果物はみな少なからず官能的だと思うのだけれど、桃なんてその最たるものだ。たたずまいや、匂いや、舌触りや、もちろん味も。
桃の皮を剥くのって、肌を剥くのとも似ている。薄皮を剥がす感じ。熟れた桃の、 ....
このへやは
にしびがまぶしくて
とだれかがいった
だれかはもはや
ひとではなくて
それでもひとのつもりで
あるようだった
にしびだけが
つよくそのあたりを
てらし ....
雨は
縦からやってくるのに
雨のにおいは
横からやってくる
ボブ・ディランが
教えてくれた
「Blowin' in the wind」
その答えは
風に吹かれているだろう
雨 ....
かわうそは水をくぐる
水は瑠璃色に光り、水音は鈴だ
そう言うかわうそは嘘つきなのだ
かわうその棲家は荒れて、臭気すらただよう
かわうそは魚を獲る
餌はあふれるばかり手当たり次第だ
嘘つ ....
風通しのよい現場
ここからは池が見渡せて
石碑もある
ラジオ体操もある
小学校は半休
午後は快晴
資料館に人はなし
殺人もどこかのどか
夜になると
くるくると私は
私の皮をむく
くるくる くるくる
はじまりまでゆくといきどまり
ちょうどいいところでとめたい
なのにとめどころがわからず
くるくる くるくる くる ....
骨のおくに
しまっておいたのを
一瞬でうばわれた
根こそぎ
そのとき
愛って
おもったな
向日葵の陽に透ける風のゴッホかな
地震
崩壊
揺れ
一度は死んだという思い
希美子、幸司、靖司
混乱
信頼
マンボちゃん、知沙
揺らぎ
ターハイ
イッチャン、ニチャン、サンチャン
巻き込みあいながら
ひとつとし ....
寝て起きて食べて
時々ジンジャーエールを飲んで
また寝てまた起きて
繰り返しの中に潜む
倦怠と安心と拘泥
恐ろしくもあり
いとおしくもある
宇宙飛行船は
静かに飛んでいった
....
骨、骨、骨
みんな、わたし
うれしい
どこまでもとおくて灰色をしたへや
てのとどくあしもと、あたまよりたかいところ、みえるかぎりのむこう、そのずっとかしこに
まわりじゅうたくさん ....
めだまやきには
苦痛をともなうべきだと
たまごがやかれ
失われるのは
とりのめだまの
源
だった
きみとしろみとその他もろもろ
たとえられて
身のぎせいを
あじわっている
なんて ....
窓を開ける
雲が見える
昨日のことのように
上り坂を下る人がいる
解熱剤でも飲んだのか
郵便局の職員が
自転車に乗っている
あなたのことが心配で戻ってきました
と言う男がいて
へっと思った
あたしは
その男のことをそのとき初めて見たのだけれど
まるで ずっと昔から知っているようなふりをして
腰のあたりで ....
いきていることが
つみなのだと
ちちはいった
おまえさえ
いきのこればよいのだと
ぶきような
ちちがははにいった
わたしもちちににて
ぶきようだった
にもかかわら ....
肌を剥き
熱を忍ばせたら
恋になるとでも思っているのか
あの人なら
触れずとも
私を炙る
腐るぐらいに
抱えるほどに
桃を買って
浴槽に投げ入れる
熟れながら
毛はかたく
肌にするどい
桃とわたしの内側は
べたべたしてきている
朝顔が咲いていた
夏の日だった
もらい物だろうか
テーブルの上に
クッキーの缶があった
食べても良いか妻に聞いた
食べても良いと妻は言った
何事もなかったように
パトカーが ....
進歩ないってつぶやいたら
進歩ってなに と雲がきいた
同じ白で
私のよく知る姿で
きいた
進歩ってなに と
車の中で弁当を食べた
月曜日
そうすることが好きだった
女の間で染みつけられたような
いつのまにか 染みついたような 生活
人は何を探して見たことのない世界をさまようのだろう
....
夏空の四隅に黒い塊
そこからスルスルと四本の手が伸びてきて
かわりばんこに僕の首を絞める
だから僕は苦しい
あの{ルビ娘=こ}も僕のことが嫌いだってさ
そのひとが
どんな人生を歩んできたのか
二秒のすれ違いでは
理解できないかもしれないが
考え始めることが
何かのはじめ
漠然としすぎているから
ためしに
どういう風に髪を洗っている ....
乳房をすう、
くらげを、ほどいて、
山のような女の、
小指が歩く、
水の底は、
虹がかかり、
馬がめぐる、
足のない、
テーブルで、
首を吊った、
青空が、
しずんでいる ....
踏んでいく、
鳥のかげ、
貝の、ねむりを、
ちぎって、
また、
植えて、
海を、まぶして、
足もとへ、
ふとんで、
生まれたての、
両親を、
ジュゴンのように呪って、 ....
小学生で
ざりがにを釣ることを
おぼえるために
川ぞいへ
連れて行かれる
えさとかばしょとか
理由はよくわからないけれど
釣果には差が生まれて
移動をしても
変わらないものは
....
植物群が眠っている
僕の知らない言葉の中で
息を吐き出すように
近所の商店街は
ゆっくりと潰れていった
帰りたい、と父が言う
他にどこに帰るの、と母が言う
帰りたい、 ....
晴れわたるほど影は濃く
それにかくれて口づけた
陽のもとでなく
影の落ちる場所に恋はあったね
深夜の営業車の中で
タバコを吸い尽くした日
君からの声
どこで自分を描けばいい
コンビニで雑誌を手に入れた
馬鹿が微笑む
それは見事に
芸術品の様に
きらり美しく
馬鹿が微笑む
そんな馬鹿を羨む
微笑むのは苦手だ
いつだって苦手だ
何も感じられない
と言ってはみるが
表に出な ....
せみがいないとおもったら
いないのは
せみだけではなかった
それではなにが
いないのかとおもったら
せみだけのようなきがした
せみだけをおぼえてる
ひぐらしの
かな ....
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