夜汽車の音を聴きにいく
眠れぬ夜のなぐさめに
長く尾をひく汽笛
行く人のさよならのように
旅のゆくえを指し示す
線路のむこうは闇に溶けている
行かない者のさみしさを
私はぼん ....
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人はみな心の中に
自分の花園を持っていて
色々な花を育てている
私は一つの花壇に飽き足らず
ネットを彷徨い
この花園を見つけた
私 ....
さよなら
と言いながらつむじ風
くるりと巻いて
さよなら
ともう一度
こんにちは
とは言わないで
何度も
何度も
さよなら
止まらない銀河鉄道
開かない窓からアンドロ ....
季節が
ずい分かわってしまって
空はかなしい
部屋のなかには
あなたにあげられなかったものばかり
散らばって
真ん中に
あなたのかたちの不在がのこる
扉のむこうはひかっ ....
春に生まれた掌が
今 燃えている
血管に赤い血をめぐらせて
秋の沸点はとても低い
燃え尽きたあと
何もつかめないまま
地に落ちる たったひとつの
例外もなく
執着もなく
燃え ....
消えた家族のその後は誰も知らない
あのあたりの地主だったという 長男が
次々とこさえた借金を返済するために
土地を売り飛ばし とうとう最後は自宅まで
手放したらしい
跡地にはマンションが ....
わたしのなかに泣き女が棲んでいる
彼女はただ静寂なかなしみだけの世界にいる
声も持たずに泣いている
泣くという行為が彼女の全てであるように
花よ、咲くなと泣いている
花が、咲いたと泣いている ....
友人からのながい電話を受けていると、耳もとで言葉がばら、ばら、と雑音のように崩れていく。夜。夫は仕事のあとに飲み会があると連絡をくれた。冷めてしまったスープ、かたくなったパン。きのうやっと出してきた、 ....
1)たくてんが消えた夜
「さるソハ」 (ひんほうにんの家)
老爺: このくそ母あ、汎飯に猿ソハ足す奴かあるか。
老破: くそ死屍い、人並みに枷い手から聖托言いな。
中年嫁: お示威ちゃ ....
引越しの朝は
言い換えれば
旅立ちの朝
窓を開ければ梨畑が広がる小さな部屋であった
季節が巡れば白い花が再び咲くことだろう
春の雪のように
ほんの仮住まいといえ
思い返せば数年の愛着 ....
秋の海が荒々しく呼吸する
うねる波 遠く水平線の少し上に
厚く濃く垂れこめた雲また雲
ただ一人歩く砂浜は
自らの心象を行くよう
波に打ちあげられた貝殻や
流木のような言葉を拾いあげては ....
*
短詩が感覚的に合う。一切の説明は不要。そこにある存在を描写し配置することで無を表現できる。もともとそういうふうに存在を見ているのだから。読者の思い込みに付き合う気はないが、思い込みの底に届 ....
(春の午後)
日曜日と自転車一台をここに置いておきます。
あとはお任せします。
(シーン3 路上)
「・・・・・」
「・・・・・・」
月明かり 猫二匹
....
だくだくと環椎の音よっぱらい
木枯らしに土産を置いて父の夜
ネクタイは符丁の小切れ今何本
新橋のあれは夜汽車よ過去へ発つ
未明の背汽笛響くか耳着けば
少年の頃は機関士そらにかぜ
回る 回る 回る廻る 廻る廻る廻る転る
転る転る転る 回る 回る 登る 登る の
ぼ る 降る 降る 降る降る降る降る降る
回る 廻る 転る 転る転る 回るまわるま
....
横向きで寝る
いっさいの灯りを消しても
消せないものが浮かんでくる
まぶたを閉じても
眼球が光のない世界で動くように
スイッチを切ったつもりでも
同時にもうひとつのスイッチが押されている
....
おやすみなさいと
私の周りで泳いでいた言葉の魚たちがささやく
まるで百年の眠り姫の林檎のように
私が初めて口にした小魚は母の胎盤の中
臍の緒に繋がれて
息遣いの音と共にやってきて
生き ....
契約社員の給料は安い
だからアルバイトも必用になる
午前四時前 朝刊配達に出かけると
山のふもとの住宅地
時折いろいろ見かけるが
エゾシカを見たのは初めてだ
角ある雄と雌のつがい
街 ....
ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。
植物の方が、動物よりもなじ ....
ともだちの家と二軒ぶんのごみだしたから
朝からくたくただって君が言う
今日はお昼から仕事だって
僕は朝帰ったばかりで残り物でご飯をつくっている
刻んであった大根とキャベツをつかう
....
{画像=121014170013.jpg}
遠くから聞こえてくる音楽
幾つものの輪が拡がって
自分の心のどこかで繋がっている
初めてスキップをした時、
いつだったんだろう?
....
シュッと宙に向けて突き出した切っ先が
目に飛び込んできた
暗い展示室にひときわ輝く一振り
研ぎ澄まされた刀身が
強いスポットライトを跳ね返して
銀色の光を放っている
思わず吸い込ま ....
母の作る
遠足のお弁当
いつでもそこには
りんごのうさぎ
黄色い躯体に
赤い耳
役に立たない耳の端(は)を
世界に
ぴん、とそばだてて
ああ
君がい ....
心が弱っているときは
余計なことが
(巧妙に隠された冷たさとか)
見えてしまう
それで勝手に
傷ついたりする
心が弱っているときは
余分なことを
(キャラメルのおまけとか)
....
遠い海を思う日
すべての手足が色あせて見えた
博物館に展示された金飾の棺のように
自我という幻が何かを閉じ込めているようだ
風化させるままに人生を問えば
その答えもまたかさこそと音をたて ....
なにひとつ最後までは
寄りそいきれなかったわたしに
あなたがいつものように笑いかけるとき
許しが
どれほど無意味なことかを知ります
あらゆるものが
どれほど無意味なことかを
....
出がけにかがんだ拍子に
傘立てをひっくり返してしまった
ありゃりゃ
傘の柄がポケットにしがみついている
学童用の黄色い傘
自転車通学している
中学生になった子供のものだったが
そうい ....
いつもMDのラフマニノフは家に帰ると鳴りっぱなしで乾いた道と渇いた人にちょっと疲れた心をなぐさめてくれるのだが。
現実派ではもともと無いのではあるが独りの家計はあらためて可処分所得の少なさをしっかり ....
信じられない、と言うのが聞こえたあとにもう一度信じられない、と言うのが聞こえたので私は礫(つぶて)になってしまった。弾けて路傍。鮮やかなつま先であなたが私を蹴り上げる。信じられないと言う声がまだ胸 ....
{ルビ月極=げっきょく}さんは資産家だ
日本全国に空き地を持っている
でも、どこに住んでいるのだろう
月極さんのお家がない
そう思うと、ちょっとかわいそう
パートさんになった
月極で働 ....
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