲しみは退屈
椅子に座ったままの ....
夜、すべての列車が
運行を終えたころ
駅にしんしんと
ネジが降り始める
駅舎の出入口や
線路に積もったネジを
当直の駅員がネジかきをする
やがてネジは止み
夜明けにはすべて溶けて
....
目の奥がずんずんして
とても眠かったが
夕方の電車に乗って
町に向かった
子供の頃
縁側に
本箱が置いてあった
陽がたっぷり差し込み
田んぼや
小川や
遠くには山も見えた
....
バス停に佇むやじろべえがいます
いくらバスがやってきても乗ろうとせず
バス運転手たちの間では有名な話です
水族館にマンタばかりを眺めているやじろべえがいます
あまり手を大きく広 ....
あなたを
埋めてしまわなくては
なりません、突然の雨に
暴風に、雷に
あなたが苛まれないために
土深く埋めてしまわなくてはなりません
スコップに土をすくい、 ....
十月の豊かな光が
いつもの駅前
喫煙所のボックス灰皿のあたりに
私が待たせている
ひとりの女の額のあたりに
しっとりと落ち、
浸食するように広がる
....
星には
たどり着きえぬことを
受け入れたところが
はじまりであるはずの
命です、だれも
おそらく
涙をこぼすな、
とは申しませんが
絶望するような眼差しで
星を見上げることは ....
千年の紀憂の後
青天の霹靂
四月--最も残酷な月を経て
「日常」のここかしこにぽっかりと穴が開く
....
線路内に飛び込んだイメージは
本能のしなやかなスプリングにより
ひといきに放り出される
ポップアップ式オーブントースターで焼き上がった食パンのように
こんがりと軽やかなトラフィック
....
ムーンライトは首を傾げ
夢見る素振りの、ああ、や、いい
や、うう、などを零した
静寂には幽霊は溢れ そこから見渡すかぎり
幾つかの季節を駆け回って眠った
....
かいていのえきで
でんしゃをまっている
ホームにはだれもいない
ときどきだれかくるけれど
いつもきまって
うえのほうにうかんでいく
このごろは
でんしゃもくるようにな ....
猫よ
おまえは邪魔だから
どこまでも流れていってしまえ
そう言うと僕は
ギャアギャアとあばれる君の飼い猫を
便器に放りこんで
「大」のレバーを回したのだ ....
* そよ風が 頬とカーテン 撫でて行く
夜になると 気温もグッと下がって
汗だくだった身体も
少しダケ 涼を 取り戻すけれど
ピタッと張り付いた シャツは 脱げない
サラっとした ....
数々の産褥の果てに成就した呪いを包みこむように祈る赤い赤い
赤い世界に枯れ葉の落ちる落ちる腐り落ちる
嘆きのキスを吐き出して誰かに抱かれにゆくそれは
埋める埋め続ける腐り落ちる祈りはうずめる
....
空いた
椅子の上には
ゆうぐれが降っていて
絵描きになれない風たちは
せめてもの代わりに
言葉を混ぜて
去っていく
取り残された場所に
おそらく施錠は
必要ない
....
自転車で
スローダウンして
見上げた初秋の青空に
アオスジアゲハ
自然にまかせて舞おうとする
あなたのようだと思う
今朝気がついた秋は
褐色の落ち葉
乾いて道端に身を寄せ合って ....
フェンスがどこまでも
長く続いている夏
午後、知らない所で
知っている人は逝った
乗客も乗務員も置いて
青い列車は海に向かって出発する
座席には誰かが忘れていった
大人用の眼 ....
わたしが うたえるのは
あなたが ここでねむっていてくれるから
その細くあたたかい寝息が
わたしの血を走らせて
うたいたい
うたいたい
気持ちにさせてくれている
東京のはずれ
今日 ....
明け方
碇は頼りなく
右奥の石臼が
歯軋りのように現実を粉砕する
わたしは急須の中で
丁寧に開かれているようにみえて
何層もただれていて
歯をくいしばって
《七歳のF》
....
6月の中旬
いつもと感じが違うメールがあった
いつもだったら
<いまおきた>だったのが
<いまおきましたよ>だった
ぼくは勝手にひどく傷ついて
それから
<〜 ....
水か影かわからぬものが
器の底を囲んでいる
円の一部を
喰んでいる
またいつか会おう
会うより速い別れを
くりかえし
くりかえし
見えると見えないのはざ ....
膝の上の猫
まるで愛おしい生き物でも見るような目で
わたしを見てにゃーと鳴くの
通り雨降る、夏の午後
その視線を
すり寄ってくる体温を
振り払いたくてそっぽを向いた
うっとう ....
みずうみへ
冷蔵庫から取り出した氷たちを口いっぱいにつめこんで走った
夏休みのティーンエイジャーはただただ暇だったのである
ウェディングドレスは溶けだし足手まとい管理職就任
主人はストーカ ....
誰もいない夜明けの街を
少年が黙って自転車をこぐ
真面目に呼吸を続けながら
サルは今も進化と退化の中を
死にそうになりながら
生きているころだろう
エロい身体をした僕は ....
【アカマきつね】
そのお社は
今は大きなスーパーの駐車場になっていて
たくさんの乗用車が窮屈に並んでは
ふうふう息をついています
(アカマきつねです)
蝉の声が木々に焼き付く田 ....
ペットボトルで
金魚を飼っている男が
近頃は断水が多くて
ままならないという
言いながら口をつける
そのボトルの金魚が
今飲まれるか
今飲まれるか
気になって仕方ない
六十六年まえの今日
セミが朝からの暑気を鳴いていた
あのひかりや
爆風や
炎熱の地獄のなかに
どうしておれはいないのだ
六十六年まえの今日
いまのおれのよ ....
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