入院しているとき
面会に来てくれる人がいる
心も体も勢いよく元気になる
廊下のホスピタルアートが
患者も面会者も看護師も癒される
楽しく会話できれば
気分が前を向き
その日一日笑 ....
落ちた種子に涙を注ぎ込み、密やかに膝を折る。
ひびわれの地は 琴の穂か 柔らかな過去を歩ませり
歌声と揮う、ざまざまの、
綿毛の行く先を決めるものは誰とでもなく
崩れたこの牙城に選って入っ ....
宙に浮かぶ石畳を、
鼻歌交じりにスキップで駆ける
両手には、憧れだったパピヨンを抱えて
マーブル色の新しい靴からは真っ白な羽根
そうだ、今僕は、天空のスタジオに向かっているんだ
....
田畑さんにお昼を誘われたので、一緒に食べることになったのだけど。
「田畑さん、こっちって、屋上? 屋上は鍵しまってるよ?」
いいから、いいから、と手招きして、僕を呼ぶ。
田畑さんは、ちょっと鍵に ....
あそこで泣いているのはちいさな風の音
あそこで笑っているのもちいさな風の音
草の根分けて風の根わけてくる 風の音
風の子らが草の根わけていく
茂みや屋根を踏み鳴らしていく
坊やの手に ....
窓ぎわの一輪挿しに
雲の合間から洩れた光があたる
人の群れの片隅に
置かれたままの孤独には
今にも途切れそうな蛍光灯の橙色が
仄かにあたっている
本棚の蔵書の間に
あなたに書いた ....
心に内在するもの
得体の知れぬもの
そこはかとなく薫る
詩情の様なものを
感情と気分と感覚を通し
濾過抽出した言葉で
文字に変換して現す
斜めから覗いたり
歪めては伸ばし
また縮める ....
鳥たちの声が響き渡れば静かに夜が明ける
聴き取れない信号に、眠りは妨げられている
馬鹿馬鹿しいと笑えば笑うほど、泣けてくるにつれ
人の声も次第と嫌いになってくる、御時世の宵
....
四角いガラス面をするすると撫でますと
指先は青く黄色く染まり
眼球は吸い込まれ
奇妙に近く感じます。
錯覚でしょうか。
いつもすぐそこにいる気がするのです。
だってあなたの朝ごはんも晩ごは ....
新型コロナに侵された日常を
静かに、掘り下げよう
自粛する日々から
できることを、探りだそう
人類は、私は
〝初心〟を久しく忘れていた
ひとつ屋根の下
三人と猫一匹で暮らす、 ....
今宵、
白い部屋に
在るもの在るもの
自らの輪郭を鮮明にして
回流する澄み切った夜の空気に
すっかり馴染んで留まっている
横たわっている私もまた寛ぎ
在るものたちと繋がり合う、
揺るぎ ....
たれさがりが奇麗だね
魚竜の鰭の一夜干しかと思ったよ
春のおわりを
そしてそれは夏のはじまりを
予感させる
夜の漆黒の稲光
瞬間を狂喜する視覚野
「あのっ すみません」
それは大き過ぎる声だった。朝の慌ただしい駅構内はもちろん人でいっぱいだったが、そんなに大きな声を出す人はいなかった。しかしそんなに大きな声だったにもかかわらず、振り返る ....
いっせいに死んでいく
わたしたちのかけらというかけらが
ただひとつの空という造語をめざして
ふりつもっていく
こんなにも無関心な
あなたたちの静脈が
すずしげな顔でわらべうたを ....
天上の下
長い棒の先で
赤い皿をくるくる回す
バランスを取りながら
回る力のある限り
右から左へ
開いた扇にも
人さし指にものせて
終わりに気が済むまでトスをする
のが
会話の ....
ーこんなところ欠けていましたっけ。
机の脚の角っこが欠けている。その人は不思議なものを見るようにその欠けた部分を見る。いつから欠けていたのだろう。机の脚の角っこが木の目に沿って少しではあるが欠け ....
また来ると残る香りとひとすじの髪ひろい上げ皿冷える朝
またいつか近いうちにと笑うきみ会えたことなし会えるコツなし
陽光に香りかすかに消え残るうつし枕に顔埋めた跡
部屋に帰ると
カエルがのりのりでダンスしていた
俺のヘッドフォンまでしやがって
ユーチューブでマドンナとか聞いてやがる
カエルのくせに
カエルの趣味が自動でお勧めされるのか
肩を落とす ....
形のないもの
捉えどころのないもの
けれどとても大切なもの
淡々と確実に
過ぎ去るもの
私の腕をすり抜けて
青空に溶けてしまう
大事な人も一緒に
連れて行ってしまう
どんどん遠く ....
[銀波]
あおじろいいのちが
誰かの胸にともる頃
あなたの耳のなかに
夕暮が入りこみ耳の
中で星たちはしみわ
たる水の音を聞き入
りながら瞬き始める
[tears] ....
イタドリ
への呼び掛け
イタドリ
からの応答
脳内に再現を試みる
すると現れる
囚われる
熟語
観念
の
繁茂
群生
侵攻
旺盛な生命力
厄介者
文字を消去して ....
北の地を放浪しても
得るものは老いた馬の
澄んだ瞳だけだった
若駒とともに嘶いたが
そのように走れなかった
鞄をひらきぶち撒けて
夢も希望も熱狂も棄て
敗残兵なりに鞄は軽く
....
ふるい嘘を すてた日
体が軽くて
歩きにくかった
曲がっても曲がっても
曲がり角
街はらせんに伸びつづけ
かわいたパン くらいの
気持になって
飛び降りるとき
空は
わ ....
公平と平等
当然ある筈のものがなかった
肝心な人の命を計る物差しにさえ
公平と平等に目盛りが刻まれていなかったと
思い知らされた
それぞれの人には
それぞれの値札がついていて
....
長すぎる夜に
ほんの少しの朝のきれはしを
しのばせておく
ばらばらになった風景が
夢のなかでぼんやりと
それでも一つに結び合おうとすると
空に向かって曲がりくねりながら伸びて
その先で開 ....
衣のすれる音がする
明け方の雲にうすく
細い、オレンジ
つまびらかな膚に
そそいで
横目にそれて
意味もなく
十字をきって
さかさまに
花束を放って
その線上にさいごの
星が ....
雛鳥の
巣を抱くような
恋をして
心臓を
貪るように
交わって
雪の降る
街で
そっとお別れを
そんな
お伽噺のような
時を過ごし
漆黒と
戯れる今は
孤独 ....
雷鳴
地面を走る
わたしの怒りの様な
空は暗い
まだ眠るあなたの知らない内に
わたしは走る
怒りが走る
バターのように
じんわり溶けた
国
融和かな
消滅かな
さしも発酵熟成は進み
腐敗か食べ頃
収穫する葡萄を初手からかびさせる
貴腐ワイン
甘く甘く舌鼓
果たして国と ....
強い潮風にあたりながら薄味な浜辺を眺めていた。
縦から水平線へと、スマフォの向きを変化させてはシャッターを何枚か切った。
岩をくり貫いたトンネルを抜ければ岩場がある
使われない海藻が密集 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37